古葉100%(秘)
お茶
作り
第935回 2008年5月25日
日本人といえば
緑茶
!そしてこれから美味しい新茶の季節を迎えます。そこで今回は科学で
お茶
の美味しさの秘密に迫ります!
立春から八十八夜経った日に摘んだ新茶を飲むと、長生きすると言われ、その昔お茶は薬のようなイメージがありました。そこで、街行く人に現在のお茶のイメージを聞いてみると、50代以上の方々は「居間」や「和菓子」など家の中に関連するイメージが多く、対して30代以下の若者は「公園」や「ドライブ」など家の外や手軽というイメージを持っていました。では、
自宅で急須を使って淹れるお茶と、外で手軽に買って飲むペットボトルのお茶には一体どんな違いがあるのでしょうか?
実は煎茶にはお茶の代表的なうま味成分である
テアニン
の量が、ペットボトルのお茶に比べておよそ3.5倍も多く含まれていたのです(数種類の平均値)。この違いを生み出す秘密を探るため、
「原料」
、
「作り方」
、
「淹れ方」
を比較してみました。
まずは原料の秘密を調べるために、矢野さんはお茶処静岡県のお茶畑へ向かいました。茶摘みの様子を見てみると、なぜか上の方の葉しか摘んでいません。実は、これがいわゆる「新芽」で今年初めて生えてきたもの。4月頃から生えてくるこの新芽で作るお茶を「一番茶」あるいは「新茶」と呼び、茶摘みは、新芽が出たら摘むということを繰り返し、1年に4回ほど行うそうです。では、なぜお茶に古い葉は全く使われないのでしょう?
そこで、生えてから3、4年は経っている
古葉を摘み、研究所で古葉100%のお茶にしてもらいました。
早速淹れてみると、古葉茶は色も味も新茶に比べてかなり薄かったのです。成分を調べてみると、
古葉茶からはテアニンが、なんと新茶の20分の1しか抽出されなかった
のです。実は、若い葉は柔らかく細胞膜が薄いので成分が出やすいのに対し、古葉は硬くなってしまい、細胞膜を膨張させるまで時間がかかるので成分が取り出しにくいのです。お茶の原料は、うま味成分が出やすい、柔らかい新芽が最適だったのです。
さらに、お茶の葉は太陽光を長く浴びるとテアニンが減るので、日照時間が短い時期に採る一番茶の新茶は、二番茶〜四番茶の新芽よりテアニンが多く含まれています。そのため、ペットボトルのお茶には、一部を除いて高価な一番茶の新芽ではなく、二番茶以降を使うことが多いのです。
お茶に古い葉でなく新芽が使われるのは、新芽は柔らかく細胞膜が薄いので、テアニンといううま味成分が出やすいからだった!
さて、続いて作り方の違いを探ります。
お茶が機械で作られる工程は、まず、摘んだ新芽を蒸します
。蒸さないと、葉の表面にある酵素が働き、酸化が進んで発酵してしまうため、この
酵素の働きを熱で止める
のだそうです。次は、お茶の成分が出やすくなるように水分を取りながら葉の細胞を壊していき、そして、葉を針のような形に整え、最後に乾燥機に入れ完全に乾燥させたら、荒茶と呼ばれるお茶の完成です。全工程およそ4時間かけて作るこの機械製法は、明治時代半ばに確立されましたが、それ以前は
「手揉み」
をしていたというのです。そこで、矢野さんが手揉みのお茶作りに挑戦してみました。蒸した葉を「ほいろ」と呼ばれる台の上に乗せて機械と同じように手で葉の細胞を壊していき、揉み続けることなんと5時間で全工程が終了。この矢野さん作の手揉み茶の味を確かめるため、
機械で作った同じ新芽のお茶も用意し、年輩の方、OL、女子大生、男の子、お茶を知らないセネガル人の方に飲み比べ
てもらいました。その結果、なんと
全員が矢野さんの作ったお茶の方が美味しい
と答えました。実際にテアニンの量も矢野さんが作ったお茶の方が多かったのです。
手揉み茶は、機械で作ったお茶とは違い、お湯の中で元の一枚の葉に開き、お湯に触れる表面積が広くなるため、テアニンが出やすい
のです。煎茶もペットボトルのお茶も機械で作られますが、ペットボトルのお茶は大きな機械で一度に膨大な量が作られるため、繊細な作業が難しくなり、テアニンが少なくなるのだそうです。
そこで、
手の動きが似ている様々なその道のプロでスペシャルチームを結成し、手もみ茶を作ってもらいました
。まずは
焼きそばを焼いて30年の名人
にコテを使って葉振いしてもらい、続いて粘土をこねるプロ、
鬼瓦職人
に強く揉んでもらうと、次は
しめ縄作り職人
にバトンタッチ。揉み切りというお茶の葉を摺り合わせる作業をしてもらい、最後に
カリスマ整体師
が仕上げの揉み作業をしてついに完成!所さんはスタジオでこのスペシャル手揉み茶の味を大絶賛!なんとこのお茶は
名人が作った手揉み茶よりもテアニンが14%も多かった
のです。
最後は淹れ方の違いです。
お茶の味は、淹れ方でどれだけ変わるのでしょうか?
そこで、
日本茶インストラクター
と
マレーシア式ミルクティーの達人
、
お茶を滅多に淹れない女性
の3人に、同じお茶と沸騰したポットのお湯を使って淹れてもらいました。先ほどの5人に飲み比べてもらうと、全員が日本茶インストラクターのお茶が美味しいと判定。
インストラクターの淹れ方を見てみると、ポットのお湯を一度湯のみに入れ、冷ましてから急須に注いでいました。
実は、お湯が高温だと、テアニンの他に雑味も多く出てしまうため、
ポットから直接熱湯を注いでしまった他の2人のお茶は、美味しくなかった
のです。また抽出した
お茶は空気に触れると酸化していくのでなるべく早く飲むのも大切
です。ミルクティーの達人は、お茶を長く空気に触れさせてしまう緑茶には向いていない淹れ方なので美味しくなかったのです。ペットボトルのお茶と煎茶の淹れ方の違いは、
温度と飲むまでの時間
にありました。最近では、温度については、低温抽出製法などで改善されていますが、ペットボトルのお茶は、物理的に淹れたてを飲むことはできませんものね。
美味しいお茶を自宅で簡単に淹れるコツは、温度の低いお湯を使い、注いだ後なるべく早く飲むことが大切なのだ!