月1回で快適!?
耳
かき
第974回 2009年3月1日
3月3日といえば、ひな祭りですが、33(みみ)ということで、「
耳の日
」でもあるんです!そこで今回は、最近、日本人の耳を襲っている問題について科学します。
Case・1
最近は、耳かきブーム。店には様々な形状や材質の耳かきが並び、耳かき専門店も登場するほど。街の人に聞くと、気持ちがいいという理由で、
毎日耳かきをする人は35%、2〜3日に一度という人が30%もいました。
では、どの辺りが気持ちいいのか、1cmごとに色分けした耳かきで耳掃除してもらい、その深さを調べてみました。
その結果、皆さん入り口から1〜2cmの間が気持ちいいようです。そこで、耳の断面写真を見てみると…1cmを越えた辺りから皮膚が薄くなり、神経に近くなっていました。だからこの辺りが気持ちよく感じるのです。しかし、
2cmを越えると、皮膚の真下が骨なので、大変傷つけやすく危険
。最近は間違った耳掃除をして、耳の穴が真っ赤になる「外耳道炎」になり病院を訪れる人も増えているそうです。
では、耳の奥はどうすればいいんでしょう?そこで、矢野さんの耳の中を内視鏡で見てみると、なんと
入り口から1cm付近の細かい毛の部分だけに耳アカが溜まっていて、奥の鼓膜周辺には耳アカが一切なくキレイだったんです。
先生によると、耳アカが溜まるのは1cmより手前で、それより奥は掃除しても全く意味がないというのです。試しに耳の奥に青い染料で目印をつけ、10日後に見てみると、目印は入り口の方に移動していました。実は
耳アカの正体は、鼓膜の中心から新しく出来た耳の皮膚が、新陳代謝のために入り口へと移動して耳の毛にぶつかり剥がれ落ちたもの
だったんです。さらに、黄色ブドウ球菌のいる培地の中心に耳アカを置き、24時間培養してみたところ、なんと耳アカの周りには菌が繁殖しなかったのです。実は、耳アカは
リゾチーム
という抗菌力の高い物質を含み、この働きで耳の中を雑菌から守っているんです。だから取りすぎも良くなく、1ヶ月に1度で十分なのです。
抗菌作用を持つ耳アカの掃除は月に1回で十分。さらに、入り口から1cmの所までしか溜まらないので、奥を掃除しても意味がないのだ!
Case・2
今や一人に一台は当たり前の
携帯音楽プレーヤー。
そして街でよく見かける、外に漏れるほどの大音量で音楽を聴く若者は、「シャカ男君」と呼ばれているそうです。しかし、あれだけの大きい音で耳は大丈夫なんでしょうか?そこで、渋谷と秋葉原で若者が聴いている音量を調査してみました。すると、
85dB(デシベル)を超える人が4割以上もいたんです。
専門医によると、長時間聴くとかなり耳にとって危険な音量とのこと。これはパチンコ店の店内に匹敵するレベルの音量ということで、パチンコ店へ向かう2人の若者に協力してもらい、聴力の変化を調査してみました。2人に
パチンコを楽しんでもらった2時間後、1人目の聴力を測定すると、なんと実験前には通常だった聴力が急速に落ちていたのです。しかし、15分後、もう一人の聴力を測ってみるとほとんど低下していませんでした。
聴力は時間が経つと元に戻るのでしょうか?実は、耳から入ってきた音は鼓膜を振動させ、耳小骨を通り、その奥にある蝸牛(かぎゅう)と呼ばれる器官に伝わります。そして、蝸牛の中にある
有毛細胞
と呼ばれるセンサーを震わせ、その信号が脳に伝わる事で音が聞こえます。この
有毛細胞はとても繊細で、大きな音にさらされると簡単に傷ついてしまう
のです。有毛細胞は、間を置けば一旦は回復しますが、毎日傷つけられていると、確実に悪くなってしまいます。悪くなると治療はできないので、注意が必要です。
Case・3
高齢化社会の日本。老人性難聴に悩む人は2000万人とも言われています。そんな方々の必需品といえば
補聴器
。最近は進化しているようですが、原始的な補聴器は、単なるラッパ型をしていて音を集めるだけ。実は、よく聴こえない時に耳に手を当てるのもこれと同じ原理なのです。では、
人間の耳の形はどれほどの集音能力を持っているのでしょうか?
正面のスピーカーから同じ音量の音を出し、マイクだけの音量と、耳の中にセットした音量の差を計測してみると…
耳の形にはわずか1.2倍しか集音効果がなかったんです。
実は耳にはもう一つスゴイ機能があるそうなのです。
そこで、東北大学の研究室にある、音の出ている方向を判断する能力を調べる「球状スピーカーアレイ」という装置に矢野さんが入り実験です。70個並ぶスピーカーのどこから音が出ているか指を差して答えていきます。まずは普通の状態だと、縦横どちらの方向からの音も全て正解でした。しかし、耳のひだに粘土を詰め、耳をテープで固定し、平らな状態にして同じテストをしてみると、縦方向は全問不正解で、横方向も数問しか正解できませんでした。実は
人間の耳の形は、音がする方向を判断するのに役立っていたんです!
後ろからの音は、耳を回りこんでから入るので、前からの音より聴こえづらく、その違いで判断します。左右の場合は、耳に届く時間差や音量の差で判断するため、いくつか正解したのです。
耳の形には、音を集めるだけではなく、音がしている方向を認識する大事な役割があったのだ!