メッセージ

パリ・オランジュリー美術館館長/本展監修 エマニュエル・ブレオン

2010年、タマラ・ド・レンピッカの展覧会を日本で開催いたします。
グラマラスな絵画で知られるレンピッカは、世界的にアール・デコのアイコンとして認められている女性画家です。
レンピッカの生涯はまさに伝説的で、1898年にポーランドで生まれ、サンクトペテルブルク、パリ、ニューヨーク、ハリウッドで暮らし、1980年にメキシコの地で没しました。
彼女は、当時の芸術界と社交界に身を置きながら、自らを完璧に演出しました。アール・デコ時代を象徴する存在となったレンピッカの作品は、後期キュビスムの潮流と近代のマニエリスムに属するものですが、今日でもその新しさを失わず、まるで映画を見ているかのような印象を我々に与えます。
彼女の作品は現在、世界で熱狂的に迎え入れられ、有名人たちがこぞって収集しています。ジャック・ニコルソンやバーバラ・ストライザンドなどの大スターが作品を購入し、マドンナは傑作を所有するだけでなく、コンサートツアーでステージ演出にも使用しています。まるでレンピッカとの間に、永遠の同盟関係が打ち立てられたかのように・・・。
本展では、フランスを中心に欧米など世界各地の美術館や個人が所蔵するレンピッカの傑作を一堂に展示します。1920~30年代の作品を中心に約60点の油彩や貴重な素描、写真資料などにより、その生涯を辿り、あわせて1920~30年代の美術史にレンピッカという画家を位置付けなおすものです。
本展は、多くの日本の方々がレンピッカの生涯と作品の全体像に初めて接することができる貴重な機会であり、大変意義深いものとなることでしょう。

Bunkamuraザ・ミュージアム 学芸員 宮澤政男

「私の作品はどれも自画像なのです」

女性画家タマラ・ド・レンピッカが活動を始めた1920年代。大胆な風俗が現われ、都会のライフスタイルが確立し、女性が社会に進出しだした時代である。彼女はまさにその実践者であり、その生き様は現代人顔負けの奔放さに溢れ、作品はどれも彼女の分身として、観る者を圧倒する。
画面からはみ出さんばかりの圧倒的な存在感を持つ女性像。筆跡のない金属的な光沢を放つ肉体は、大型のモーターバイクのように官能的だ。鋭いまなざしもその特徴である。たしかにそこには、彼女自身が投影されている。
私生活でもレンピッカは本能の赴くままに生きた女性であった。スポーツカーを乗りこなす恋多き女の相手には女性もいた。画家になったこと自体が、自身が欲したことであった。フォトジェニックな美しさは、この生きる姿勢がもたらした。やりたいことをやる。ただそれだけのことが、しかし必ずしも容易ではないそんな生き方が、レンピッカを、そしてその作品を、輝かせているのである。
本展は日本初公開作品約30点を含む60点以上で構成されるファン待望のレンピッカ展である。