「動かざること山の如し」というが、風景には大地や山のように静的な部分と、風に揺れる木、流れる水、雨や雷鳴など、動的な部分とがある。「静的」、「動的」ということでいえば、例えばセザンヌの風景は前者であり、モネやルノワールの風景は後者のタイプといえよう。モネは風に揺れる木やさざ波をしばしば描いているが、セザンヌはこの種の自然には無関心だった。
17世紀のフランドル絵画を代表するルーベンスの風景にもいくつかのタイプがあるが、彼の風景の多くは生々流転する自然のダイナミックな動感を感じさせるという点で、バロック的な風景の典型といえよう。その一方で、この絵でいえば画面中央の羊飼いのカップルや、左の木の下で笛を持つ男などは、古代ギリシャ、ローマののどかな田園詩、牧歌の伝統に連なっている。しかし、同時代のプッサン、クロード・ロランなどの格調高い「古典的風景」とは異質の、土臭い親しみも感じさせる絵である。人物や動物の目立つ前景からその先の橋を中継点として遠景へと続く構図は、暗から明への展開でもあるが、その上にかかるアーチ型の虹は、あたかも画家の故郷のフランドルの自然を祝福しているかのようである。
作品解説 千足伸行