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毎週火曜 よる9時00分~9時54分 放送

刑事に恋した女性の悲劇

2020.04.28 公開

今年、3月31日。
世界中がコロナウイルスに揺れる中、一人の女性が勝ち取った無罪判決。
逮捕から15年あまり…無実の女性が殺人犯になった。

2003年、滋賀県の病院。
ナースセンター向かいの病室に重篤な患者がいた。
定期的にタン吸引をしなければ命の危険があったのだ。

5月22日の4時30分ごろ…看護師と看護助手の西山美香が見回りに。
すると、ナースセンター向かいの病室にいた入院患者に異変が。

なんと脈がなく、心臓が止まっていた。
実は呼吸器はタンなどの異物がつまったり、正常に作動していないと大きなアラームが鳴る。
この時、そのアラームは鳴っていなかった。

駆け付けた医師が状況を聞くと…看護師はとっさに「呼吸器が外れていた」と医師に
ウソの報告をしてしまった。

実は医師からは2時間おきにタンを吸引するよう言われていた。
しかし、彼女たちの通例として、アラームが鳴ってから対処しても大丈夫という認識だったようで、この夜も2時間おきのタン吸引は行っていなかった。

そのことで動転したのか・・とっさにあのような報告をしてしまったのだ。

そして、心停止を発見してから約3時間後、男性の死亡が確認された。
その後、地元警察が捜査に乗り出した。

病院側は死亡後すぐ呼吸器を調査したが異常は見られなかったという。
故障でなければ、アラームは鳴ったはず…警察は困惑した。

翌日、司法解剖が行われた。
解剖医によると、遺体には死因となるような疾病は見られなかったという。

その結果、鑑定書には人工呼吸器の管が外れたことが原因となり、心臓が停止したという内容が書かれた。

これで看護師が居眠りなどでアラームを聞き逃した業務上過失致死の疑いが強くなった。

事件当日に見回りをしていた看護師はもちろん、医療行為を行えない看護助手の西山美香も隠蔽に関わっているかもしれないと疑われ、厳しい取り調べを受けた。

事件当夜、病棟には、西山美香や看護師のほか仮眠室で休憩していた別の看護師もいたが、だれもアラーム音は聞いていない。
捜査は暗礁に乗り上げたと思われた。

刑事の優しい言葉に心を開いてしまう

その1年後。
滋賀県警は県警本部捜査一課の刑事2人をこの捜査の担当にした。

2人の刑事は西山美香の取り調べを行った。
激しい口調で彼女を問い詰める…
すると美香は恐怖から、「アラームを聞いた」と言ってしまった。

その証言から看護師にも詰め寄る刑事。
しかし、看護師は刑事の厳しい取り調べでも「アラームは鳴っていない」と言った。

ここから、美香に対する刑事の態度が大きく変わっていく。
これまで厳しい態度を一変し2日に1回ほどのペースで呼び出し、優しい口調で世間話を繰り返した。

そして美香は徐々に、この刑事に心を開いていく。

1979年12月、三番目の子として生まれた西山美香。
彼女はのちに発達障害、軽度の知的障害ありと診断される。
美香の兄2人は勉強がよくできたため、いつも劣等感を背負って生きてきた。
そんな美香の話を、刑事は何時間も親身になって聞いたという。
そして…
美香「お兄ちゃんは頭いいから親に気に入られるんやけど、私はできひんから…」
つい、口にした自身のコンプレックスに対して、刑事は…
刑事「俺は美香さんも頭いいと思うで。ちゃんと勉強すればできるんちゃうかな」
初めて男性にかけられた優しい言葉だった。

やがてその刑事に…美香は恋心を抱いてしまった。
それからというもの、呼び出されていないにも関わらず刑事に逢いたいがために、警察署を訪ねることも。

そんな時、病院の関係者からあの看護師の状況を聞く。
厳しい取り調べ受けてノイローゼになってしまったのだという。

美香はその看護師が好きだった。
そんな人が、自分が言ってしまった「アラームを聞いた」という嘘の証言で苦しんでいる。

看護師にメールで連絡をとった美香。
すると、「私はもう誰とも話ができる状態ではない」というメールが返ってきた。

責任を感じた彼女は、午前2時に警察署を訪ね…担当刑事宛てに「呼吸器のアラームは鳴っていなかった」という内容の手紙を提出した。

しかし、この出来事を境にこれまで優しく対応してくれた刑事は態度を急変させた。

恋をしていた刑事に嫌われ、このままでは大好きな看護師も救えない…。
そう思った美香はなんと、「自分が呼吸器のチューブを外した」と言ったのだ。

これにより業務上過失致死事件が殺人事件へと変わる。
そして2004年7月6日…美香は殺人容疑で逮捕された。

それでも刑事を信じてしまう女性

美香が自分で呼吸器のチューブを外したとしてもぬぐい切れない疑問あった。
それはアラーム。チューブを外したなら絶対に鳴るアラーム音を誰も聞いていない。
警察はその辻褄あわせを探し始めた。

