築地
の科学
第1269回 2015年3月29日
世界最大級の市場「築地市場」といえば、やっぱりグルメ!
今回はおいしさの秘密にとことん迫る「築地の科学」です!
①築地グルメはなぜ美味しい?
新鮮な食材が行き交う市場の一角にあるのが「魚がし横丁」。市場で仕入れた食材やプロ仕様の調理道具など、料理のプロが通うお店がずらり約140軒も立ち並ぶ大商店街!
築地といえば魚介類ですが、あるお店の人気メニューは、週3日しか出していないという、チャーシューエッグ。魚がし横丁にある、39の飲食店のうちお寿司や海鮮丼以外の料理をメインで出すお店は23軒。なぜ海鮮以外のグルメが人気なのか?多くの築地グルメファンは、味が濃い目で美味しいという意見。では築地グルメは、どれくらい味が濃いのか?そこで隣接する銀座のグルメと比較検証します。
築地魚がし横丁にある飲食店11軒のお店に協力して頂き、人気料理の塩分濃度を計測させてもらいました。
そして同じメニューを出す銀座のお店も11軒測り終えたところで、結果を比較してみると…11軒中10軒、築地グルメのほうが、塩分濃度が濃いという傾向になったのです。でも、平均してみたところその差はたった0.2。「おいしさ」の研究のため、築地でも数々の検証を重ねる日本味育協会講師・料理研究家宮川順子先生によると「料理で出された場合、かなり集中しないと分からない味。」とのこと。塩分濃度0.2%というと100mlの水に対して、塩は0.2g。人差し指の先にちょこんと乗る程度の量です。
では、なぜ築地で食べた人は、皆さん味が「濃い」と感じたのでしょうか?専門家によると「食材に含まれている旨味に秘密がある。もともと旨味は、それ自体にインパクトがない。ぼや〜っとした味。それに塩分が入ることで旨味がグッと引き出されて美味しく感じやすくなる。体を作る元になるタンパク質の基であるアミノ酸、これが旨みのもと。それがちょうど塩分と一緒になると"おいしい"と感じるようにできている」とのこと。
ならばと、今度は築地の旨味を調査!魚がし横丁のお蕎麦屋さんの調理場におじゃますると、大量の鰹のけずり節を投入!旨みたっぷりの出汁が効いた、料理が作り出されていました。ある定食屋さんの場合は、歩いて30秒ほどの乾物屋さんから、必要なときにすぐ、削りたての鰹節を大量に買い付けています。そして、昆布出汁をとった鍋にどっさり投入!鰹の旨味たっぷりの贅沢な出汁をとっていました。この出汁を中華スープなど、いろいろな料理に加えて、旨味の濃い料理を作り上げていたんです。
調べてみると、築地の多くの店が、いつでも手軽に手に入る鰹節や昆布をふんだんに使い、出汁をとっていたんです!
ちなみに、築地は、銀座などのお店のようにゆっくりとお酒を飲みながら味わう場所ではなく、主に中で働く人が、パッと食べてパッと帰る回転の早いお店がほとんど。その場合、最初の一口で「うまい」と感じるインパクトが必要なんです。だから築地はハッキリと濃い味付けの「わかりやすい味」として、観光客にも人気になった、というわけなんです。
築地グルメの味が濃く感じるのは旨味が多いからなのだ!
②築地の魚介類は新鮮だからおいしい?
