海の
ヒジキ
真っ黒の訳
第922回 2008年2月24日
日本の食卓には欠かせない
ヒジキ
。今回はお袋の味としても親しまれる、身近な海藻ヒジキの知られざる秘密を科学します。
矢野さんは自然のヒジキを見ようと、産地の愛媛県伊方町を訪れました。地元の方の案内で岩場へ行き、岩に張り付いた緑っぽい茶色のヒジキを発見。
生のヒジキは黒くなかった
のです。
海藻には、アオサやアオノリといった緑色の緑藻類、赤い色の紅藻類、そしてヒジキなどの薄茶色の褐藻類という種類があります。色の違いの秘密は、生えている深さに関係があります。海の浅いところに生息する緑藻類は陸の植物のように緑の色素で光合成します。また海の深い場所に生息する紅藻類は、深い場所には青い光しか届かないので、そこで青い光を吸収する赤い色素で光合成します。その中間の褐藻類のヒジキは、潮の満ち引きによって深くなったり浅くなったりする場所に生息しているため、緑と赤の中間的な色素を持ち効率よく光合成を行っているのです。
矢野さんが新鮮な
ヒジキを生で食べてみると、とても渋くて食べられませんでした。
そこで、渋みを取るために煮ると、ヒジキの色が一気に鮮やかな緑色に変わりました。ここで再び試食するとまだ渋さは変わりませんでした。そして
4時間煮込むと真っ黒になり、やっと渋みが取れました。
この煮た後のヒジキを2日間天日干しするとあの乾燥ヒジキになるのです。しかし
長時間煮ないと消えないヒジキの渋みの正体とは何なのでしょう?
ヒジキの表面付近の細胞に紫外線を当て、顕微鏡で見てみると、その表面が紫外線を吸収して青く光りました。実はこれが渋みの正体
タンニン
です。海藻は紫外線による細胞へのダメージを防ぐため、紫外線の量に応じて異なった防御物質を表面付近に持っています。
ヒジキなどの褐藻類は、大量のフロロタンニンを表面の細胞内に持つことで、紫外線を吸収し内部の細胞を守っていた
のです。このフロロタンニンは熱に強い特徴があるので4時間も煮ないと渋みの原因を取り除けなかったのです。この
タンニンをお湯で煮ると細胞が壊れてタンニンが溶け出し、酸化して黒く変色
します。だからゆで汁と細胞に残ったタンニンも酸化し、ヒジキそのものも黒くなるのです。 のです。
自然のヒジキは黒ではなく褐色!ヒジキの体を紫外線から守る渋み成分・タンニンを取り除くため、長時間煮込むことで黒くなるのだ!
さて、水に戻しただけのヒジキを街頭で試食してもらうと、ほとんどの人が「味がしない」と答えました。確かに、うま味成分の量はコンブと比べてもおよそ10分の1しかありません。では、
ヒジキそのものには味がないのに、なぜお袋の味と言われているのでしょう?
そこで、乾燥したヒジキ100グラムを水に入れると、みるみる膨らみ重さは10倍の1キロになりました。実は、
水で戻したヒジキはたっぷりと水分を含んでいるので塩分濃度が高いしょう油などの調味料とヒジキの水分が入れ替わりやすい
のです。だから、ヒジキ自体に味がなくても味付けがしみ込みやすく、お袋の味と言われているのでしょう。
ならば、
味を吸い込みやすいヒジキは色々な味にもなりやすいのでは?
と、いろんな味付けで調理してみました。
カレー、キムチ、ラーメンの味付けで作り、答えを知らずに試食した所さんは見事全問正解!
本当にヒジキは味がしみ込みやすいことが分かりました。
ヒジキそのものには味がないが、水分を多く含むので、調味料と入れ替わりやすく、味付けがしみ込みやすいので、お袋の味になった!
さて、「黒いから気持ち悪い」と見た目が要因でヒジキを嫌う人もいます。そこで、黒くても人気のイカ墨パスタに負けずと、黒いヒジキパスタを作ってみることにしました。粉末にしたヒジキをパスタの材料と混ぜ練り込み、濃い茶色の生地を作りました。磯の香りを活かしたソースと絡めて食べると、とても美味しく大成功でした。
ところで、
ヒジキはミネラル分が豊かで、中でも鉄分の量が食材界一
と言われています。例えば、水に戻したヒジキ100グラムで同じ量の鉄分をホウレンソウで摂ろうとすると600グラムに当たります。そこで
ヒジキから鉄分を取り出してみることにしました。
約2キロのヒジキを細かく砕き、炉で4時間焼くと150グラムの灰になりました。この灰に塩酸を加え濾過し、加熱し濃縮してくと黄色い液体になり、ここから化学的に鉄を取り出します。こうして
約2キロのヒジキから1グラムの純粋な鉄
が抽出できました。
なんと今からおよそ3000年前の
古代オリエント時代、地中海東海岸でヒジキなどを材料にガラスが作られていた
と文献に書かれています。そこで、
当時の材料を使い、
ヒジキの煮物を入れるガラス小鉢を作ってみることにしました。
海岸で砂を採集し、焼いて灰にしたヒジキ、そして強度を出すためのカルシウムが含まれているアワビの貝殻の粉末を用意。この3つの材料を混ぜ合わせたものを高熱の炉に入れて溶かし、当時と同じように手作業で小鉢の形を作ります。そして、ようやく古代オリエント時代のガラスの作品が完成しました。小鉢は材料に不純物が多かったので黒く仕上がりました。しかし、古代のガラスも同じ理由で透きとおったものはないので、この作品も当時とかなり近いものと言えるのです。