第1358回 2017.01.15 |
○○すぎる動物 の科学 [Part2] |
地上の動物 水中の動物 |
大きすぎるクチバシを持ったオニオオハシという鳥!そのクチバシをしっかりと研究すると、ステゴサウルスの謎を解く手がかりになっていることが分かりました。このように、◯◯過ぎる動物の中には生命の謎に迫れる、驚くべき秘密を持った生き物がまだまだたくさん!
今回の目がテンはちょっと気になるアニマルシリーズ「○○過ぎる動物たちPart2」です!
トウキョウトガリネズミは"間違いだらけ"の生き物!?
まず最初の○○過ぎる動物は・・・「トウキョウトガリネズミ」。
その名前からイメージするのは、流行の最先端「東京」でひときわ個性的なスタイルを貫く、オシャレなネズミ。東京の多摩動物公園で見られるというのでさっそく行ってみると・・・その外見は、ごく普通のネズミ。しかし、実はある大きな特徴があるんです。なんと、世界一小さいほ乳類の1つだというんです!
いったいどれだけ小さいのか?直径4cmのピンポン玉と比べてみると・・・なんと、ピンポン玉と比べてもこの小ささ!しかし、その特徴はこれだけではないんです。そこでお話を伺ったのは・・・世界中のフィールドでほ乳類の生態に関する調査・研究を行なう、北海道大学・大舘智志先生。大舘先生によると、なんと、トウキョウトガリネズミはトウキョウ出身ではないというんです。その証拠となるのが、トウキョウトガリネズミが初めて学会で発表された際に使われた、標本の写真。
そのラベルを見てみると・・・トウキョウトガリネズミがとれた場所は「Mukawa・Yedo・Japan」と書いてあります。つまり、日本の江戸の「ムカワ」という場所でとれたということですが、実はこの「ムカワ」という地名は東京周辺にはありません。そして、この地名に近いのが北海道、当時の蝦夷にある「鵡川」という場所。そう、実は「蝦夷=ホッカイドウ」と書かなければいけなかったところを、「江戸=トウキョウ」と間違えて明記してしまったんです。トウキョウトガリネズミという名前が付いたのは、江戸・トウキョウと蝦夷・ホッカイドウをうっかり勘違いしたことが原因だったんです!
さらに実は、トウキョウトガリネズミにはもうひとつ気になる点が…。なんと!トウキョウトガリネズミは"ネズミ"ですらなかった!実はネズミとトガリネズミとは一見似ているものの、遺伝子的には全く別のグループ。ネズミは、ヤマアラシやリスと同じ「げっし目」と同じ仲間になりますが、トガリネズミはハリネズミやモグラなどが仲間になるんです。つまり…トウキョウトガリネズミはモグラの仲間!
なんと・・・都会派だったはずのトウキョウトガリネズミ。言うなれば「ホッカイドウトガリモグラ」だったんです!なんとも変わった動物ですが・・・実は近年まで生きた個体が捕まらなかった希少な生き物でした。
そんなトウキョウトガリネズミの飼育をしている方がいると聞き、うかがったのは・・・長年、自然教育に携わってきた北海道の野生動物の専門家。さっそくトウキョウトガリネズミを見せてもらうと、葉っぱや花びらの上に軽々乗れてしまうほど、体重がとっても軽いんです。
そこで、トウキョウトガリネズミがどの位の重さなのか?1枚1gの1円玉と上皿天秤を使って比較。1枚目・2枚目で早くも揺れ始め、3枚目の1円玉を乗せると…完全に1円玉3枚の方へ傾きました!体重なんと3g以下謎多き世界最小の哺乳類まだまだ秘密がありそうです!
トウキョウトガリネズミが近い将来、人類を救う?
北海道の東に位置する「嶮暮帰島」。多くの自然が残る無人島です。
実はここがトウキョウトガリネズミの生息地のひとつ。専門家と多摩動物公園はこの島で捕獲を行っているそうです。夜中に植木鉢の落とし穴を仕掛けてトウキョウトガリネズミを捕獲します。実はこの捕獲調査で、トウキョウトガリネズミの"ある特徴"を発見したそうです。専門家によると、トウキョウトガリネズミは、2時間を目安に食事をしていかないと餓死してしまう可能性が高まるんだそう…。小さい体にあまりエネルギーを蓄えられないので、こまめに栄養を補給しなくてはいけないのです。では・・・小さくか弱いいきものなのに何故北海道のような厳しい環境の中に身を置いているのでしょうか?これについて、大館先生は「トウキョウトガリネズミはチビトガリネズミという動物の亜種。チビトガリネズミの仲間たちは東はアラスカ、西はノルウェイまで、非常に広大な地域に住んでいる。か弱さ、小さいと言うことを利用して他のトガリネズミが住めないようなすき間戦略的に分布している」と解説。あえて体を小さくすることで少ない食料や限られた空間でも生存でき、かつ競争相手がいない場所を選べたというわけなのです。さらにもう1つこの顔からは想像できないスゴいものを持っているんです。それを研究しているのが、筑波大学で天然物化学を研究する北将樹先生。
北先生によると、「トガリネズミの仲間たちはほ乳類の中でもすごく珍しく毒を持っており、獲物に噛み付いて毒を注入して麻痺させる」と解説。トウキョウトガリネズミは自分の体の3分2はありそうな大きなコオロギに襲いかかることがあり・・・噛みつかれたコオロギは生きたまま動けなくなり、そのままトガリネズミの餌食に!この神経を麻痺させる効果に注目して…北先生は世界で初めて、ほ乳類が出す毒の化学的な構造を解析することに成功しました。北先生は「毒は、うまく応用すると薬として利用することできる。特に麻痺させたり神経に対して効く毒を研究していると、たとえば痛みに働くとか麻酔として働くような特別な物質を作り出すことができると考えている」と解説。
近い将来、トガリネズミの毒が新しい麻酔薬になるかもしれないのだ!
