江戸前
の科学
第1231回 2014年6月15日
今回の舞台は、大都市に囲まれた東京湾!
1960年代以降、急激な埋め立てにより漁場が激減した東京湾ですが、今、水質も徐々に改善。かつての豊かな海を取り戻しつつあるんです。そこで!今回の目がテンは、絶品グルメ満載!「江戸前」を科学します!
①今が旬!江戸前アナゴの不思議な生態とは?
最高級の江戸前アナゴを捕るべく、向かったのは横浜・八景島にほど近い「柴漁港」。迎えてくれたのは、アナゴを捕って33年の斎田芳之さん。街からさほど離れていないポイントで、さっそく引き揚げたのは、何やら筒のようなもの。筒を開けると、出てきたのは体長40センチを超える立派な「梅雨アナゴ」!でも、どうして筒でアナゴが捕れるのか?
実は、筒の両側には返しが付いたフタがしてあり、一度中へ入ると、外へは出られない仕組みになっているんです。さらに、筒の中にイワシやイカなどのエサを入れ、アナゴをおびき寄せます。
では、本当にアナゴはニオイに敏感なのか?筒のフタにカメラを付けて観察!すると…日没後の暗闇の中。エサのニオイにつられてアナゴが筒の中に!実は、アナゴは夜行性。暗くてもエサを捕らえられるように嗅覚が発達しているんです。筒を使ったこの漁法は、アナゴの嗅覚を利用したものだったんです。さらに、この中に入って行ったアナゴは、水と一緒に船の水槽へ行くというんです。試しに開けてみると…中には、アナゴがびっしり!と、そこに!空の筒を投げ入れました!なんでも、斎田さん曰く「アナゴは寂しがり屋」なんだとか!では、アナゴはどれだけ寂しがり屋なのか?実験です!2本の筒を入れた水槽にアナゴを2匹、放ちます。
いったい、どのようにして筒に入るのか?すると…さっそく、一匹目がAの筒に入りました!そしてもう一匹は…Bの筒を通り越し、仲間のいるAの筒へ!体をピッタリと寄せ合い、2匹仲良く、Aの筒に入りました!続けて3匹目を投入すると…またしても、仲間のいるAの筒へ!どうやら、アナゴの寂しがり屋は本当だったようです。
では、どうしてアナゴは狭い所に入ろうとするのでしょうか?専門家に伺うと、「アナゴは常にどこか中に入っている体が何かに触れていないと落ち着かない魚なので、みんなで入って落ち着いてしまう」。一般的にアナゴは普段、砂の中に潜っていることが多く、体が何かに触れていないと落ち着かない性質なんだとか。
筒を使った漁ができるのは、体が何かに触れていたいアナゴの性質を、うまく利用していたものでもあったのだ!
②江戸前仕事実験!大トロもヅケでウマくなる?
今や、ニッポンが世界に誇るべき、伝統の食文化「江戸前鮨」。その魅力を探るべく、伺ったのは…今もなお、江戸前伝統の味と技を守り続ける「ととや」の鮨職人、関根さん。仕事とは、鮨ダネの下処理のこと。煮る、蒸す、漬け込む…さらにコブ締めや酢締めなど、ネタの性質に合わせ、多くの仕事が施されています。「江戸前鮨」とは本来、東京湾で捕れた新鮮な魚を使った握り鮨のこと。冷蔵技術が乏しかった江戸時代。仕事の主な目的といえば、"魚を日持ちさせること"でした。しかし、時代を経た今、"魚をよりおいしく食べること"こそが、仕事の本質だと言います。中でも、ご主人がこだわるのが「マグロのヅケ」。
まずは沸騰したお湯でおよそ10秒間湯引きします。その後、氷水に浸すと…表面にうっすらと膜が張られます。そしてしょうゆとみりんを水で割ったツケ汁に浸します。マグロを湯引きすると…外側のタンパク質が変性し、膜が出来上がります。それをツケ汁に浸した時、マグロ本来のうま味は閉じ込めつつしょう油のうま味を外側から徐々にしみ込ませていきます。実はマグロには、筋肉を動かすエネルギーとなる、ATPという物質が多く含まれています。そのATPは時間が経つとうま味成分のイノシン酸に分解されていきます。これが、いわゆる熟成。仕事を施すことでネタを腐らせずに、熟成させ"うま味のピーク"を引き出しているんです。
ならば!超高級の大トロもヅケにすればもっとおいしくなるのでは!?そこで、赤身と同じ要領で大トロを湯引きした後、ヅケにします。同じ時間、しょうゆに漬け込んだら…特製「大トロヅケ」の完成!それを握りにして、どちらがおいしいか?食べ比べてもらいます。男女6名にまずは、Aの赤身のヅケ、続いてBの大トロヅケの試食してもらいます。どちらが美味しいと思ったか判定してもらうと…なんと!6人中4人がAの赤身のヅケの方がおいしいと答えました!実は、大トロはヅケには向かないと言うんです。赤身と比べると…大トロはおよそ20倍も脂肪が多いことが分かります。そのため、大トロの脂がしょうゆを弾きうま味がしみ込まなかったんです。
所さんも絶賛!ご家庭で出来る「マグロのヅケ干し」。
今回のスタジオでは、ご家庭で余ったお刺身を使って簡単に作れる「マグロのヅケ干し」のレシピもご紹介。その作り方とは…
①余ったお刺身を湯引きせず、しょうゆ2、みりん1の割合のツケ汁に浸し、風味付けにショウガのスライスを入れます。
②それを、冷蔵庫で3日間漬け込みます。
③3日後、ツケ汁を切り、ザルの側面に並べ、時々裏返しながら冷蔵庫で1週間乾燥させれば、出来上がり!
ヅケは、マグロの赤身をよりおいしく食べる、究極の仕事だったのだ!
③東京湾で深海魚をゲット!新たな江戸前鮨誕生なるか?
昨今、世間を騒がす謎の深海生物…。海には、こうした未知の魚が数多く潜んでいます。そんな深海生物が棲む"秘境"が、実は東京湾にもあったんです!そこは…「東京海底谷」。横浜からわずか20キロ先で海底が急激に落ち込んで行きます。その大峡谷(だいきょうこく)に謎の深海生物がいると言うんです。さっそく、深海に潜む知られざる江戸前を探して一路、東京海底谷へ!案内して頂くのは、深海釣り40年!ディープマスターこと岡本光央さん。三浦半島の間口漁港からおよそ30分。水深500mのポイントに到着!今回は、5本の針にサバの切り身と疑似餌を仕掛けます。
そして投入からおよそ10分…何かに引っ張られ、不規則に動く竿先。すると…深海魚のシマガツオをゲット!その後も、高級カマボコの原料となるギス、さらには体長1mを超えるヘラツノザメなど、多くの深海魚が釣れました!
釣った魚を持って向かった先は、江戸前鮨屋の「花勘」。さっそく、見てもらうと…珍しい魚を前に、店主も興味津々。はたして、江戸前の仕事で深海魚をおいしくすることはできるのか!?所さんがスタジオで試食をしたのは…「ギスのライム締め・浮き袋」「桜の葉で蒸したヘラツノザメ」「シマガツオのヅケ」「クロシビカマスの炙り」の4貫。 この中から、所さんが新・江戸前鮨に認定したのは・・・「ギスのライム締め・浮き袋」でした!
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