土鍋
の科学
第1262回 2015年2月8日
まだまだ続く、寒い日。そんな日にぴったりなのが…鍋料理!「鍋」と一口に言っても、その種類は実に様々。好みや食材によって姿を変え、連日、日本の食卓を美味しく彩ってくれます。
そこで今回は、鍋料理に欠かせない「土鍋」を徹底分析!調べてみると…鍋料理以外の様々な料理にも活用できる万能鍋だったんです!
①金属鍋と土鍋で"うま味成分"に差は出るのか?
何故、鍋料理には土鍋が欠かせないのでしょうか?そこで、明治22年創業の割烹・鍋料理の老舗「三州家」に伺いました。
お店の女将、宮地さんに聞くと、「土鍋の方が金属鍋より美味しく仕上がる」とのこと。では、本当に土鍋の方が金属の鍋よりも美味しく仕上がるのでしょうか?そこで実験!金属の鍋と土鍋でうまみ成分を比較します。
作るのは「鶏肉の水炊き」。まずは金属の鍋に、白菜などの野菜と…鶏肉を入れます。この時、鶏肉には温度計を差し込み、中心の温度が分かるようにします。そして、中火で加熱開始。鶏肉の温度が、16℃から肉が煮える80℃になるまで加熱して、火を止め、鍋から取り出します。
続いて土鍋。金属の鍋と同じ条件・中火で鶏肉を加熱。こちらも鶏肉の温度が80℃になったら取り出します。この金属鍋と土鍋で煮た鶏肉を東京農業大学醸造科学科に持ち込み、旨み成分差を分析しました。
すると結果は、金属の鍋で煮た鶏肉にはうま味成分「グルタミン酸」が、100g中20mg入っていました。一方、土鍋で煮た鶏肉は27mgと、なんと!土鍋の方が3割以上も多くうま味成分が検出されたんです。
では、なぜこの様な差が出たのでしょうか?加熱調理の専門家、横浜国立大学の渋川祥子名誉教授に話を伺うと、「グルタミン酸はタンパク質を作っている成分の1つ。そのタンパク質が酵素で分解されてうま味成分として感じる事が出来る。その酵素が働きやすい温度35℃〜55℃ぐらいの間をゆっくり通過すれば、酵素がその間に(たくさん)働くと考えられる」とのこと。そこで、鶏肉の温度が酵素がよく働く35℃〜55℃の間にあった時間を調べてみると…金属鍋では3分04秒であったのに対し、土鍋は4分42秒。土鍋の方が1分半以上も酵素が働く時間が長かったんです。これについて渋川先生は、「土鍋は金属の鍋に比べて温まりにくく、冷めにくいという蓄熱性が高いために、その為にグルタミン酸が増えている」と解説。
"温まりにくく冷めにくい"土鍋の構造が、うま味成分「グルタミン酸」が増える理由だったのだ!
②うま味を引き出す蓄熱性。鍵を握るのは"土鍋の穴"?
萬古焼(ばんこや)きと呼ばれる焼き物の産地で、土鍋の生産量日本一を誇る「三重県四日市市」。国内で生産される土鍋の8割がこの地で作られています。今回、株式会社華月さんの土鍋工場にお邪魔して、滅多に見られない土鍋の製造工程を見せてもらいました!
まず目にしたのは、土鍋の成形。原料である土の塊をレーンに乗せ、一部をカットした後、土鍋の型枠に入れていきます。回転するこてを土に押しつけ、土鍋の形へ。厚みのあった土が、みるみるうちに薄くなっていきます。削られた土も後々再利用されるそうです。
その後、形を整えたら…表面に、「釉薬(ゆうやく)」と呼ばれるガラス質の材料をかけます。こうすることで水が漏れない焼き物になるんだとか。内側にもしっかり付けます。その後、1200℃の高温で焼き上げたら完成。先ほどつけた釉薬は、焼きあがると美しい黒に変わりました。こうした釉薬の違いによって、様々な色や柄の焼き物が生まれます。土鍋の製造工程をのぞいたところでさっそく本題!なぜ土鍋がゆっくり温まるのか聞いてみると、「土鍋に空いたたくさんの穴」が理由なんだとか。
そこで、構造を詳しく調べる為、市内にある焼き物の研究所「窯業研究室」へ。すると…いきなり土鍋をカットし始め…あっという間に…真っ二つに。その断面をみてみると、何やらポツポツと細かい穴が空いています。試しに、焼く前の土鍋の断面も見てみると…穴はありません。
実はこの穴、土鍋を焼く際、原料の土に入っている有機物が燃えて無くなる際に生じる空洞だったんです。一見、穴がないように見える部分も…電子顕微鏡で見てみるとたくさんの穴が!これら大小様々の黒い点が肉眼で見えなかった穴。ここには空気が含まれています。
土鍋の素材である土自体も蓄熱性が高いのですが、この穴がさらに土鍋の蓄熱性を高めていたのです。
食材の美味しさを引き出す"ゆるやかな加熱"を生み出していたのは土鍋に空いた"空気を含む穴"だったのだ!
