完走確実?
マラソン
術
第921回 2008年2月17日
今、
マラソン
に挑戦する市民ランナーが急増中!そして毎年この季節には日本最大の市民マラソン、東京マラソンが開催されます!そこで今回は、マラソンを科学して、誰でも完走できるマラソン術を紹介します。
42.195kmを走ることだけがルールだという、自由な市民マラソンが楽しそうなので、ぜひ参加したいと、初心者の矢野さんがプロのマラソンチームの練習に参加させてもらうことにしました。念入りなストレッチの後、
1周400メートルのトラックを50周走る20キロ走に参加
しました。しかし矢野さんはスタート直後に集団から脱落。なんと
選手達の最初の100メートルの通過タイムは19秒6
でした。しかし、矢野さんは、みんなが疲れきるであろう
約10キロ地点で再び合流し、100メートル走で対決
を挑みました。しかし
結果は惨敗。選手達のタイムは19秒4と、最初の100メートルとほぼ同じタイムだった
のです。ならば今度は、
ゴール直前の20キロ地点で再び挑戦しましたがまたしても惨敗、しかも選手のタイムは19秒1
でペースはむしろ上がっていました。 実は、
マラソン選手にはある身体的な特徴がある
のです。人の筋肉の繊維は、
速筋繊維
と
遅筋繊維
の2種類に大別でき、
普通の人の割合は1対1ですが、マラソン選手は遅筋繊維が大半を占めている
のです。この遅筋繊維は、酸素を効率よく使うことで長時間に渡ってエネルギーを作り続けることができる筋肉。だから
遅筋繊維の多いマラソン選手は長い距離をペースを落とさずに走り続けられる
のです。
矢野さんは、東京マラソンの練習のために、同じコースを走ってみることにしました。しかし、足先の靴に当たる部分が痛くなり、わずか3kmでリタイア。矢野さんのスニーカーに問題があったのでしょうか?そこで、
履物対抗レース
を開催!
「地下足袋」「わらじ」「スニーカー」「裸足」「下駄」を、ほぼ同じ実力を持つ5人の選手に履いてもらい、1200メートルを競争
してもらいます。結果、
1位は地下足袋、スニーカーは2位でした。続いてわらじ、裸足の順
でゴールしました。下駄の選手はあえなくリタイアです。
しかし、
なぜスニーカーは敗れたのでしょうか?
研究所でそれぞれの履物で走った時、足にかかる衝撃を計測してもらいました。すると、裸足の時の衝撃の数値は247、わらじは234、スニーカーは202、そして地下足袋は114でした。
順位が早いほど足にかかる衝撃が少なかった
のです。つまり、
長距離を走るマラソンには足にかかる負担が少ない、クッション性の高い履物が適していた
のです。 ところで、最近のランニングシューズにはシリコーンからつくられる非常にクッション性の高い
ゲル
という素材が親指の付け根やかかと部分に使われています。しかしトップランナーの靴にはゲルは使われておらず、重さは693gと、普通のシューズに比べて断然軽かったのです。実は、
トップランナーは足の裏などの筋肉をクッション代わりにしている
というのです。確かにマラソン選手の足の裏を触らせてもらうと柔らかかったのですが、本当に足で本当に衝撃を吸収できるのか実際に計測してみました。まず、普通の人がトップランナー用のシューズで走ると、足にかかる負担は192。しかし、ほぼ同じ体重のマラソン選手が同じシューズを履いて測定するとなんと75と、半分以下の負担だったのです。
マラソン選手は、足の裏の筋肉もシューズの一部だった
のです。
トップランナーの足の裏は柔らかく、筋肉をクッション 代わりにしているため負担が少ない!足裏の筋肉もシューズの一部なのだ!
さて、矢野さんは東京マラソンと同じコースに再挑戦!今回は助っ人として市民ランナーに走り方を指導している斉藤さんに協力してもらいます。しっかり準備運動をした後は、衣服との摩擦による怪我を防止するために
ワセリン
を体に塗ります。そして午前8時、都庁前からゴールの東京ビックサイトに向かってスタート!まず、筋肉は、一度運動を止めると冷えて硬くなってしまうため、信号待ちでも動きを止めないようにします。
レース中は苦しくてもできるだけ運動を止めない
ことが大切だそうです。そして、
水分補給は汗で失った成分に近いスポーツドリンクを少しずつ飲みます。
水分を一気にとると、胃が重くなり走っている時の衝撃を大きく受けてしまい腹痛の原因になるのです。
さらに楽に走れる方法の一つとして
ペースメーカー
を利用するのも有効です。ペースメーカーとは、好記録を出しやすくするために中盤までレースを先導するランナーのこと。そこで斉藤さんにペースメーカーになってもらい、矢野さんは何も考えずただ斉藤さんの背中を見て走ってみました。すると、
気持ちが楽になり、心理的な負担が減って楽に走ることができた
そうです。さらに
ペースメーカーがいない時は1キロ8分5秒で、いる時は7分20秒とタイムにも違いが出てきた
のです。
マラソンでは、先に走っているペースメーカーを見つけ 利用すると、心理的な負担が減り楽に走れて、タイムが良くなるのだ!
順調に走っていた矢野さんですが、段々膝の上が痛くなり、15キロ地点を過ぎると次に腰に痛みが出てきたのです。その原因は足の痛みをかばいながら走っていたため猫背になり、腰に負担がかかってしまったのです。こんな時、応急処置として有効なのが
テーピング
です。
弱った筋肉と同じ方向に貼ることで、テーピングが筋肉の動きを補助してくれる
のです。矢野さんは背中にテーピングを貼ったことで、姿勢がよくなり、ペースもアップしました。 無謀にも、ほとんど練習なしで挑んだ初めてのフルマラソンでしたが、科学の力でなんとか矢野さんは42.195キロを10時間35分25秒のタイムで見事に完走できました!しかし、残念ながら東京マラソンでは7時間以内にゴールしないと記録が認められず、完走したことにはならないのでした。