第1367回 2017.03.19 |
ミステリージャーニー・京都 の科学 | 場所・建物 人間科学 |
これまで、地域魅力度ランキング1位「函館」の人気のヒミツや密教聖地「高野山」一級河川「多摩川」など、様々なテーマに科学の視点で迫ったシリーズ企画、その名も「ミステリージャーニー」。
第5弾の舞台は・・・いにしえの都「京都」。国内屈指の観光スポットであり、外国人宿泊客数も年々増え続け、海外からも大人気なんです!
その人気の謎を科学の視点で解き明かすべく科学者たちが京都へ降り立ちました!
伏見稲荷 外国人人気の秘密
まず最初に訪れたのは・・・大きな鳥居が圧倒的な存在感を放つ「伏見稲荷大社」。全国各地におよそ3万社あるという“お稲荷さん”の総本宮として知られています。さっそく中へ入ってみると、何やら気になるものが…実は伏見稲荷は世界最大の旅行クチコミサイト「トリップアドバイザー」の観光スポットランキングで3年連続1位!
この日も、多くの外国人観光客がいましたが、その目的というのが…トンネルのように長く連なった「鳥居」。江戸時代に建てられ始めた鳥居は、現在も参拝者の奉納により増え続け、その数およそ1万基!
そこで一つ目のミステリーは…「伏見稲荷 外国人人気の謎」。このミステリーを解明して頂くのは・・・モノを見た時の反応を科学的に研究する、視覚情報処理のスペシャリスト金沢工業大学・吉澤達也教授!なぜ伏見稲荷は外国人に人気なのか?
吉澤先生によると、「目の色に関係している。北欧のような目の青い人たちはメラニン色素が少なく、そういう人たちと日本人とは色の好みが変わったりしている」と解説。先生が言う“目の色”とは、この虹彩の部分のことでメラニン色素の量によって色が変わります。
そのメラニン色素の量は住んでいる地域の太陽光の量に影響されるんです!赤道に近く太陽光の量が多い地域では、メラニン色素が多いため目が黒くなり、赤道から遠い国々は太陽光の量が少ないため、メラニン色素も少なく青やグリーンの目になるのですが…吉澤先生によると、強い光が当たるといろいろな色が鮮やかに見えるので赤道付近の地域では、カラフルな街並みを好むそう。一方、ヨーロッパは赤道から随分遠いため、街並みは淡い色になっている。
吉澤先生によると、「ヨーロッパの様に少し薄暗い所ではカラフルな色があっても褪せた色になってしまうので、あまりカラフルな建物はありませんよね。長い間住んでいるので太陽の光が強い地域では、無意識のうちにカラフルな色を、ヨーロッパの人は淡い色を選ぶそういう傾向がある」と解説。青い目の外国人にとって、鮮やかな朱色は非日常的な空間に感じられるようです。そんな朱色が連なる鳥居の中に入ってみると…鮮烈な印象をもつ朱色がずっと続いているため、強いインパクトを与えています。
伏見稲荷人気の理由は、鳥居が連なった朱色の “トンネル”!この強烈な視覚体験が大きなインパクトを与えていたのです。
さらに人気の理由は、それだけではないと言います!吉澤先生が注目したのは“鳥居の色”。吉澤先生は「鳥居の“朱色”と周りの“緑”は、お互いがお互いを引き出す強調色の関係になっている。これが伏見稲荷の最大の人気の秘密」と解説。
強調色とは、カラーチャートの正反対の位置にあるもの。これを組み合わせると、互いの色を引き立て合う効果があります。鳥居の朱色と背景の緑による“強調色の組み合わせ”が、見る人に強い印象を与えていたのです。
そこで先生監修のもと、こんな実験!鳥居の色が異なる5枚のイラストを用意。この中で朱色だけが強調色です。そして伏見稲荷を知らない外国人5名に、3分間イラストを見比べてもらいます。この時、どのイラストをどれぐらいの割合で見ているのかを測定。見ている割合が多いほど興味を示しており、注目度が高いということになります。特定の見やすい場所による視線の集中を避けるため、毎回イラストの配置をバラバラに変えて実験。皆さん、目まぐるしく視線が動いていますが…果たして結果は…!?
なんと朱色だけが30%超えというダントツの結果に!この結果について吉澤先生は、「実際目の動きを観察してみると、実は朱色ばっかり見ていたと。生理的に誘導されてしまうような強い印象を与えていたってことが目の動きからわかった」と分析。
伏見稲荷の朱色と緑の強調色の組み合わせは、淡い色に慣れた外国人にとって強烈なインパクトを与えていたのだ!
京都 何度も訪れたくなる謎
さっそく観光客の皆さんに何回目の京都旅行か聞いてみると…やはり声をかけた方ほぼ全員が複数回京都を訪れているリピーターでした。では、なぜ京都は何度も足を運びたくなるのでしょうか?