③鍋だけじゃない!美味しくカンタン"土鍋レシピ"を紹介
土鍋を使って、鍋料理以外にどんな料理が作れるのでしょうか?
今回教えて頂くのは、お米を使ったちょっぴりオシャレな「土鍋ピラフ」。材料は、米1カップに対して、出汁1カップ、里芋、干しエビ、あさつき、バターと調味料。お米は10分浸水して15分水切りしています。あらかじめ油を引き中火で予熱した土鍋にお米を入れ炒めます。
そこに、干しエビと角切りにした里芋を入れ、5分程度炒めたところで酒、塩、醤油で味付けした出汁を1カップ入れます。そして、強火にし…出汁が沸き立ってきたところで蓋をして弱火に。そのまま待つこと6分。
一旦蓋を開け、バターを入れます。そして、ここで火を止め5分程度蒸らします。お米を炊く時に必ず蒸らすのは、米粒の中心まで熱と水分を十分に届かせるため。上手にむらすとお米が甘く柔らかくなります。 蓄熱性の高い土鍋は、蒸らしている間の温度の下がり方がゆっくりなので、自然と理想的な蒸らしになるんです。土鍋で炊いたご飯が美味しい理由がコレ。いつもの食卓をオシャレに彩る!カンタン土鍋ピラフの完成です!
★★★★★土鍋を使ったおいしいレシピ集★★★★★
番組で紹介した土鍋料理のレシピを公開します。
●「土鍋」ピラフ
[材料:1〜2人前]
米:1カップ
里芋:中1こ(皮をむき1cmの角切り)
干しえび:大さじ2程度(5mm大)
バター:大さじ1〜2
あさつき:小口切り
【A】
出汁:1カップ・酒:大さじ2・塩:小さじ1/3・薄口醤油:大さじ1
[作り方]
お米をといでから10分水につけ、15分水切りする。
土鍋に油をひきしっかり温め、米、干しえび、里芋、の順に中火で軽く炒める。
【A】を加え蓋をする。
沸騰したら弱火にして大きく中を混ぜる。
蓋をしたまま弱火で5〜6分炊いたら火を消す。
バターを加え5分蒸らす。
切るように混ぜたら完成。
あさつきは食べる直前に散らす。
●「土鍋」ローストビーフ
[材料:4人前]
牛もも肉かたまり:1kg(土鍋に収まる大きさのもの)
オリーブオイル:大さじ1
じゃがいも:5こ(皮を剥く)
にんじん:1本(皮ごと大きめ乱切り)
セロリ:1本(筋を引き、5cmの長さに切る)
クレソン:適宜
【A】
塩:小さじ1・にんにく(すりおろし):小さじ1・胡椒:少々・赤ワイン:大さじ3・オリーブオイル:大さじ2
【B】
チキンスープ:1カップ・赤ワイン:1/3カップ
【C】
赤ワイン:1/2カップ・醤油:大さじ2・みりん:大さじ1
[作り方]
牛ももの形をタコ糸で調え、【A】を擦り込み30〜60分室温に置く。
焼く前に肉の水気をキッチンペーパーなどで押さえる。
土鍋にオリーブオイルを加え蓋をしてしっかり予熱し、肉の6面を焼き色が付くまで焼く。
野菜を加え【B】を回しかけ蓋をする。
そのまま10分ほど時々肉を回して焼き面を変えながら蒸気で加熱する。
煮汁がヒタヒタになったところで肉に竹串をさし温度をみる。
串を肉の中までさして引き抜いた時に、串がほんのり温かかったら火を切る。
野菜の上に肉をのせ蓋をして約10分置くことで熱を回す。
その後、土鍋から肉を取り出し粗熱を飛ばす。
再度野菜のみに火を入れ、ちょうど良い所で火を切る。
煮汁と【C】を煮詰めてソースを作る。
肉をスライスし盛りつけ、ソースをかけて完成。
●「土鍋」肉じゃが
[材料:3〜4人前]
メークイーン:300g(大きめの乱切りで面をとる)
牛肩ロース:200g(6cm大に切る)
生姜千切り:大さじ1
ごま油:大さじ1
三温糖:大さじ1と1/2〜大さじ2
酒:1/4カップ
水:2カップ
醤油:大さじ2
絹さやえんどう:10枚
[作り方]
土鍋にごま油をひき、生姜の千切りを加え中火で香味をたたせる。
水に漬けてでんぷんを抜いたじゃがいもと面取り部分を加え油が馴染む程度に炒める。
肉を上に広げ少なめの三温糖を散し、大きく上下を返すようにさらに炒める。
軽く火が通ったら酒、水を加え煮立て、灰汁をすくい、弱火にして蓋をして10分煮る。
味をみて三温糖を加えさらに10分煮てから、醤油を加え蓋をせずにさっと煮て味を調え火から下ろす。
絹さやのへたを取り、斜めに切り鍋上に散し蓋をする。
1分程度、土鍋の予熱で絹さやを加熱したら完成。
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