子どものために…自覚ない圧力と支配 誰にでも起こりうる“毒親”の実態とは?
子供のためにと思った行動が、いつのまにか「毒親」になってしまうという事例を再現ドラマで紹介した。
ある日、スポーツ現場の体罰の実態を数多く取材するスポーツライター・島沢優子さんのもとに、小学生の強豪バレーボールチームの監督が長年にわたり暴力や暴言を振るっているという内容のメールが届いた。被害にあった児童の母親たちに会うと、一人が「私ら、本当に毒親だったと思います。本当に…」と語った。
「毒親」となったきっかけは8年前。小学生の娘は地元のバレーボールチームに所属していたが、より高いレベルでやりたいと隣町にある全国大会常連のバレーボールチームに入った。監督は全国優勝も経験した指導者だったが、その練習は驚くほど暴力や暴言が飛び交っていたという。
激しい指導で涙する娘だったが、母も高校時代は強豪校で全国大会を目指しており、そういった指導が当たり前だったのだ。
娘は上達し、小学5年生で全国大会に出場。娘の成果を近所の知り合いから褒められた母は我が子を誇りに思ったという。
それにしても、暴力を含む激しい指導は子どもにとって問題はないのか?脳の専門家によると「強く叱られたり、恐怖感を感じたりするときに活動してくるのは扁桃体。扁桃体を活性化させるような指導はすごく心に残る。嫌なこととして残りやすい」という。扁桃体は本来、ある出来事で危機に瀕したときに活発になることで二度と同じことを繰り返さないように学習する機能を持っており、恐怖による指導が続くとそのスポーツ自体がトラウマ化してしまうことがあるという。
その母親は、娘の4歳年下の弟が小学生になると同じチームに所属させた。監督は小学校低学年の少年たちにも容赦なく暴力をふるった。母親は、これが強くなる方法で、これを乗り越えたら全国大会に行けると信じ、暴言を吐く監督から息子を守るより、息子を責めることもあった。
同級生の中には、チームを去る親子がたくさんいたが、母親は「あのチームで頑張ったら全国に行ける」と言い、やめなかった。
しかし、あるとんでもない事件がきっかけで、チームをやめることになる。
コロナ禍でバレーボールの練習どころではなくなったころ、息子たちの全国大会は中止に。監督は名声を得られる大会がなくなったことに苛立ち、子供たちにあたっているようだったという。
そして、本来であれば全国大会決勝だった日以降練習に来なくなった。
その3週間後、地方大会の開催が決まると当時のキャプテンの家をチームの関係者が訪ねた。練習に来なくなった監督が、気持ちよく練習を再開するきっかけ作りのために、子どもたちが土下座をすることを提案。
大人に向かって、小学生が土下座をする光景を見て、ようやく母たちは目が覚めたという。
彼らの子どもは、その日にチームをやめた。あの土下座によってショックを受け、4人もの子どもが適応障害と診断され学校に行けなくなった。
その後、中学生になった少年たちは、それぞれの環境でバレーボールを続けているという。
チームはバレーボール協会によって調査され、監督は活動停止処分を言い渡されている。
また、日常のささいな行動で子供を苦しめている毒親もいる。
周囲から見るといい関係の母と娘。母は几帳面できれい好き。そして、家事全般が得意な完璧主義だった。しかし、急に怒り出すことがあり、娘はそんな母に恐怖を感じて、いつしか母が笑顔でいる時間を増やすため、機嫌を取るようになった。
母は、娘の未来を考え、幸せな人生を送れるためを第一に真面目に厳しく育てているつもりだった。
母の管理はますます激しくなり、アルバイトが止むを得ず遅くなると伝えても許さず、携帯に電話を何度もかけ、アルバイト先にも電話をかけてくるほど。
24時間、母の監視下。自分が何者か分からないと考えるようになり、そんな感情をひとりで抱え込んだ結果、うつ病と診断されてしまう。我慢の限界だったななこは、病院に行くとうつ病と診断される。そんな中、本屋で目にした本を読み、苦しんでいるのは自分だけではなかったと気持ちが楽になり、彼女の心にも変化が。
ある日、母に一人暮らししたい旨を告げると意外にもあっさりと承諾。実は母も若い頃早く家を出たいという思いがあり、娘の気持ちを理解したのだ。自立し、母と距離をとったことでいい関係になれたという。
毒親との向き合い方について、専門家は「親に合わせていい子を演じ続けるという段階を終わりにして、本音を出す段階というのは必要だと思う。子どもの言っているいろんな怒りとか訴えとか悲しさとか寂しさにちゃんと耳を傾けて、そこに向かい合うべき」と語る。
子どものためにと思っての行動も、子どもにとっては大きな負担になっている場合もある。難しい問題だ。