世界初!?チンアナゴが◯◯をする貴重映像!
すみだ水族館を訪ねると、数々の魚が展示されている中になにやら行列が…。とある水槽に人が集まっているようですが、そう!皆さんのお目当ては・・・砂からぴょこんと出した顔が何とも愛らしいチンアナゴ。小笠原や沖縄など日本の南側の海底に生息しています。犬の「狆(チン)」と顔が似ていることが名前の由来。オレンジのしましまはニシキアナゴというチンアナゴの仲間。基本的に砂に刺さっているチンアナゴ達。砂から完全に出てくることはないのでしょうか?
そこで、水槽前に定点カメラを設置してチンアナゴの1日を観察してみると・・・朝5時。暗い水族館に電気が点ります。水槽の中を見てみると、砂地からは何も伸びていません・・・砂の中で眠っているのでしょうか?しばらくして、照明が明るくなると、次第に伸びてきました!午前11時、エサの時間。チンアナゴは肉食性で、動物性のプランクトンが主食です。飼育係の方がエサを水槽に入れ、エサが水槽に行き渡り始めると・・・一斉にぐんぐん伸びました!さぁ、エサに向かって泳ぎ出すのか!?と思いきや、ほとんどのチンアナゴは砂に体を埋めたまま。そして、チンアナゴに餌が接近!あと一歩で届きそう!…が!
体が砂から出てしまうことを恐れて諦めました…。この後もチンアナゴたちは、餌に夢中になって隣のアナゴに絡まってしまったり…突然、お隣さんと喧嘩を始めてみたりしますが…やっぱり穴からは出てきませんでした。そして、消灯の時間になると・・・みんな砂の中に潜ってしましました。
同じ穴から伸びたり縮んだりするだけで1日を終えるチンアナゴたち。
しかし、ある日の夜。この水族館でとても珍しい光景が繰り広げられました。1匹だけチンアナゴが伸びてきたと思ったら・・・何かをお腹から出しました。そして、違う場所ではニシキアナゴが・・・実はこれ、チンアナゴ達の産卵行動。メスは体を激しく震わせて水中にタマゴを放ちました。オス達はそのタマゴめがけて放精をしたんです。長年ウナギの研究を行ない野生のニホンウナギの産卵場所を特定することに成功した日本大学の塚本勝己教授にお話を聞いてみると「これはすごく貴重な映像。ウナギの仲間の産卵シーンは今まで一度も撮影されたことがない。実は、この映像ウナギやアナゴの仲間が自然に産卵するシーンを世界で初めて記録したとても貴重なもの。ウナギの養殖というのは100年以上研究されてきているが、自然にタマゴを産ませることが出来ていない。ウナギの完全養殖のヒントが得られるのでは」とコメント。
チンアナゴの研究が、今後、ウナギの資源管理を発展させてくれるかもしれないのだ!
チンアナゴが人命救助につながる!?
いつも砂に埋まっているチンアナゴは、一体どうやって穴を掘っているのでしょうか?その決定的瞬間をとらえるため…水族館の方々と一緒に作った、厚さが8mmの特殊な水槽で砂に潜る様子を観察します。 さっそく水族館の方に、チンアナゴを砂から取り出してもらいます。
そしていよいよ、実験スタート!果たしてチンアナゴは決定的瞬間を見せてくれるのでしょうか?激しく尾っぽの方をくねらせ、砂を下から上へと巻き上げて潜っていきます。ではなぜ、こんなにすばやく掘り進められるのでしょうか?
その理由の1つが「チンアナゴの体の構造」。チンアナゴの体の中は、背骨が尻尾の先まで入っているものの、内蔵はカラダの半分ほどまでしかなく、ヒモ状になったカラダの後ろ半分は、筋肉になっています。そのため、パワフルな動きができるというんです。そんな、チンアナゴの動きに注目したのが…災害救助用のロボットなどを開発している東京工業大学の塚越秀行准教授。塚越先生が研究しているのは、土砂崩れや雪崩などに巻き込まれた人たちを探すロボット。将来的に目指すのは、土や雪に埋まったターゲットに到達できるケーブル状ロボットの完成。
まずは、モーターでクネクネ動くロボットを作成し、ヘビと同じような動作をするプログラミングを行いました。そして土の上を進ませると…最初はうまく進んだかと思いきや、すぐに、その場でウネウネするばかりで進まなくなってしまいました。そこで塚越先生は、土の中にスムーズに入っていく生物としてチンアナゴに着目。実際にチンアナゴの動きを分析してみると…蛇は体全体が一定の波のリズムで進むのに対して…チンアナゴは体の先端は小刻みに真ん中より後ろはヘビのようななだらかな波、というように"ミックスされた動き"で入っていくことがチンアナゴの大きな特徴。そして、この動きを先程のクネクネロボに取り入れると…今度は、しっかりと進行方向に進むことができたのです。塚越先生によると、ヘビ的な動作では入れなかった環境でもスムーズに土の中で動くことが出来たのが新しいポイント」と解説。実際にヘビとチンアナゴの動き比べてみると…チンアナゴロボットがヘビロボットよりも確実に前進していました。塚越先生は、より柔軟で力強い動作が可能なチンアナゴロボの開発をさらに進めています。
近い将来、チンアナゴロボットが人の命を救う日が来るかもしれないのだ!