見栄を張りたくてついてしまった小さな嘘が…可愛い後輩の命を奪う
ある日女性の元に、大学生の孫から「毛布…頼む」 といきなり電話があった。心配した家族が彼のアパートを訪ねると、そこには風呂場で遺体となっている姿が。
家族によると彼に病歴はなく、現場では、お風呂に入る前にベッドで吐いている様子があったという。すぐに検視が行われたが刺し傷・絞殺痕はなし。他にも目立った外傷はない。
司法解剖の結果、肝臓から抗うつ剤と睡眠薬が検出された。睡眠薬は浴槽の水からも検出され、抗うつ剤の濃度は、過去の死亡例の3~5倍量が検出されたという。さらに、ベッドの吐瀉物からは抗うつ剤に加え、ネズミの駆除に使われる薬剤である殺鼠剤の成分まで検出された。
一方、事件現場には薬の包装シートや空き瓶、殺鼠剤の空箱といった本来あるべきものがなく、誰かが持ち去ったと考えられる。
警察は事件性を疑い防犯カメラを確認。すると、そこには亡くなった男性と仲が良いという友人の姿が。身元を特定し、事情を聞いたところ殺害を認めたその友人。
一体、2人に何があったのか? それは、事件の10年ほど前に遡る。
当時、犯人である友人は高校を中退し、地元のガソリンスタンドで真面目に働いており、人あたりがよくお客さんからも可愛がられ、年下の後輩には必ずといっていいほどご飯をおごっており、面倒見も良く優しい性格だったという。
だが、20代後半の時、男はガス壊疽というクロストリジウム属のウェルシュ菌など、
糞便や土壌などに広く存在する菌が、ケガの傷などから筋肉内に侵入し引き起こす感染症にかかり、右足を切断することに。
それでも後輩の前では気落ちした姿は一切見せなかったというが、10年以上働いたガソリンスタンドは辞めざるを得なくなってしまう。
その後、自宅でネットビジネスを始めたが、失敗したのか多額の借金を抱えてしまった。
そんな時、病院で出会ったのが亡くなった被害者の大学生だった。
被害者の大学生は、10歳以上年の離れた男のことを慕い、もともと面倒見が良かった犯人の男は大学生の前では「月に300万ほどネットビジネスで稼いでいる」と嘘をつき金回りがいいように装っていた。実際には無職で借金もあったが、見栄を張ってしまったのだ。そしてこの嘘が男を苦しめ始める。
被害者の大学生が家に訪ね「実はバイト先なくなっちゃったんですよ」とお金に困っているといい、犯人の男はネットビジネスを手伝うかと誘ってしまったのだった。
給料は月30万出せるとつい言ってしまい、真に受ける大学生は数日後「実は、俺の友達ではあるんですけど、商品、売れるかもしれないです!」 と、すでに商品の販売をはじめてしまっていた。
いまさら嘘とも言えなくなった犯人の男は、ありもしない商品の値段や入荷時期を伝え、完全に働いている気になっている大学生を止めることができず、やがて給料日が近づいてしまう。
「見てくださいよこれ!」
どうするか焦る男に、大学生は口座を無邪気に見せてきた。そこには大学生が親族から譲り受けたというお金が300万円も入っていたという。
男は詐欺を思いつき、「それさ、今だと簡単に増やせるんだよね」 と、言葉巧みに投資の話を持ちかけ、100万円を騙し取り、そのお金で借金の一部を返済し、30万円の給料もそこから支払った。
そしてある日、男は殺害を行うつもりで大学生の家を訪れる。「最近、ちょっと体調悪いんですよね~、体痛くて」 という大学生に、持っていた睡眠薬を飲ませ、意識もうろうになったのをみると抗うつ剤を多量に服用させた。さらには糖尿病患者の治療に使われるインスリンを投与。男は、インスリンは健常者でも打てば血糖値が下がるため大量に打てば死に至ることがあることを調べ、手に入れたという。しかし、大学生は死に至らず無事だった。
その後、男の脳裏には殺害することしか頭になく、殺鼠剤を購入。 ボーナスの一部として40万円を入金し、学生の不信感を取り除いてから 再びアパートを訪ね、同様の手口で眠らせ、前回以上の薬物とインスリンを投与。
しかし翌朝、大学生はまだ生きていた。この時、目を覚ました大学生は祖母に電話をしていたという。
その後、男は意識が混濁している学生を浴室に連れて行き、水を張り、部屋を片付け、男性の財布の中から9万円を奪うとその場を去り、犯行を終えたという。
今回の事件を犯罪心理学者出口教授に分析してもらうと、「今回の事件の場合は自分を少しでも大きく見せたい、自分を少しでも立派に見せたい、見栄を張ってしまうということが今回の事件の根底部分にある。誰でも人間多少は見栄を張ることがあるわけですが、見栄をずっと張り続けてしまうとウソにウソを重ねてしまうことになる。こういうウソを重ねてしまうタイプの特徴は非常に自分に自信のないタイプの人が多い。そういう人は些細なウソでも自分で否定して修正してしまうと、それによって第三者から自分の人格が全て否定されてしまうんではないかという恐怖心がすごくある。犯罪者の中にはこのパターン非常に多いんですね。」という。
犯行後一万円札だけ抜き取り、現金9万円を奪ったことは冷静であり、計画的だと判断され、強盗殺人の罪に問われ、無期懲役が確定した。
裁判で男は、大学生を殺害した理由は「返済を逃れるためだった」と話したという。そして、その状況を作り出した原因は後輩の前でついてしまった嘘だったとされた。
「全部嘘でした」の一言が言えず、若者の命を奪った男。この身勝手極まりない動機は
決して許されるものではない。