発明!!詰まらない
モチ
第913回 2007年12月23日
お正月に欠かせないものといえば、
お餅
ですよね。そこで今回は美味しいお餅のつき方から餅がのどに詰まった時の対処法まで、餅の秘密に科学で迫ります。
今年目がテン農園で赤飯作りのために収穫した17キロのもち米。その余ったもち米を使って餅を作ってみることにしました。しかし、
杵と臼を使わずとも、もち米を潰したり叩いたりすれば餅ができるのでは?
ということで、様々な方法にチャレンジしてみました。まずはハワイ発の
ロミロミマッサージ
でチャレンジです。ロミロミとはハワイ語で「揉む」という意味。ベッドに蒸し上がったもち米を寝かし、普段は硬い凝りをもみほぐすマッサージ法で揉んだりさすったりすること一時間。見た目はかなりお餅らしくなりました。続いては
100トンの圧力を誇るプレス機
です。ビニール袋に入れたもち米の上にプレス用の鉄板をセットし、一気に圧力をかけるともち米は後ろが透けるほど薄く潰れてしました。最後は
プロレス
で餅をつきます。リングの中央に蒸したてのもち米をセット。ゴングが鳴り、蒸し立てのもち米の上でエビぞり固めや、ブリッジからの頭突き、さらにバックドロップでもち米をプレスしました。以上3種類の方法で、これまでにない「餅」が完成しました。さて、
一体どれが美味しいのでしょうか?
鏡餅生産日本一を誇る越後製菓の研究所の皆さんに試食をお願いしました。すると、
一番餅らしいと評価されたのは、なんとプロレス餅
でした。実際のプロの餅つきは、まずつく前に杵に体重をかけてもち米を固めていきます。これが「
こね
」という作業。そしてもち米を潰してペースト状にしていく「
つき
」の作業があり、
餅つきにはこの2つの作業が欠かせません
。ロミロミ餅はこねてはいてもつきがないのでちゃんとお米が潰れませんでした。プレス機餅は、強力なつきはあるけどコネがないので米粒同士がくっつかないのです。しかしプロレス餅は、絞め技、寝技はまさにこねていて、投げ技などでしっかりつかれているため、2つの要素を満たし、米粒が潰れペースト状になったのです。顕微鏡で組織を見てもプロレス餅は他の餅と比べ、普通の餅に一番近かったのです。
さて、美味しいお餅はよく伸びるといいますが、実はそこには秘密がありました。矢野さんはその秘密を握る達人がいるという奈良の中谷堂というお餅屋さんを訪ねました。すると、店先で目撃したのはわずか
1分45秒でつきあがる、奈良名物の超高速餅つき
でした。試しに矢野さんがついてみると、つきあがるまでには5分もかかってしまいました。ご主人曰く、速くつくことでよく伸びて美味しい餅になるといいます。では本当につく時間で伸びが違うのか、高所作業リフトでお餅を伸ばしてみました。すると
矢野さんのついた餅の記録は1m26cm。一方ご主人の高速餅の記録はなんと3m
と、その差は歴然でした。
では、
高速餅が伸びる秘密はどこにあるのでしょう?
それは
つく時の温度
にありました。もち米は、蒸すとデンプンから強い粘り気が出ますが、この粘り気が出るのは温度が60度以上の時。この状態でつくとデンプン同士がしっかり絡み合ってペースト状になるのです。逆に60度以下だとデンプンが絡まずペーストになりません。つく前の餅の温度を計測してみると68度。そして、1分45秒の高速でつき終わった後でも餅の温度は61度もあったのです。つまり
高速つきは餅のデンプンが最も絡む温度のうちにつく技
。いわば「餅は熱いうちにつけ!」ということなのです。この高速餅が無理でも、
何人かでなるべく速くついたり、臼と杵を、お湯を張って直前まで温めたりするなど冷めない工夫をすれば誰にでも美味しいお餅がつけます
。
お餅は、60℃以上でつけばデンプン同士が絡み粘り気が出る。だから温度が高いうちに早くつくことでよく伸びて美味しくつきあがるのだ。
さて、
時間が経ってとても硬くなってしまった餅はどうすれば美味しく食べられるのでしょう?
その前にどれくらい硬いのか調べるために空手家に割ってもらいました。すると瓦5枚を楽に割れる空手家でも、ついてから10日間以上たった瓦型の餅は割ることはできませんでした。
餅表面の硬度は59.3で、53.0のレンガよりも固くなっていた
のです。そもそもつきたての餅が柔らかいのはデンプンが水と結びついて粘り気をもっているため。しかし時間が経つと水がデンプンから分離してしまい、餅は硬くなります。しかし、まだ
水分は餅の中に閉じ込められたままなのでもう一度加熱すると水は再びデンプンと結びつき、粘り気を取り戻します
。こんな不思議な性質があるからこそ、餅は保存食として愛されてきたようです。
ところで、
餅はのどに詰まらせると大変
です。そこで矢野さんが佐賀にいる餅を詰まらせずに食べられるという達人を訪ねました。まず達人はつきたての餅をこぶし大に丸めて鍋の中のお湯に入れました。そして伸ばした餅をタレにくぐらせ餅を細長くしながら噛まずに一気に飲み込みました。これぞ伝統の技「
湯取り餅
」。お湯に浸すことで餅を細くでき、のど越しよくのみ込めるのです。でも
どうして喉に詰まらないのでしょうか?
その秘密はのどのメカニズムにありました。喉には気道と食道が隣り合わせに走っていて、食物を飲み込むときには気道にフタがされ食道へと入ります。
しかし、
時に気道にフタがされず食べ物が気道側にいってしまい、餅は粘り気があるため気道を完全に塞いでしまう
のです。ところが、湯とり餅の場合は、
餅の先端さえ食道に入ってしまえば餅は切れにくいため後から入ってきた部分もスムーズに食道に向かい喉に詰まらない
のです。ならばと佐藤さんが「湯とり餅」から生まれたのどに詰まらない餅「
餅うどん
」を考えました。うどん屋さんに協力してもらいお餅をうどん状に細くし完成です。試食した所さんはその味を大絶賛で、餅うどん大成功!かと思いきや、本来の目的である、喉に詰まらせないのみこむ食べ方をすると、味が分からないので失敗という結果になりました。
お餅を安全に食べる方法は、できるだけ小さいサイズにし、タレなどで喉の滑りをよくする
ことです。そして
万が一餅が詰まってしまったときの対処法
を、救命救急士の方に教えていただきました。まずは、あごを支え少し上げ、背中の肩甲骨と肩甲骨の間を思いっきり叩く「
背部即打法
」を行います。それでも取れない場合は身体をできるだけ密着させて、みぞおちの少し下にこぶしを当ててもう一つの手で押さえ脇をしめながら引き上げる「
腹部突き上げ法
」を行います。この二つを繰り返し交互に行ってください。注意することは、
窒息だと思ったらすぐに救急車
を呼び、救急隊が来るまでの間にこの対処法を行ってください。
餅がのどに詰まったら、すぐに救急車を呼び、救急隊が来るまでの間、背部即打法と腹部突き上げ法を交互に繰り返すべし!