なぜ辛い?旬の
ワサビ
第774回 2005年3月27日
いよいよ春到来。実はこの時期は、
ワサビの収穫期
でもあるのです。今回は、古くから日本人に親しまれてきた香辛料、ワサビについて科学しました。
そもそも
ワサビはアブラナ科の植物
で、普段私達が食べているのは、根と茎の間にある
根茎
という部分。実は
カラシもワサビと同じアブラナ科
で、驚くことに
辛味成分に関しては、ほとんど同じ
だというのです。本当なのでしょうか?
そこでお寿司屋さんに協力して頂き、
ワサビの代わりにカラシを塗ってお寿司を出してもらいました
。すると、どのお客さんも「美味しい」と言って全く気づかなかったのです。スタジオで所さんにも食べて頂くと、「確かに変わらないねぇ」と驚いていました。
実は、ワサビとカラシの辛味成分は
アリルイソチオシアネート
という同じ物質。両者の違いは
グリーンノート
と呼ばれる香りの成分が、ワサビに有ってカラシには無いという程度だったのです。しかもこのグリーンノート、ワサビをすって5分ほどでピークを迎え、その後減少してしまうそうです。
ワサビとカラシの辛さは同じアリルイソチオシアネート!
両者の違いは、グリーンノートという香り成分の有無だった。
さらにワサビの秘密を探るべく、矢野さんは静岡県のワサビ田を訪ねました。すると農家の方が、
ワサビは花も葉も根も食べられる
というのです。そこで、おそるおそる食べてみると、なんと
ワサビは花も葉も根も全て辛かった
のです。
さらに驚いたことに、ワサビの取れたての根茎を矢野さんが試食した所、
根茎の中の方は甘かった
というのです。
そもそもワサビが辛い理由は、細胞内に
ミロシナーゼという酵素とシニグリン配糖体という成分があり、細胞が壊れ両者が反応したときに辛味成分であるアリルイソチオシアネートができる
から。つまりワサビをおろしたり歯でかじったりして細胞が壊れた時に、初めてワサビの辛味成分は生まれるのです。
そしてワサビの根茎には、外側の方にミロシナーゼがより多く含まれているので、
ワサビは外側の方がより辛くなる
のです。反対に、根茎の内側には、成長に必要な糖が多く蓄えられているので、
ワサビの内側は食べると甘く感じる
のです。
なぜ
ワサビは、ワサビ田と言われる水田で作られる
のでしょう?やはり野生のワサビの方が大きく育っているのではないかということで、矢野さんが野生のワサビを探しました。そして発芽から2年以上経っているという野生のワサビを発見し掘り出してみると、驚くほど小さく、
ワサビ田の1年半ものの方が大きかった
のです。
その理由は、ワサビの
自家中毒
という現象にありました。そもそも多くの植物は、根に
VA菌
という
土の中からリン酸や水分など集めてくれる菌
を持っています。しかしワサビにはこのVA菌が無く、競争力が弱いのです。そこでワサビは、VA菌を持つ植物に栄養分を取られてしまわないように、
アリルイソチオシアネートを土の中に出し、他の植物を寄せ付けないようにする
のです。しかし、この土中に出されたアリルイソチオシアネートは、同時に
ワサビ自身の成長も邪魔してしまう
という困った現象も起こります。これが自家中毒です。
そこで、
ワサビが出すアリルイソチオシアネートを水で流し自家中毒を防ぎ、大きく育てる
のがワサビ田なのです。さらにワサビが育つには、
水に酸素がいっぱい溶けていないとならない
のですが、ワサビ田は水が上から下へと流れ落ちる段々畑の構造になっているので、水が落ちる時、空気の泡が出来て酸素が水に溶け込み、多くの酸素をワサビに与える事ができるのです。
アリルイソチオシアネートを洗い流し自家中毒を防ぐワサビ田のおかげで、ワサビは大きく育つのだ!