どこにあるスズメの宿　 #574 （2001/03/25）　 　おそらくわれわれ人間にとって一番身近な鳥であるスズメ。しかし近づくと逃げ、飼うと死んでしまうという、身近な割になかなか仲良くなれない存在でもあります。 　そこで矢野明仁リポーターが無謀な挑戦を。なんと、自然のスズメと記念写真を撮ろうというのです。はたしてその挑戦の結果は？その挑戦の過程で、意外なスズメの姿も見えてきたのです。 　スズメのお宿ってどこにあるのでしょう？早速矢野さんが調査に乗り出しました。スズメの先祖は、ハタオリドリというアフリカ原産の鳥。その名の通り、機で織ったような細やかな巣を作るのです。 　では、スズメも木の上にそんな巣を作るのでしょうか？矢野さんが早速探します。しかしなかなか見つかりません。困り果てた矢野さん。そこに、インターネットで、スズメの巣発見の情報が入りました。場所は神奈川県平塚市。あるお宅の軒下に､なにやら垂れ下がっているものが・・・どうやら巣の材料がはみ出したもののようです。ついにスズメのお宿発見です！さっそく小型カメラを入れ､中の様子を見ることにしました。しかし､残念ながらスズメはいませんでした。スズメは、３月になるとつがいになり､４月頃に巣を作ります。スズメは、人家の穴の中や､時にはベランダに干したパンツの中など､とにかく穴の中に巣を作るのです。そして５月に産卵､２週間後にヒナがかえると、ヒナが巣立つ６月まで､その巣でスズメ夫婦は育児に専念するのです。そして夏までにもう一度子供を作り､９月から３月までの秋から冬にかけては巣を持たずに群れをなし皆で寄り添って木の上で過ごします。つまり､スズメのお宿とは子育て専用の巣だったのです。 　近づこうとしてもすぐに逃げていってしまうスズメ。どうも飛び立つまでに一定の距離が有るみたいです。実はこれはフライトディスタンス（警戒距離）といって、スズメに限らず様々な動物がそれぞれ持っている距離なのです。 　そこでこんな実験を。スズメとカラスで、フライトディスタンスを計ります。すると、スズメがおよそ５ｍの距離を保って飛び去ったのに対し､カラスは３ｍ弱の距離まで近づくことができ、スズメの方が警戒心の強いことがわかりました。これは予想通りの結果でしたが、今度は棒を持って近づいてみます。するとスズメは変らずの約６ｍで飛び立ったのに、カラスはなんと、遥か彼方の１１ｍも先から飛び去ってしまいました。カラスは大変頭のいい鳥で､近づく人間が攻撃する意思を持っているかどうかを判断して、警戒距離を変化させていますが､スズメはもともと臆病な鳥のために先天的な警戒距離をどんな時にも保っているのです。 スズメは、危険な人にもそうでない人にも平等に臆病だった！ 　どうにかスズメに近づきたい矢野さん。そこで、手がかりを得るため、怪我をして保護されているスズメに会いに行きました。すると、スズメが、いつもの“チュンチュン”というのとは違い、“チーエチーエ”という鳴き声を出しているではないですか。実はスズメの声は一種類ではなかったのです。 　そこで春の求愛の鳴き声を使って、スズメ集め大作戦を決行しました。かつて「カラス」の回（1993年）で成功した方法です。ラジカセで、スズメの声のテープを流すのです。矢野さんはスズメに気づかれないように､アスファルトと同じ色をした布を用意して頭からかぶり､目だけだしてスズメが来るのを待ちます。 　実験開始から１０分後、スズメが続々とやってきました。しかしなぜか、みんな矢野さんの後にしか集まりませんでした。そこで今度は別の実験。求愛の声を、突然警戒の鳴き声に変えてみます。まず求愛の声を流すと､再びスズメ達は声に反応して集まってきました。この声が警戒の声に切り替わります。するとスズメは、いっせいに木の上へ飛び去ってしまいました。スズメは､鳴き声でコミュニケーションをとる鳥だったのです。 ♪スズメはとっても歌が好き〜、は本当だった！ 　ところで、さっきはなぜ矢野さんの前にスズメ達が集まらなかったのでしょうか?スズメの骨格標本を見ると、スズメの頭の中で一番体積があるのが目です。そんなスズメの視界はなんと340度！例え後向きでも周囲はほとんど見えているのです。先程、矢野さんはスズメを確認するために目だけは出していました。実はスズメたちは､この矢野さんの目線を見ていたのです。ひもを引くとまぶたが開閉する人形を用意して、さっきの矢野さんと同じ状況にして観察すると、目を閉じている時にはスズメは人形の前にも集まってきます。しかし目を開けた瞬間。スズメはみんな飛び立ってしまいました。 　そこで今度は目の部分をメッシュにして､外からは目が見えないようにしました。ひたすら待つこと10分､今度もまたスズメ達は背後からやってきました。しかし更にそのままじっと待つと､スズメは地面に寝そべった矢野さんの前にも集まりました。その距離およそ２０ｃｍ！！実験は大成功でした。