第1359回 2017.01.22 |
焼肉の美味しい焼き方 の科学 | 食べ物 |
最近、よく聞く焼肉の美味しい焼き方が「1回裏返し」。しかし、これに真っ向から反論するのが「複数裏返し」。最も美味しい焼き方はどちらなのか?徹底検証!
仁義なき焼肉論争 一回裏返し VS 複数裏返し
最近よく聞く、焼肉の美味しい焼き方が「お肉を裏返すのは1回だけ」。今や、焼肉の常識とまで言われる焼き方ですが本当なのか?この焼き方を推奨する牛肉王・石原隆司さんによると「焦げを作ることが大切で、一回裏返すだけで十分美味しくなる」とのこと。
しかし、この一回裏返す焼き方に異を唱える人が、肉にまつわる記事を書く肉食系ライター・小寺慶子さん。小寺さんによると肉を焼く位置も重要なのだとか。温度が色で分かる「サーモカメラ」で見てみると、火が当たる両端が、およそ160度以上の高温に!一方、鉄板の中央部分は、およそ120度。意外にも温度が低いことがわかりました。小寺さんは、この温度が低い中央部分で何回も裏返すと、ふっくら焼きあがって美味しくなるのだといいます。果たして、一回裏返すのと、何回も裏返すのでは、どちらが美味しく焼けるのか!?2人には同じカルビ肉を焼いてもらいます。
一回裏返す派・石原さんからが肉を置いたのは、鉄板の端の、高温部分。しっかりとした焦げを作りやすくなるといいます。そして、肉を裏返したのは、焼き始めてから38秒後。しっかり焦げができていました。そして、わずか57秒で焼き上げた肉には、香ばしい焦げができ、レアに近い焼き上がりに。その味は肉汁をしっかりと堪能できる焼き方でした。
続いては、複数裏返し派・小寺さんに焼いてもらいます。まずは、鉄板の中央。低温部分で焼き始めます。鉄板に肉を乗せわずか15秒で裏返し。そして、2回目は30秒後。この後、怒涛の勢いで肉を裏返していく小寺さん。7回目は、5秒待ってから裏返し、最後に、また5秒待ってから裏返し、合計8回も裏返して完成!焼いた時間は、1回裏返しより30秒も長い。少し焼きすぎにも思いますが、その割には焦げが少なく中はミディアムレア!その味は、肉がほどけていく感じの柔らかさ。どちらも甲乙つけがたい美味しさ。 そこで、それぞれの焼き方で焼いた肉を、現場にいたお客さんにも食べ比べてもらいました。結果は12人中6対6、なんと美味しさ対決は互角に。そして、それぞれ味わいが違うとの評価が!
「一回裏返す」焼き方
ホットプレートの場合は160℃くらいに設定。
(1)鉄板の場合、高温になっている「端」の部分で「焦げを作る」。
(2)7割ほど火が通ったら、裏返す。
(3)残りの3割は「軽く火を通す感覚」で焼き上げれば完成。
「複数裏返す」焼き方
ホットプレートの場合は120℃くらいに設定。
(1)鉄板の場合、低温になっている「真ん中」の部分で焼き始める。
(2)鉄板に接している部分に、少し火が通ってきたら、もう裏返す。
(3)7回裏返したら5秒待って裏返し、さらに5秒待って裏返して完成。
合計8回裏返す。
1回裏返しは『肉っぽくて美味』、複数裏返しは『ふんわりした食感』ということなのだ!
1回裏返しと複数回裏返しで生まれる肉の違いを調査!
焼き方の違いで、肉の味にどんな変化が生まれるのか?食品調理学の専門家、渋川先生によると、焼いている時の肉の内部温度によって変わるといいます。では、内部温度が違うと肉にどのような違いが生まれるのか?電子顕微鏡を使って観察。用意したのは、内部温度が、55℃/65℃/75℃になるように焼いた肉。切片を切り取り、肉の組織を拡大してみます。
まずは比較のために、生肉をみると、筋膜で束ねられた「筋繊維」が隙間なく詰まっています。筋繊維が、55度や65度になるとわずかに縮んでいました。それが、75度になると、筋繊維が激しく縮んでスカスカになっていたのです。渋川先生によると、そもそも筋繊維は、熱で縮む性質があり、65度を境に収縮が一気に激しくなり、硬くなっていくといいます。さらに、筋繊維が縮むことで、組織の中に閉じ込められていた水分や旨味成分が、肉汁となって外に流れ出してしまいます。つまり、最も肉汁が残りつつ、火が通り歯切れも良くなる理想的な内部温度が「65度」。そこで、2つの焼き方をした、お肉の内部温度は、実際に何度なのか?調べてみると、一回裏返したときの内部温度は65.3℃。複数裏返しは68.5℃。2つとも内部温度は、お肉が美味しく焼ける理想的な65℃近辺だったんです!
2つの違いは一体どこに!? 焼肉の美味しさに欠かせない4つの項目でさらなる科学的な検証を行います。まずは、「ジューシーさ」。同じ部位のほぼ同じ重さの肉を用意。一回裏返す焼き方は、焼く前と比べて、0.79g軽くなっていました。一方、焦げのない複数裏返しは、焼く前と比べて0.9g軽くなっていました。その差はわずか、およそ0.1g。ジューシーさと関係なかったんです。次に、旨味成分の量を比較。結果は、また、ほぼ同じ結果に…。
今度は、食べた時の柔らかさを計測!「一回裏返し」で焼いた直後、お肉の硬さは、54731パスカル。「複数裏返し」は49648パスカル!ついに、ハッキリとした差が出ました!複数裏返して焼いた方が、10%以上も柔らかいという結果に!
香ばしさを感じる香り成分は、一回裏返した方が、およそ15倍も強いことが判明!
『ジューシーさ』と『旨味成分』は、ほぼ同じだったものの『硬さ』と『香り』が全く違っていたのだ!
焼肉は少し待ってから食べるとウマい!?
焼肉通の間では、焼肉は、焼いてすぐに食べるのはNG。1分ほど休ませた方が良いとのこと。一体何が変わるというのか?お肉を焼いた後、1分間休ませて食べてみると、休ませただけで食感が変化!
食品調理学の専門家、渋川先生によると、肉が焼かれた直後は、筋繊維が縮むことで場所によって肉汁の量に偏りができます。しかし、そのまま置いていると、肉汁が、肉全体に吸収されることで、肉汁の量が均一化されて、食感が変わるといいます。
焼肉は、焼いた後に1分間休ませた方が食感が変化して、別の味わいを楽しむことができるのだ!