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炊き込みご飯 の科学
第1346回 2016年10月16日


 秋の味覚を贅沢に使った「炊き込みご飯」。旬の具材をご飯と一緒に食べる、四季を愛する日本人ならではの料理。そんな炊き込み御飯の始まりは、奈良時代。当時貴重だった米を節約するため、ひえや麦を混ぜた、「かて飯」が始まりと言われています。それが今や、料理検索サイトでは1万6千件以上のオリジナルレシピが投稿されるなど、炊き込みご飯は、驚きの進化を遂げていたんです!
 そこで今回は、秋だ!グルメだ!炊き込み御飯の科学です!

①炊き込みご飯vs混ぜご飯 おいしさの謎に迫る!

 協力してもらったのは、未来の巨匠を目指す生徒の皆さん。用意したのは、同じ材料と調味料で作った「松茸の炊き込みご飯」と、「松茸の混ぜご飯」です。炊き込み御飯は、お米に調味料を加え、松茸と「一緒に」炊き込みます。一方、混ぜご飯は、松茸をホイル焼きにして、調味料を加えて炊いたお米と一緒に、「最後に」混ぜ合わせます。材料は全く同じ。具材を入れるタイミングが違うだけで、一体どちらを美味しく感じるのでしょうか?すると…なんと10人中10人全員が「炊き込みご飯」を選びました。みなさん、お米を噛んだ時の「香り」が違うという評価。
 そこで、それぞれに含まれる松茸の主な香り成分である「ケイ皮酸メチル」を比較してみると、確かに炊き込んだほうが、香りが5.6倍多く出ていたんです。でも一体なぜ、「炊き込みご飯のお米」の方が香りが多いのでしょうか?
 調理学の専門家、東洋大学・露久保先生に聞いてみると…「お米に水と熱を加えて炊くとデンプンが膨らみ糊化がおきます。
 この時、具材や調味料の味や香りが、お米に染み込むので、炊き込みご飯の方が、お米の1粒1粒まで、具材や調味料の味・香りを感じることができる」と解説。炊き込みご飯の場合、ご飯を炊く前にあらかじめ具材を入れることで具材の香りが、水の中に溶け出します。そして、お米が加熱され膨らんでいくのに従い、具材の香りが、米粒の中にまで染み込んでいくのです。一方、混ぜご飯の場合は、お米の加熱が終わっているため、表面に香りが付着するだけで、米粒の中にまで香りが染み込みません。

所さんのポイント
ポイント1
炊き込みご飯は、お米の1粒1粒に香りを閉じ込める調理法だったのだ!


②全国炊き込みご飯選抜総選挙を開催!

