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かつて起こった医学部不正入試事件 その当事者となった男性の現在

2025.03.19 公開

若者の将来を左右する大学受験。公平な選考が行われるはずの大学入試で、実は多くの医学部が不正な選考を行っていたことが明らかになった事件を紹介する。

2018年1月、ある男性が順天堂大学医学部の受験会場へ向かっていた。この男性は医師を目指して3回目の挑戦。国立の大学そして、私立の第一志望は順天堂大学だった。

当時、順天堂大学医学部を受験した人は4,000人以上。彼は手応えを感じていたものの結果は不合格。その10日後、センター試験を利用した入試方式で一次試験を通過したが、二次試験の英作文、小論文、面接を経て再び不合格となった。

男性は順天堂大学以外にも2校ほど私立大学を受験していたがすべて不合格。残るは国立大学だけとなった。金銭的にこれ以上の浪人は難しかったため、事前の模試で結果が良かった沖縄の琉球大学医学部を受験。見事合格を勝ち取った。

3年目にして初めての合格だったが手放しでは喜べない事情があった。この時、彼は33歳。結婚を予定していた彼女がいたのだ。北海道出身のこの男性は、高校卒業後上京し、都内の有名私立大学の法学部へ進学。大学時代に彼女と知り合い、付き合い始めた。その後大学で始めたバンド活動を続けるため就職せず音楽に励んだが、バンドは解散。それがきっかけで、医師だった両親の影響もあり、30歳で医師を目指して彼女の支えもありながら勉強を始めた。

彼女は東京の大手の会社に勤めていたため、彼が沖縄の大学に進学することになり、二人は離れて暮らすことになった。男性は慣れない土地で一人暮らしをしながら、医師になるため必死に勉強を続けた。

沖縄での生活が7ヶ月ほど過ぎた頃、あるニュースが飛び込んできた。それは東京医科大学の不正入試に関する報道だった。得点を操作するなどして女性の受験生や浪人年数の多い受験生を意図的に不合格にしていたというのだ。憤る彼だったが、この時、まさか自分の人生も大きく狂っていくとは思ってもいなかった。

その1ヶ月後、授業中に見知らぬ番号から電話がかかってきた。電話の相手は順天堂大学の職員。内容は「今年1月に受けていただいた入学試験の件ですが、実は合格していた」という内容だった。

東京医科大学の不正入試をきっかけに文部科学省は医学部がある全国81校の大学を調査。その結果、日本大学、福岡大学、金沢医科大学、岩手医科大学、昭和大学など、10もの大学が合否判定で不正をしていたことが発覚。その中に順天堂大学医学部も含まれていたのだ。

動揺する彼に、妻は「ほんとは沖縄に行かなくても良かったってこと?」と問いかける。「この後ってどうなるの?それって大学のせいなんだから、転校とかできるんじゃない?そしたら東京で一緒に暮らせるのかな」と伝えた。

各大学はこぞって謝罪会見を開いた。そして男性に電話があった前日、順天堂大学医学部も記者会見を行っていた。

記者からの「今回の不正によって、医学部に入学できなかった受験生は何人いたのですか?」という質問に、学部長は「24人です」と回答。「全員女性ですか?」との問いに「男性が1人だけいました」と答えたが、その「男性」こそが彼だったのだ。

さらに「その男性が不合格になった理由は?」という質問に学部長は「浪人年数です。あと...特殊な事情がありました」と述べた。「特殊な事情というのは?」と追及されると「詳しいことは控えさせていただきます」と答えを濁した。男性は面接での様子を思い出し、就職せずバンド活動に没頭していたことが良くなかったのかと自問自答することになった。

妻が「夫が不当に不合格にされていたと連絡がきまして。詳しい事情をきちんと説明していただけませんか?」と大学側に電話。そして突然の合格電話から2週間後、夫婦で順天堂大学へ向かった。

「会見で仰っていた『特殊な事情』がどういうことなのか教えていただけますか?」と尋ねると、医学部長は「入学しますと1年間の寮生活がありまして、社会人経験のある方が、そこに馴染めるかどうか懸念しまして...」と説明。「寮に馴染めないことが特殊な事情...?それで不合格にされたということですか?」と聞く男性に「いや、まあ、それだけではないのですが...」と大学側ははっきりとは答えなかった。

