イチョウ
で脳が甦る!?
第858回 2006年11月26日
紅葉真っ盛りの今、日本の秋を黄金色に輝く葉で彩る
イチョウ
。なんとイチョウは約1億5000年前からその姿をほとんど変えていない、植物界の生きた化石と言われています。今回は、そんな身近だけど知らなかったイチョウを科学します。
イチョウは今から1000年以上前、遣唐使だった空海が文明先進国だった唐から日本に持ち帰り伝来したと言われています。ところで、
なぜイチョウと呼ばれているのでしょう?
その秘密を探りに横浜中華街で中国人の方に聞き込みしてみると、イチョウの葉を見た人は、皆インシンと発音しました。広辞苑で調べてみると、銀杏と書く
イチョウは「鴨脚樹」とも書く
そうです。
イチョウの葉がカモの脚に似ているところからきた
そうです。そこで、この鴨脚樹を中国の方に読んでもらうと、「ヤーチャオシュー」と発音しました。つまり
鴨の脚は「ヤーチャオ」
と発音され、
広辞苑にも唐の時代の発音、ヤーチャオから転訛し「イチョウ」になったと記されていた
のです。
さて、イチョウの葉は、
夏は緑色ですが秋は黄色く色づきます。しかし、紅葉といえば赤く色づく植物もありますよね。これはなぜでしょう?
まず、
赤く紅葉する植物
は、春から夏の間、葉で光合成をして糖を作り出し幹に送ります。しかし、秋になり気温が下がると、葉の付け根に「
離層
」と呼ばれるフタができます。そのため、行き場を失った糖が葉にたまり、さらに気温が下がると葉の葉緑素が壊れ、それとともに
葉に残された糖がアントシアニンという赤い色素に変わり、葉が赤くなります
。一方、
黄色くなるイチョウ
は、離層が完成する前に葉の糖を全て幹に送ります。糖のない状態で葉の葉緑素が壊れると、それまで隠れていた
カロチノイド
という黄色い色素が出てくるのです。イチョウが黄色くなる理由は、
少しでも多くの栄養を幹に送り出し厳しい冬に耐えようとする生き残り戦略
だったのです。
イチョウは、スギやマツと同じ裸子植物ですが、なぜ葉の形が全然違うのでしょう?
そこで、イチョウの葉をよく見てみると、葉脈が二又に分岐していました。これはイチョウよりも以前に現れたシダ植物のマツバランと同じ葉脈で、時代を追ってイチョウの化石をよく見ると、
葉脈の一つ一つがつながり、表面積を広げ、より多くの光合成を行えるように扇形へと進化してきた
ことが分かります。
イチョウの葉が秋に黄色く染まるのは、冬が来る前に葉の養分を全て幹に送り込む、生き残り戦略のためだった!
ところで、イチョウはイギリスやドイツなど、ヨーロッパの街並みも彩っていますが、実は
ヨーロッパのイチョウは江戸時代に日本から持ち込まれた
ものなんです。長崎の出島に来ていたE・ケンペル医師が、喘息に効果がある薬と言われていたイチョウをヨーロッパに紹介したのです。そして、それから253年後の1966年、ヨーロッパでイチョウ葉から抽出される
イチョウ葉エキスが脳の血流を改善
するということで、医薬品として承認されました。その後、
アルツハイマーにも有効だとわかり抗痴呆薬としても承認され治療に使われている
のです。日本でもイチョウの葉のエキスが注目されていて、更年期の認知障害に対する効果を確かめようと試されています。そこで、この研究をしている大学教授の協力で
ラットを使った実験
をしてみました。認知障害の原因の一つは情報を保持する海馬の細胞が減ることにあると言われています。この
海馬の細胞が実際に少ない、認知障害があるラットを二組にわけ、片方のラットにだけイチョウの葉のエキスを17日間与えました
。その後改めて海馬の細胞を見ると、
イチョウの葉エキスを与えられたラットは海馬の細胞が明らかに増加
していて、正常なラットと比べてもほとんど変わらないほどに回復していたのです。
さて、イチョウといえば秋に美味しい
銀杏(ギンナン)
。そこで矢野さんはギンナンの出荷量が年間114トンという本場福岡県でギンナンの収穫をしている農家を訪れました。ギンナンといえば強烈な臭いがするイメージですが、
木になっている状態では、くさい臭いはほとんどしない
のです。ところが、実から軸を取ると一気に強烈な臭いが発生するのです。強烈な臭いを発しているのは、私達が普段食べている胚乳の周りを包んでいる
外皮種
という外側の部分なのです。
そして、訪ねた農家ではギンナンの外皮種を取り除くために、なんと
洗濯機
を使っていました。洗い終わった後のギンナンはにおいが取れ、あとは天日干しすれば出来上がりです。
ところで、
なぜギンナンはくさいのでしょう?
専門家によると、イチョウが
子孫を残すための防衛策として動物に食べられないように臭くなったのではないか
というのです。
そこで、動物園で実験です。山に住んでいてギンナンを食べそうな動物達にギンナンを与えてみました。まず
ニホンザル
はにおいを嗅いだ途端、
悲鳴をあげて退散
してしまいました。さらに
タヌキやネズミも全く食べようとはしません
でした。そういえば、ギンナンは洗濯機で洗われてニオイが取られていました。
そこで、
洗って食べるのではないか?と思い、アライグマに与えてみた
ところ、なんと
アライグマは洗いもせずそのまま食べてしまいました
。
なぜアライグマはギンナンを食べたのでしょう?
園長さんに聞いてみると、木の実や果物などを食べる雑食性のアライグマは
ギンナンのにおいを気にせずに食べ物の一つとして食べた
のではないかということでした。ちなみに、ギンナンにはギンコール酸というアレルギー成分が含まれているので、一日の摂取量は最大でも4粒ぐらいが目安だということだそうです。食べすぎにはご注意ください。
ギンナンの強烈な臭いは子孫を残すために動物に食べられないようにする生き残り戦術だった!ただし、アライグマには通じなかった。