その結果、消音ボタンによってアラーム音を消せることを突き止めた。
しかし、それでは1分後にはまた鳴ってしまう。

ずっと鳴らないようにするには消音ボタンを押した後に1分数えて、鳴る直前に再び消音ボタンを押すしかないという。
だが、こんな方法は現場で使うこともないし、誰も知らない不自然な手段だった。

しかし、警察が考えたストーリーはこうだったと思われる。
呼吸器を外した美香は、すぐに消音ボタンを押し…1分をその場で数え…60秒になる前に消音ボタンを押してアラームを鳴らなくする。

これを計3回繰り返し、3分間酸素供給を止め死亡を確認した後にチューブをつなぎ犯行の痕跡を消すという極めて複雑な方法で殺害した、とされた。

一方、両親は美香の逮捕後すぐに弁護士に依頼。
弁護士は逮捕の2日後から接見を開始した。

美香は正直に話してほしいという弁護士に「本当はやっていない」と話した。
警察に流されて嘘の証言をしていることに気付いた弁護士は取り調べで誘導されても本当のこと以外は黙っておくように告げた。

後日、警察の取り調べで弁護士の指示通り何もしゃべらない美香。
するとその違和感を察知した刑事…その理由を美香から聞くと、再び優しい言葉で「弁護士ではなく、自分たちを信じてほしい」と伝えた。

困惑する美香。
接見禁止が出されたため家族と会うこともできず、弁護士と刑事のどちらを信じればいいかわからなかった。

その結果、美香が信じたのは…刑事のほうだった。

公判で否認するも…刑が確定する

警察が考えたストーリーにそった供述書が作られ、その書面にサインをしてしまった美香。

2004年7月28日。
起訴後、接見禁止が解け、両親とおよそ1か月ぶりに再会。
美香は、両親に刑事とのやりとりを話した。

あっけにとられる両親…。「その刑事に騙されてるんじゃないか!?」
そう言われ、美香はここで初めてそのことに気づく。
その後、彼女は裁判に向け殺していないと否認する意志を固めていった。

しかし、第一回公判の3日前…あの刑事が美香の前に現れた。
本来、取り調べた刑事が起訴後に会いに来るのは異例のこと。
美香が否認するかどうかの探りだったと思われる。

美香が裁判で否認をするつもりであることを伝えると、
刑事はなんと、「そんなことをしたら罪が重くなる」と言った。
そして自分の言うことを紙に書くようにと告げた。

その内容は「もし罪状認否で否認しても、それは本当の私の気持ちではありません」というものだった。

刑事に言われ、彼女はその通りに書いてしまった。

そして2004年9月24日。第一回公判。
動揺した彼女は裁判で否認できなかった。

数日後、心も体も憔悴しきった彼女は、死のうと拘置所に落ちていた針金を飲んだ。
しかし死に切れず…第二回公判でようやく否認。

それ以来、一貫して無罪を主張し続けたが…。
任意の取り調べにもかかわらず自白した事実から自発性が高いと、
殺人罪で懲役12年の実刑判決が確定した。

弁護士が決定的な証拠を突き止める

両親は、美香が人を殺すとはどうしても思えなかった。
そこで裁判のやり直しを求めて、弁護士を訪ね…2人だけで署名活動も行った。

12年にも及ぶ服役中、両親に届き続けた美香からの350通にも及んだ手紙には…“殺していない”と無実の主張が書かれていた。

だから両親は周囲の人に何を言われても信じ続けた。
しかし、一度結審した裁判をやり直すことは真犯人や確実な証拠がない限り極めて難しい。

そんな流れが変わったのは2012年の春。
1度目の再審請求を担当した弁護士が病に倒れたため、両親は別の弁護士に2回目の再審請求を依頼。

それが、井戸謙一弁護士だった。
井戸は2006年に日本で初めて原発差し止めを言い渡した元裁判官という弁護士だった。

依頼を受けた井戸はこれまでの資料をかき集め、目を通した。
そしてその資料を読めば読むほど疑問がわいたという。
最も不思議だったのは、解剖鑑定書。

男性の死因に疑問を抱いた弁護士の井戸は専門医に男性の解剖鑑定書を見せた。
すると、致死性不整脈の可能性が高いことが分かったのだ。

死因は不整脈…つまり病死。
まさに決定的な証拠だった。

逮捕から15年あまり…再審の結果は?

弁護団は新たな証拠をもって再審を請求。
裁判のやり直しを待った。

そんな中、2017年8月24日…美香は12年の刑を終え出所した。

そして先月31日に、大津地裁で「自然死の可能性が高い」と無罪の判決が言い渡され、
その後、確定した。

捜査段階の自白も、「警察による不当な誘導が伺える」と捜査手続きに問題があったと厳しく指摘した。

無実のまま12年間服役した、西山美香さん。
自分のことよりも、自分が嘘の自白をしたせいで両親を苦しめた事を後悔しているという。

番組では、今回の判決を受けて滋賀県警にコメントを求めた。
「無罪判決については、真摯に受け止め、今後の捜査に生かしてまいります」との回答だった。

再審請求を行った井戸弁護士によると、これまでには冤罪でも供述弱者が巻き込まれたケースはたくさんあるのだという。

今回の事件でも美香さんは虚偽自白を作るために利用された、だからこそ取り調べは弁護士立ち合いで行われるべきと主張している。

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