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バイオロギング の科学
第1323回 2016年4月24日


 ペンギンが海の中を飛ぶように泳ぐなど、人では絶対に撮影できない、世界で初めての映像。実は、ペンギンの背中にカメラを付けて自分で撮ったもの。これは、生物自身が行動を記録する「バイオロギング」という研究手法。それが今、動物たちの知られざる生態を次々と明らかにしているんです! 

①バイオロギングとは?

 バイオロギング研究27年、東京大学大気海洋研究所の佐藤克文教授は、これまで世界28カ所でおよそ50種類もの野生動物をバイオロギングで調査。実は「バイオロギング」という言葉は日本で生まれたもの。動物に装置を取り付けて行動を記録する研究は以前から行われていたんですが、2003年に日本で初めて国際学会が開かれた時に、佐藤先生たちがバイオロギングと命名したんです。
 バイオロギングで実際に使う道具は「データロガー」という装置。水中の生物に使うタイプには、これ一つで動物の遊泳速度や深度、潜水時間や水温などが記録できます。またカメラについても、2000年代にカメラの小型化が一気に進み、2014年に開発された最も小さいカメラの重さはわずか15グラム。デバイスの小型化は日本のお家芸。こうした技術革新がバイオロギング研究には不可欠だったんです。
 これらの装置をどのように動物たちに取り付けているのか?佐藤先生が最初に研究したウミガメの場合、まずはデータロガーとカメラをカメの甲羅に特殊な樹脂で取り付けます。体も大きく動きの遅いウミガメはこれまで海の底にいる貝やウニなどを食べているとされていたんです。しかしおよそ7年間の試行錯誤を経て、バイオロギングで衝撃の事実が分かったんです!
 映像には、ウミガメがエサを追いかけて懸命に泳いでいるシーンの撮影に成功。それは、ガザミと呼ばれる水中を泳ぐカニでした。さらにクラゲを食べる姿の撮影にも成功。通常、何を食べているか調べるのにはフンの調査などをするのですが、クラゲなどはフンには出てこないものなので、これまで分かっていなかったんです。ウミガメは動きが遅く、捕食のチャンスも少ないため目の前のものには何でも食いつく雑食性であることが映像で裏付けられたんです。

所さんのポイント
ポイント1
動物につけた映像で知らなかった事実がたくさんわかったのだ!


②空の王者・タカでバイオロギング

 バイオロギングという研究手法をより深く知るために、目がテンも、ある生き物のバイオロギングに挑戦!  バイオロギングでは今、鳥の生態の調査も進んでいるんです。そこで、鳥のバイオロギングのホープ、名古屋大学の山本先生に協力して頂きました。今回、バイオロギングで解明する猛禽類は16歳の鷹匠のホープが操る空の王者・タカ!羽根を傷つけないよう特殊なテープを使ってカメラを固定します。
 今回は、鷹匠が普段行っている、キジを使った訓練で撮影します。眠ったキジをタカから30m離れた場所に固定。キジが目を覚まし飛び立つと、タカが反応し、狩りを始めるというものです。
 さっそく挑戦。するとキジを追ったタカは山の中へ。完全に見失ってしまいました。探し始めて30分。無事、タカを発見!しかし、見失っていたあいだタカはいったい、何をしていたのか?早速、映像をチェックすると…激しくブレた映像の中に直前まで追い詰められたキジの姿が映っていました。山本先生はこの映像を読み解くと、タカの意外な生態が見えてくると言うんです。例えば、映像にはタカが地面すれすれを飛ぶ様子が映っていました。実はキジは頭上を警戒する習性があり、上から追いかける敵に対しては非常に敏感。そこでタカは、低空飛行でキジに見えないところから追いかけていたんです。
 また映像では、タカは獲物を捕らえられると判断した時にだけ全速力で飛行し、無理だと思ったらすぐに諦めて木にとまって休んでいました。佐藤先生がいろんな動物をバイオロギングして分かってきたのは、"動物たちはすぐサボる"ということ。必要がなければ本気を出さない、というとっても合理的な行動が自然界の原則なんです。

所さんのポイント
ポイント2
バイオロギングによってタカの生態を映像で確認することができたのだ!


③川に大量出現!クロダイの謎

 やって来たのは、広島湾の河口からおよそ7キロも上流の地点。ここで、本来川にいないはずの海の魚「クロダイ」が大量に発見されるミステリーが起きていると言うんです。バイオロギングで謎を解明しようとしている福山大学の渡辺先生に密着します。海釣りでクロダイと言えばベテランでも、一日で一匹釣れるかどうかの難しい魚。ところが、わずか30分で特大のクロダイが釣れました。聞けば、学生がこの川で偶然クロダイを釣ったことが研究のきっかけだそう。さっそく釣ったクロダイにカメラをつけてバイオロギング開始です!  超小型カメラと、場所を特定するための発信機をクロダイに取り付けます。
 翌日午後3時に自動的に装置が外れるようにタイマーを設定。水面に浮き上がった装置から電波を受信し回収するという仕組みです。
 クロダイを再び川へ放流したらいよいよ世界初、クロダイのバイオロギングのスタートです!翌日、放流したポイントに再び集合。受信機を使ってクロダイの場所を探しますが、反応が消えるアクシデントもあって回収は大難航!
 探し始めて3時間、ようやくカメラを発見!苦労の末に何とか回収に成功。早速、映像をチェックすると…そこに映っていたのは、優雅に泳ぐクロダイの群れ。川底にはクロダイの楽園が広がっていました。
 さらに渡辺先生はクロダイが岩場で何かを食べているのを発見しました。それは、本来は海にいるハズのフジツボやイソギンチャク。いったいどういう事なのか?そこで、塩水に反応するセンサーをクロダイに取り付けて再びバイオロギングをしてみると…クロダイが生息する川底の水だけ、常に塩水であることが分かったんです!ではなぜ川底だけ塩水になっているのでしょうか?そもそも干拓地である広島市は海抜が低く、しかも広島湾の干満差が大きいため、海水が川に入り込みやすいんです。川へ入り込んだ海水は比重が大きいため川底に溜まります。だから海に住むクロダイが川底にいられたんです。

所さんのポイント
ポイント3
バイオロギングは、生物が生息する環境の特徴をも明らかにするのだ!




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