 集まっていただいたのは、炊き込み御飯をこよなく愛する「食の専門家」の皆さん!日本を代表する料理評論家、服部栄養専門学校校長・服部幸應先生。2009年にミシュランで1つ星を獲得した和食料理人・吉岡英尋さん。調理学の専門家、科学の視点で料理を切る!目がテンでもおなじみ、露久保美夏先生。これまで食べた炊き込みご飯は数知れず。にっぽん炊き込みごはん協会代表・山田桂一郎さん。皆さんによると、炊き込みご飯には、味や香りの他に、地域性やオリジナリティも重要な要素だといいます。このポイントをふまえて、早速「炊き込みご飯選抜総選挙」スタート。
 まずは、服部先生と露久保先生が推薦、青森県の「ウニ飯」を試食。津軽海峡産のキタムラサキウニを、たっぷり使っています。"ウニを炊き込む"というあまり馴染みのない一品ですが、皆さん高評価。続いては、吉岡さん推薦、北海道の「カキ飯」です。炊飯器のフタを開けた瞬間、思わず身を乗り出すほどの良い香りが…。国内で唯一、一年中出荷できるという、厚岸産のカキを使った炊き込みご飯です。和食料理人の吉岡さんは、「カキを炊き込みご飯にすると、別のカキの表情が出る。ご飯との相性も良くて、炊き込みご飯に向く食材」と高評価。おなじみの具材でも、ご飯と一緒に炊き込むことで、新たな美味しさを楽しめるのも、炊き込み御飯の醍醐味の一つ。そして、服部先生の推薦、鮭を使った宮城県の「はらこ飯」。全国的にも有名なこの一品は、最後にイクラを乗せ、サケを丸ごと頂きます。服部先生は「鮭を炊き込んだ煮汁を出汁にして炊き込む。だから、ご飯粒1粒1粒に、鮭の香りが全部まとわりついてくる感じ」とコメント。続いて試食したのは、山田さんの推薦、群馬県の「釜飯」。
 ウズラや鶏肉、インゲン、にんじんなど具材がたっぷり入った炊き込みご飯です。これには露久保先生「これぞ日本の炊き込みご飯、という感じ」とコメント。そして、吉岡さんと露久保先生の推薦、愛媛県の「タイ飯」。
 全国的にも有名な、まさに"王道"の炊き込みご飯は、一同納得の味。と、ここで…新世代の炊き込みご飯が登場!まずは、山田さん推薦、青森県の「アップルキムチご飯」。地元産の馬肉とリンゴなどを使い、キムチの素で味付け。主婦が考案した新世代の炊き込みご飯です。実は、青森県五戸町で行われた、炊き込みご飯コンテストの奨励賞をとったもの。
 初めて試食した吉岡さんは、「レシピ的には、かなりの変化球のような感じがするけど、食べるとすごく調和してます」と絶賛!
 続いての"新世代炊き込み御飯"は、山田さんが推薦、香川県の19歳の専門学校生が考案した一品。牛肉や野菜、果物など、地元の食材をふんだんに使った炊き込みご飯です。ミカンとトマトも入っている一品ですが、その味に皆さん高評価でした。新たな発想で生み出された「新世代の炊き込みご飯」。味のバランスが高く評価されました。続いては、その土地では古くから愛されている、知る人ぞ知る炊き込み御飯を試食します。
 まずは、山田さんの推薦、滋賀県の「アメノイオご飯」。アメノイオとは、秋に産卵期を迎えた琵琶湖の固有種「ビワマス」のこと。
 これには服部先生も「ビワマスがミルキー」と評価。滋賀県にしか無い炊き込み御飯として高評価。続いては、露久保先生の推薦、鹿児島県の「唐芋ご飯」。露久保先生によると、「サツマイモは、デンプンを糖に換えてくれる酵素がたくさん入っている。ご飯の甘み、イモの甘み。これを味わって頂きたい」とコメント。すると、吉岡さんが「ちょっとのお塩がいいんですね。だから余計に甘みが引き立つ」とコメント。
 そしてついに…全20種類に及ぶ炊き込みご飯の試食が終了!各ブロックNO.1の炊き込み御飯に選びます。「北海道・東北ブロック」代表は「宮城・はらこ飯」!選出理由は…サケの香りとうま味がご飯一粒一粒に凝縮され、唯一無二の味わいが秀逸でした。続いて「関東」ブロックは、群馬県の「釜飯」!選出理由は、醤油をベースにした伝統的な味付けで、食べた瞬間にホッとする味。そこに、ウズラの卵という独自性が加わり、日本の食文化として食べ続けていきたい一品という評価でした。
 続いて、「近畿・中部」ブロックは、滋賀県の「アメノイオご飯」!そして「中国・四国」ブロックは、愛媛県の「タイ飯」。最後に「九州・沖縄」ブロックは、鹿児島県の「唐芋ご飯」が選出されました!


③簡単ひと手間!激ウマ炊き込みご飯の作り方

 炊き込みご飯に欠かせない秋の味覚「キノコ」を、簡単なある一手間で美味しくする裏技はあるといいます。食品学の専門家、実践女子大学学長の田島先生伺うと、「キノコを冷凍するだけで、旨みも香りもUPする」と解説。そこで、冷凍したキノコと生のキノコでそれぞれ炊き込みご飯を作り、お米に染み込んだ「香り」と「旨味成分」を計測してみます。すると、確かに、生のキノコを使った場合に比べ、冷凍した時の方が、香り成分が10倍以上もUP!さらに、旨味を計測してみると、こちらも冷凍したキノコを使った方がお米に染み込んだ旨味が増えていたんです。でもなぜ、キノコを冷凍すると、香りと旨味がUPするのでしょうか?
 実は、キノコを凍らせると、細胞内の水分が膨張して、細胞壁を壊すため、細胞内の香り成分が、水に溶けやすくなります。さらに、細胞壁が壊れると「酵素」が働き始め、グアニル酸などの旨み成分が増える、というわけだったんです。
 ではさっそく!冷凍キノコを使った炊き込み御飯の作り方を紹介します!おすすめの材料は、旨味成分が多いシメジ、シイタケ。そして、食感の良い、エリンギを使います。キノコを切ったら、炊飯器に入れる前に、2時間以上冷凍庫で凍らせます。あとは、米、調味料など、他の材料と一緒に、凍ったままのキノコを入れて炊けば完成。誰でも簡単!キノコの香りと旨味がUPする炊き込みご飯の裏技。みなさん、是非お試しあれ〜。



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