バロック時代(17世紀)のイタリア絵画は、カラヴァッジョという型破りの天才は出たものの、彼に匹敵するような巨匠は他には見当たらない。カラヴァッジョとほぼ同世代で、39年という短い生涯も彼に近いスケドーニは、イタリア北部のパルマを中心に活躍した初期バロックの画家で、そのメリハリの利いた明暗表現はカラヴァッジョの影響を思わせる。大規模な壁画、天井画も手がけたが、ここにあるのは愛くるしい小品である。
愛と美の女神ウェヌスの子で、キューピッドあるいはアモール(愛)ともエロスとも呼ばれるクピドは「恋の使者」ともいうべき存在で、恋そのもののように気まぐれな存在でもある。得意とする弓で、金の矢じりの矢を打ち込まれた人は最初に会った人に恋し、鉛の矢じりだと恋心も一気にさめるというクピドが、ここでは一人木の幹に寄りかかっている。意味ありげにこちらを見ながら、考えごとでもするように指を口に当てている。頭上には矢を入れたエビラが、足下には弓が置かれている。ひと休みしながら、「次は誰を恋のとりこにしよう、それはあなたかも」とでも読める眼差しであり、仕草でもある。バロック絵画には珍しい一種の茶目っ気を感じさせる絵である。
作品解説 千足伸行