築地の料理と聞いて、連想するのは「新鮮」というワード。ならば、一体どれほどの鮮度で料理を出しているのか、仕入れから調理まで密着させて頂くことに。密着するのは、築地場外市場に店を構える、魚料理屋ご主人・小川さん。
朝9時、仲卸業者に仕入れに来ました。そこでピチピチの生きた鯛!をお刺身用にゲット。これを、その場でシメてもらいます。シメたばかりの真鯛を、歩いて5分ほど、場外市場にあるお店でさっそく調理開始!ウロコを丁寧にとって、内蔵を取り出してしっかり洗い、さっそくさばく・・・と思いきや紙に包んでしまいました。その状態で3日間、熟成させてからお客さんに出すとのこと。シメたばかりの鮮魚は、旨味がないというのです。
そこで、その日に水揚げされた鯛を、生きたまま入手。東京海洋大学の協力の下、旨味成分を計測してもらうことに。先生自ら鯛をシメ、直後から3日間で旨味成分がどう変化していくのかを観察します。結果は、シメたばかりはゼロだった旨味成分イノシン酸が徐々に増えていき、料理屋さんで冷蔵庫に寝かせていたのと同じ、3日経った頃には、100g中400mgを超える量になっていました。東京海洋大学・大迫准教授によると、「魚が生きている時は、アデノシン三リン酸というものが、魚の肉の中にあり、それは運動する時のエネルギーとなる。しかし、魚が死ぬと分解してイノシン酸へと徐々に変わっていく」とのこと。旨味成分であるイノシン酸は、シメた直後には全く存在していないのだというんです。さらに驚いたのは、塩焼きにした時の違い。シメたばかりの鯛の身は、スゴイ勢いでくるりと丸まっていきます。一方で、3日熟成した方は、少し丸まりましたが、また元に戻って行きます。身が硬直せず、柔らかいままというわけなんです。熟成させるとさせないのとで、こんなにも違いが出たんです。
鯛を3日間熟成させた時の、旨味成分イノシン酸の量を表したグラフでは、24時間の時点で、イノシン酸の量は充分増えています。では、なぜさらに2日寝かせたかというと、シメたばかりの鯛は焼くと硬くなることに関係があるんです。生きている時の魚の筋肉内にはアデノシン三リン酸があります。これは筋肉が収縮するのを抑える働きがあるんですが、魚をシメると、アデノシン三リン酸がなくなり、筋肉が固くなってしまうんです。それが、24時間過ぎた辺りから筋肉の硬直が溶けていき、魚の身はどんどん柔らかくなるんです。つまり今回、3日間熟成させた鯛は、旨味も充分、柔らかさも出て、腐敗の心配もない、一番美味しい食べ頃になっていたんです。
築地の美味しさっていうのは、それぞれの魚の一番美味しいタイミングを熟知したプロが集まる場所だからこそなのだ!
築地名物「玉子焼き」の美味しさの秘密
築地市場の外、場外市場で大人気の築地名物玉子焼き!築地には、場内と場外合わせて、なんと10社もの玉子焼き屋さんが集中しているんです。寿司の彩りや口直しに欠かせない玉子焼きが、専門店となって発展したのが、ここ築地なんです。その美味しさの秘密を探るため、3店の老舗の焼き場を見せてもらいます!
まずは、「つきぢ松露」。60年以上築地に店を構える老舗です。こちらの玉子焼きは、玉子の3分の1程、たっぷり出汁が入っているのが特徴。この道50年の三代目社長、齋藤さんいわく、柔らかい生地を綺麗に焼くには、玉子の中心部となる、この最初の形作りが大事なんだとか。出来上がったのは、甘さの中に出汁の味わいたっぷりの柔らかい玉子焼きです。
続いては、築地の場内に店を構える丸高。昭和13年から玉子を焼き続ける老舗です。料理酒と発酵調味料を出汁に入れ、酢飯と合うように味付けされているのがこちらの特徴。焼いているのは、この道50年のベテラン巨匠・島津さん。東京都から功労者として表彰される腕前の職人さんです。他のお店の倍近く、10分ほどかけて丁寧に焼あげられた玉子焼きは、角がピンと整って「美しい」と評判です。
そして、60年以上築地で卵焼き専門店を営む玉八商店。味付けは、鰹だし、醤油、砂糖、塩、みりんのみ。シンプルなだけに、素材の質と配合にこだわりがあるとか。この道39年の工場長はじめ、ベテラン職人たちが1人5枚ずつ全工程を1人で行う手焼き。程よい甘さで素朴な味わいが特徴の玉子焼きです。
それぞれ焼き方は違えど、実は、おいしい玉子焼きを作るのに、欠かせない、共通ポイントがありました。そこで「目がテン流!お家で作れる究極の玉子焼き」をご紹介します。
その一…混ぜ過ぎ厳禁!意見を結集したところ、玉子の正しい溶き方は、最初に黄身を潰し、それから箸で10回ほど下から上に持ち上げるようにして、白身を切ります。ここから20回だけかき混ぜます。それだけ?と思うかもしれませんがこれでいいんです。玉子の3分の1の量の出汁を投入。これ以上混ぜすぎないよう、軽くクルクル合わせます。
その二…中火くらいで思い切りよく!半分くらいの量を、一気に入れます。フライパンに入れた時、ジュワーと白波が立つくらいの温度で焼くのが適温。焦げ付くことを恐れて弱火で焼くと泡が立たずにふんわり焼けないそうです。表面が半熟になったら、巻いていきます。巻いたら、残りのうちの半分を入れますが、この時、巻いた玉子の下にも卵を流し入れると、途中で玉子がはがれません。このように、巻いて流し入れる、をあと2回繰り返します。
こうして焼きあがった玉子焼きは…ご覧のとおり、出汁が染み出す、ふんわり玉子焼きになりました!
家でおいしい出汁巻き玉子を作る時は、20回程度しか混ぜないのがポイントなのだ!
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