マジシャンの手
の秘密
第766回 2005年1月30日
現在、空前の
マジックブーム
。TV番組でも多く取り上げられ、デパートのマジック用品売り場にも人だかりが出来ています。しかしマジック用品を買って来ても、苦戦しているお父さんも多いのではないでしょうか。そこで今回は、
マジシャンの手を調査し、合わせてヒトの手の秘密にも迫ります
。これさえ見れば、お父さんもマジックが出来るようになるかも。
なぜヒトの手はマジックが出来るほど器用なのでしょう。動物園でヒトに近いチンパンジーを見てみると、ちゃんとバナナを握って食べています。リスやネズミも、一見、木の実をつかんで食べているように見えますが、実は手ならぬ前あしではさんでいるだけなのです。実は、
物を握ることが出来る生物は、ほ乳類の中でもヒトやサルなどの霊長類だけ
なのです。
しかしヒトとサルの間にも、
物を握る能力に決定的な違い
がありました。それは親指。チンパンジーにピーナッツを与えてみると、決して
親指と人差し指の先でつまむことは出来なかった
のです。
実は、
サルの親指はヒトほど器用に動かない
のです。その秘密は
親指を動かす筋肉の数
にありました。
ヒトの親指を専門に動かす筋肉は、全部で8種類
。これは、他の人差し指などと比べても一番多いのです。そのためヒトの親指は複雑に動くのです。
一方、
チンパンジーは、ヒトよりも2本少ない筋肉で親指を動かしていました
。つまりヒトは、
地球上で最も親指の機能を高度に進化させた動物だった
のです。
親指の先と他の指の先を全て合わせられるのは、霊長類の中でもヒトだけなのだ!
矢野さんが、ヒトの手の性質をうまく利用して、誰でも簡単に出来る
“目がテン流・指先マジック”
を所さんの前で披露しました。
まずは
“ブラブラしてしまう指先”
。中指か薬指のどちらか好きなほうを選び、その指の第2関節を直角に曲げます。そして別の手で、曲げた指の指先を触ってみると、まるで自分の指では無いかのようにブラブラしてしまいます。
そのタネは、
指が曲がる仕組み
にありました。指を曲げるときは、筋肉が直接指を曲げるのではなく、
腕にある指を曲げるための指屈筋(ゆびくっきん)という筋肉が、それぞれの指につながっている腱(けん)を引っ張って指を曲げます
。
しかし指を根元の部分で曲げてしまうと、その先の指を引っ張るための腱がたるんでしまい、指先を引っ張れなくなってしまうというわけだったのです。
指先マジック、続いては
“離れない薬指”
。2本の中指を指先から2つめの関節の所で曲げて合わせ、他の指は伸ばしたまま両手の指先を合わせます。その状態で、それぞれ親指、人差し指、小指の指先を離してみると、この3本の指は離れますが、薬指だけはどうしても離れません。なぜなのでしょう。
実は、人差し指と小指には、その指だけを伸ばすための筋肉がそれぞれ存在します。さらに
親指を除く4本の指は全て腱で繋がっているのですが、特に薬指は中指、小指としっかり繋がっている
のです。このため、
中指が曲がった状態だと薬指をしっかり伸ばすことが出来ない
というわけなのです。
最後は
“くっつく人差し指”
。両手を合わせて握り、両方の人差し指だけピンと真っ直ぐに離して伸ばします。そしてジッと離れている人差し指の先を見つめると、自然に人差し指同士はくっついてきてしまうのです。
タネ明かしをすると、実は、
手は何かを軽く握っているような状態が自然な状態
なのです。つまり、
指をピンと伸ばしている状態だと次第に筋肉が疲労してきて、次第にもとの少し曲がった状態に戻ってしまう
ので、人差し指同士がくっついてしまうというわけだったのです。
では、
マジシャンの手と我々一般人の手の違い
はどこにあるのでしょう?そこでMRIでマジシャンの手の筋肉を撮影してみると、
指と指の間にある骨間筋という筋肉がバランスよく発達していた
のです。
骨間筋とは、指を開いたり閉じたりするための筋肉
で、指を器用に動かすには不可欠の筋肉なのです。
私たちも、よく使う人差し指と中指の骨間筋は発達しているのですが、
マジシャンは薬指と小指の周りの骨間筋も大きく、バランス良く発達していた
のです。
試しに、薬指と小指を使って10秒間でキーボードの鍵盤を何回叩けるかというタッピングテストをした所、所さんが53回だったのに対し、ゲストのプロマジシャン・長谷さんは108回も出来たのです。
マジシャンが華麗な指さばきが出来るのは、骨間筋が薬指、小指の方までバランス良く発達していたからだった!