さらに「そちらの都合でこうなっているんですから、それなりの補償はあるんですよね?例えば転校のような」と妻が問いかけると、「そこは、一般に合格された方と同じで、何かしらの補償をするといったことは考えておりません」と、本来発生しなかったはずの沖縄への引越し費用、約1年間の生活費、授業料などの補償は何一つないと言う。

曖昧なままの「特殊な事情」と報じられ、まるで自分が異質な人間のように捉えられたことに男性は傷つき、何よりも、本来東京で妻と暮らせたはずの時間は戻ってこないことが許せなかった。

そして二人は弁護士に相談。男性は「やっぱり、自分が浪人生という理由で不合格にされたこと、あと『特殊な事情がある』と言われ、まるで自分が『普通ではない人間』みたいに報じられたことが許せないです」と答えた。
不当な差別で不合格にされ、さらに名誉を傷つけられたとして損害賠償を求め、順天堂大学医学部を提訴した。

民事裁判が始まり「原告が一般入試の一次試験で落ちた理由は何ですか?」と弁護士が問うと、被告側は「年齢を理由に不合格にしました」と回答。

裁判の中で、第三者委員会の報告書によって大学側の判定基準が明らかになった。男性が試験を受けた日、試験終了後に回収された答案用紙は氏名や受験番号にテープが貼られ、誰の答案か分からない状態で担当教員が採点を行い、誤りがないか複数の教員で確認された。ここまでは不正な行為は見当たらない。

しかし後日、一次試験の合格者を決める会議で問題が発生した。この年、一般入試を受けた受験生は2,045名。そのうち、一次試験の合格者数は約600人を予定していた。
会議には学長や医学部長、教授などが同席。「成績が1位から200位までは特別な理由がない限り合格にします。201位から300位の受験生の中で、調査書の評価がC以下は不合格にします。3浪以上の男性と2浪以上の女性は不合格で」と、合格ラインを満たしていても、浪人年数の多い男女は不合格にするという発言があったのだ。
このような基準は2008年頃には存在し、学内で疑問視する声は上がらなかったという。

男性の一般入試の一次試験の成績は216位で浪人年数は2年。基準では3浪以上の男性が不合格の対象だったので本来は合格ラインにいたはずだが、不合格だった。

「原告は2浪で、本来なら合格圏内にいたはずですが、なぜ不合格になったのでしょうか?」と弁護士が追及すると、被告側は「大学を卒業してから、医学部を再受験するまでの期間も浪人期間とみなしたからです」と答えた。大学卒業後の7年間を浪人年数とみなしたというのだ。

さらに、センター試験を利用する試験でも不正な判定があった。点数が同じでも男性は合格、女性は不合格になるケースがあったという。男性の判定については「原告は合格基準を満たしていなかったのですか?」という弁護士の問いに「いえ、満たしていました」と被告側は認めた。結局、大学側は裁判でも彼が不合格になった理由をはっきり言わなかった。

裁判を始めて約4年、判決が下された。「浪人年数を理由に、不合格判定を行ったことは違法である」大学側の違法行為が認められた。私立大学は原則として入学者の選抜に裁量が認められているものの、憲法や学校教育法で年齢や性別などで差別することは禁止されている。今回の合否基準は、裁量を逸脱していると認められたのだ。

名誉毀損に関しては「記者会見で『特殊な事情』があったとする発言は、原告の人格や経歴、思想などに問題があると抱かせる可能性があり、原告の名誉を傷つけるものである。よって、今回の発言は侮辱行為に該当する」と認定された。こうして順天堂大学医学部に対して、損害賠償として約181万円の支払い命令が出た。そして、男性と同じように順天堂大学を提訴していた女性13人にも、計約805万円の支払いが命じられた。
その後順天堂大学医学部は翌年の入試から、浪人年数や性別による不合格の基準を廃止した。

現在、研修医1年目の彼は「心に傷を負っている人の助けになれたり、精神科医になれたらなと思っています」と将来の展望を話してくれた。さらに彼は、音楽活動の経験を生かして、当時の悔しい思いをラップにして発信している。

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