そこで2つ目のミステリーは「京都、何度も訪れたくなる謎」。このミステリーを解明して頂くのは…心理学の側面から街並みを科学的に研究する建築学のスペシャリスト、名古屋工業大学・松本直司名誉教授。
なぜ京都はリピーターが多いのか?松本先生によると、ポイントは「坂」と「脇道」。実はこの2つ、京都ならではの特徴だったんです。そもそも京都は盆地に発達した都市で、市街地の周りは丘陵地のため、多くの坂道がありました。平安時代には中国・長安にならい、碁盤の目状に路地が入り組んだ街づくりが行われ、平安京として発展。こうした時代背景から、今もなお京都には「坂」と「脇道」が多いんです。
しかし、それがリピート率とどう関係しているのか?先生と坂道を登ってみると…目の前に、清水寺の正門が!ここで松本先生は、「坂っていうのは視点の高さが変わってくる。普通の高さと違う視点から見れるようになる。それで期待感がある」と解説。
続いてもうひとつのポイント。脇道がたくさんある花見小路通りへ。脇道に面した時、選択肢は3つありますが、限られた時間で進めるのはひとつだけ。残り2つの道に期待感を残します。松本先生によると、脇道の「この先も良さそうだ」という“連続した期待感”と一回では見きれない“選択肢の多さ”がリピート率につながっていたんです。ではここで実験!5組のカップルに「一本道の商店街」と「脇道だらけの街」で、それぞれ20分間、自由にデートをしてもらいます。松本先生の研究によると、魅力的な道を歩く時は歩行速度がゆっくりになるそうです。
そこで、デート中のカップルの歩行速度を測定。立ち止まっている間は測定から除外し、歩いている時の平均速度を求めます。まずは1組目。
1本道の商店街では…わりと早いペースで歩き続け、足を止めたのはわずか数回。歩行速度は時速4.15kmでした。続いて脇道だらけの花見小路通りでデート。すると…早くも脇道に反応し、気の向くままにあちこち散策しています。結果、歩行速度は3.89km。1本道の商店街と比べ、ゆっくりになっていました。魅力を感じる部分には個人差があり商店街の方がゆっくりになるカップルもいましたが…実験の結果、脇道で歩行速度がゆっくりになったのは5組中3組でした!
旅行者に「また来たい!」と思わせる秘密は、坂と路地が生み出す期待感にあったのだ!
京料理が特別に感じる謎
せっかく京都へ来たのでグルメも堪能したい!と向かったのは…京料理の老舗「近又」。1801年創業の名店です。こちらのお店はコースになっており、一品ずつ料理が運ばれてきます。先付けは、春ならではのサヨリのお寿司です。そもそも京料理とは、日本の伝統料理である「精進料理」や「懐石料理」から始まったもの。長きにわたり、京都に都があったことから、武士や寺の住職など様々な人の生活文化や食文化が合わさり、日本料理の中でも特に洗練された料理へと発展したのです。味もさることながら、“特別感”を感じるのは一体なぜなんでしょうか?
そこで三つ目のミステリーは・・・『京料理が特別に感じる謎』。このミステリーを解明していただくのは…食の機能やおいしさを研究する食育学のスペシャリスト、奈良女子大学・大谷貴美子先生。京料理が特別な感じがする理由について、大谷先生は「まず見た目の美しさがものすごく重要。食べてみたいと思わせることは目から入ってくる情報が9割ぐらい」と解説。料理は目から入る情報が9割。実は、それを裏付ける“ある研究”を行っているそうで…注目したのは、グルメ漫画の名作「美味しんぼ」。まったりとこくのある味、といった独特なおいしさを表す味の表現で有名ですが、料理のおいしさを表現しているセリフを分析すると…意外な結果が。
「これは華やかですね!」「身の白さと、金の色が調和して豪華に見えるわね」「鮮やかな緑色に変わったわ」など、美味しさを伝える言葉の種類は、“視覚に関する言葉”のものが最も多いことが分かりました。
では、京料理の“見た目の美しさ”の特徴とは一体?大谷先生は、「お料理以外のその器であるとかそういうものがお料理の魅力を引き立てているのが京料理の特徴」と分析。京料理に重要な「器」。季節によって器の形や色が変えられているんです。例えば夏の器。清涼感あふれるガラスの素材や、夏の季語「サワガニ」が装飾されています。また、秋の器には、おちついた色合いのモミジや稲穂が装飾されています。
では、この京料理の視覚の演出を使うと味や評価が変わるのか?実験です!用意したのは、コンビニやスーパーでよく見る鮭のお弁当。お値段は680円。このお弁当を、近又の7代目総料理長・鵜飼さんに匠の技で京料理風に盛り付けてもらいました。すると…なんということでしょう。あの鮭弁当が、和の風情漂う本格京料理へと生まれ変わりました。まるで高級食材のように盛られた、鮭とキンピラ。松をあしらったお皿に盛り付けられた、切り干し大根も華やかに。
このなんちゃって京料理をこちらの5人に試食してもらい、味にふさわしい値段をつけてもらいます。元々680円の鮭弁当。果たして見た目が変わると、味わいに違いは出るのでしょうか?まずは30代女性に食べてもらうと。680円の鮭弁当とも知らずに、付けた値段は…2980円。4倍以上の値がつきました。さらに、中には3500円を付けた人も。こうして次々と2000円以上が続き…結果5人の平均金額は約2700円。680円のお弁当のおよそ4倍以上の値段になりました。
京料理に特別感を感じるのは、器や盛り付けに工夫をこらした演出によるものだったのだ!