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レスリング 勝利方程式
第936回 2008年6月1日


 まもなく北京オリンピックが開幕!金メダルが期待され、特に注目されている種目と言えば女子レスリングです。今回はレスリングを科学します。

 北京オリンピックで最も期待されているのが、アテネの金メダリストで、119連勝という偉大な記録を持つ55L級世界女王・吉田沙保里選手!矢野さんはその強さを探るため、吉田選手の母校で練習の拠点となっている、中京女子大学を訪れました。矢野さんも一緒に朝練習に参加してみると、2人をおんぶして坂道を登り、室内トレーニングでは人を抱きかかえての背筋鍛錬や人を背負ってのスクワットなど、とてもハードな内容でした。しかし、学校には最新のトレーニング設備が揃っているのになぜこんな原始的なトレーニングばかりしているのでしょうか?日本代表監督でもある栄監督に伺ったところ、それは吉田選手に柔道着を着て戦わせれば秘密が分かるというのです。そこで、吉田選手とレスリング歴がまだ浅い西牧選手に柔道着を着て対決してもらいました。すると、吉田選手は格下の選手に技を一切出せずポイントを奪えないまま試合終了となりました。吉田選手に聞くと、襟や袖をつかまれるとタックルに入れないというのです。実は、レスリングは古来裸で行われていたスポーツで、持つ所がないので、相手の腕や手首などをつかんで技をかけます。そこで必要なのが強い握力。吉田選手と西牧選手の握力を計ってみると左右共に、吉田選手が大きく上回っていました。柔道着はつかみやすいので握力が弱くても相手の攻撃を封じ込めることができますが、相手の腕や首などより太いところをつかむレスリングでは握力で勝る選手が圧勝となるのです。裸同然で戦うレスリングは、より強い握力を必要とするスポーツだったのです。

所さんのポイント
ポイント1
レスリングは、相手の腕や手首などをつかんで技をかけるため、強い握力を必要とするスポーツだった!

 ところで、なぜ吉田選手はパワーにまさる外国人選手に勝てるのでしょうか?吉田選手は、ほぼ全ての試合を伝家の宝刀、タックルで勝ち取っていました。実は外国人選手は脚が長く重心が高いので、タックルが決まりやすいというのです。そこで、重さ50キロのサンドバッグを用意し、その片側に30キロの重りを詰め、重心が高い外国人選手にみたて3人のチビッコレスラーにタックルしてもらいました。まずは、重り部分を下にセットし重心を低くして挑戦してもらうと、全員が失敗。そこで、外国人選手のように重心が高いという設定でサンドバッグを逆さまにして再び実験しました。すると、チビッコは自分の体重の5倍もあるサンドバッグを簡単に倒すことができたのです。日本人がケタ外れのパワーをもつ外国人選手に対抗するには、重心が高いという弱点をついた「タックル」こそ、最高の武器だったのです。
吉田選手と柴田選手のタックル比較  そして、吉田選手のタックルのさらなる凄さを分析するため、他の選手のタックルとスロー映像で比較してみました。すると、普通の選手はタックルに入る前に大きく沈み込みそこからほぼ水平に相手に飛び込んでいきますが、吉田選手の場合は沈み込むという予備動作がなく、斜め一直線に相手の懐に飛び込んでいます
 では、この予備動作のないタックルがどれほど有効なのか、高校生の女子選手のタックルを屈強なアメリカンフットボールの選手に受けてもらいました。まずは普通にタックルしましたが2組とも倒すことはできませんでした。そこで2人の間にカーテンを置き、タックル直前まで相手から見えない状況を作ることで吉田選手のタックルを再現します。すると2組とも倒れ、見事成功!予備動作が見えないだけで、相手はタックルに備えることができず、不意を衝かれて倒されてしまうのです。吉田選手の最大の武器はこの予測不可能のタックルだったのです。

 さて、日本女子の強さの秘密は攻撃だけでなく、守り、ディフェンスにもあるといいます。その秘密を探るべく佐藤アナがチビッコレスラーと対戦しました。ルールは、佐藤アナは守りに徹し、子供達はタックル禁止です。すると、佐藤アナはチビッコ全員にあえなく惨敗してしまいました。体格にも力にも大きな差があってタックルも禁止なのに、なぜ守りきれなかったのでしょうか?実は、レスリングの守りで重要なのは「バランス」だというのです。バランス耐震実験レスリングは持ち手がなく、バランスを崩されやすいため、よりバランス感覚が要求されるのです。佐藤アナもバランスを崩されて投げられていました。では一体、レスリング選手のバランス感覚はどれくらいのものなのでしょうか?そこでレスリング選手、ジョッキを運ぶ居酒屋店員さん、ダンサー、サーファーの4人に、同じ量の発砲スチロール玉の入ったカクテルグラスを片手に持って、起震機に乗り震度7の揺れの中こぼさないように1分間耐えてもらいます。実験終了後、玉の数を測ると、なんとレスリング選手は一粒もこぼさずに圧勝でした。実験中の様子を見てみると、見事に揺れを吸収しています。レスリング選手は日々の練習でバランス感覚を鍛えることで敵の攻撃を防いでいたのです。ちなみに吉田選手の片足立ちで目をつぶったときの「重心移動」を測定すると他競技の選手より、圧倒的にバランスが優れていることがわかりました。

所さんのポイント
ポイント2
レスリング選手は、敵の攻撃を防ぐため、日々の練習でバランス感覚を鍛えているのだ!




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