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大根
おろし
第910回 2007年12月2日
私達の食卓に欠かせない、今が旬の冬野菜の王様といえば「
大根
」。今回は、煮物やおろしに大活躍する大根の知られざる秘密を科学します。
大根の産地、練馬を訪れた矢野さんはわずか3ヶ月で見事に大きく育った大根を見て、
カブに似ている
ことに気がつきました。
そこで、大根とカブをおでん屋さんに持って行き、同じ要領で
8時間煮込んでもらうと、カブは箸でつかめない程に煮崩れしてしまった
のです。これはなぜでしょう?顕微鏡で調べてみると
カブの細胞は大根に比べて細胞が小さく、細胞の壁が薄かった
のです。そのためカブは煮崩れしてしまったのです。続いて、カブを生で食べてみると身は甘かったのですが、
先端のヒゲのような部分は辛くて大根のような味
がしました。実は
大根とカブは同じアブラナ科の植物ですが、食べている部分が違う
のです。カブのヒゲのような部分は
根
で、食べる部分は
胚軸
と呼ばれる根と茎の中間にあたる所なのに対し、
大根の食べられるほとんどの部分は根
なのです。
大根とカブは同じアブラナ科だが、大根は根の部分を食べ、カブは辛い先端の根ではなく、胚軸の部分を食べるので味が違うのだ!
さて、大根は味が染み込みやすいので煮物に多く使われますが、問題は
味を染み込ませる時間
ですよね。そこで、名門の日本料理店では、どれぐらい時間がかかるのか作っていただきました。まず米のとぎ汁を使い、大根を30分中火で下茹でして臭みをとり、冷水に浸します。その後、醤油で味付けしただし汁に入れ、30分弱火で煮込み、8時間冷ましていました。本当に味が中に染み込むまで8時間もかかるのでしょうか?そこで、
だし汁の代わりに赤い染色液で煮て断面を見たところ、30分煮込んだ段階では中心は白いまま
でした。そして
8時間冷ましてみると、大根は中まで赤くなっていた
のです。やはり味が染み込むまでは時間がかかるようです。しかし、
短時間で煮物を作ることはできないのでしょうか?
流体力学の先生に聞いてみると、30分煮込んだ後、
温度を下げないほうが早く味が染み込む
可能性があるとの事。水の分子は温かいほうが活発的に運動するのだそうです。そこで、家庭に手に入る保温材を準備して実験開始。30分煮込んだ後、
鍋ごとアルミホイルでくるみ、その上から新聞紙でくるみ、さらにバスタオルで包みました
。そして
1時間後
、75℃に保たれたままの鍋から取り出した大根の断面を見てみると、見事に
中まで赤かった
のです。弱火で長く煮込んでも同じ効果が得られそうですが、鍋の中で対流が起こり大根同士がぶつかりあい煮崩れしてしまうので、30分以上煮てはいけないそうです。
大根は30分煮込んだ後、アルミホイルや新聞紙、タオルなどで鍋を保温すれば1時間で中まで味が染み込むのだ!
さて、大根料理の一つ、保存食としておなじみの
切り干し大根を
、他の野菜でも同じように作ってみました。その結果、切り干しにしたナスとピーマンは形を保っていましたが、キュウリとレタスは形が崩れてしまいました。実は、野菜には
乾燥に向く野菜と不向きな野菜がある
のだそうです。その決め手となるのは
ペクチン
が多いか少ないかです。ペクチンというのは細胞同士をくっつける接着剤のような役割があり、乾燥させ煮込んでも細胞がバラバラにならないで元通りになります。そのためペクチンが少ないキュウリは細胞が離れてしまい崩れてしまったのです。では、保っていたナスとピーマンは乾燥野菜としてOKかというと、水分量が多く大根に比べて抜けにくいため、長期保存できないので駄目なのです。
大根はペクチンが多く、水分が抜けやすいので切り干し大根のように保存に向いた食品ができる
のです。
さて、大根と言えばもう一つ食卓に欠かせないのが、辛さが魅力の
大根おろし
ですよね。しかし、
大根をそのままかじっても食べても辛くないのに、なぜおろしは辛いのでしょう?
実は、最初、辛み成分は大根の中にないのですが、細胞の中にある
グルコシノレート
という物質と酵素がすりつぶされることによって、辛み成分の
イソチオシアネート
が生まれるのです。ならば、
細胞を壊せば壊すほど辛くなるのでしょうか?
ということで
杭打ち機を使い、6トンもの力で細胞を粉々にして辛い大根おろしを作る
という大実験を行いました。大根をビニールで密閉したため全て飛び散ってしまうという失敗もありましたが、次は完全密閉せずになんとか大根おろしの回収に成功。その大根おろしを味わってみたところ、とても辛かったのです。
さらに、日頃大量の辛い大根おろしを定食屋でおろしている
プロが作ったものと比較
してみました。辛み成分のイソチオシアネートを分析した結果、なんと
杭打ち機の方が2倍辛い
という結果になりました。実験は大成功でした。さらに顕微鏡で調べたところ、細胞が見当たらないほどに粉々に砕けていました。
ところが、この大根おろしを所さんがスタジオで試食してみましたが、なんと大根の
辛み成分は揮発性
なので辛さがなくなっていました。しかし、この揮発性の辛み成分にはすごい力があったのです。腐りやすい
ゆで卵を2つ用意し、片方だけに大根おろしを入れて観察
してみました。すると、大根おろしがないゆで卵の表面には数日間で表面にカビのようなものが生えてきましたが、大根おろしがある方はほとんど変化がありませんでした。実は
大根の辛み成分には細菌を繁殖させない防腐効果があった
のです。では、
いつでもどこでも辛い大根おろしが食べることは出来ないのでしょうか?
なんとその秘密兵器が高知にあるというのです。その研究室では、細かくカットした生の大根を、特許出願中の秘密の温度と技術で24時間乾燥させ粉末にしていました。この粉末をスタジオに持ち帰り、水を足しかき混ぜると見事に大根おろしが出来上がりました。そしてそのお味は所さんも驚く辛さ。これは近い将来商品化されるそうなので、焼き魚定食に入った粉末の大根おろしに出会える日もそう遠くはないかもしれません。