第1368回 2017.03.26 |
彦根城 の科学 | 場所・建物 |
天下の名城「彦根城」を科学!
彦根城の魅力
彦根城は、「女城主 井伊直虎」の子孫が築いた城で、標高136mの金亀山を切り開いて建てられた城。美しさも天下一品、琵琶湖の湖畔にあるので、お城からの景色も抜群。天守閣が完成してから、400年以上が経っており、築かれた当時から現在まで、天守閣がそのままの形が残っていて特に歴史的価値が高い城として、国宝に選ばれた城。城全体の敷地は、およそ488万平方メートルと広大。
まず訪れたのは、城の敷地内にある「玄宮園」。7年かけて作られた大名庭園が見どころ。この庭が見渡せる「鳳翔台」では、天守閣を眺めながら、優雅な気分で抹茶を頂けます。縁側から庭園を眺めれば、まさに気分は井伊家のお殿様。
続いて向かったのは、彦根城の玄関「表門」。今回、彦根城を案内してくれる三浦先生は全国の城の復旧工事に関わってきた文化財研究の第一人者。
数ある城の中でも、屈指の防御力を誇るという彦根城。どれほど凄いのか?城内には、敵の攻撃を防ぐ驚きの仕掛けがあるといいます。表門を抜けると、攻めてきた敵は、一本道の坂を上るしかありません。すると、この坂を上った先には、敵を寄せ付けない、一つ目のポイントが「堀切。一本道の坂を登った先にある「掘切」。実はここ、わざわざ自然の山の峰を、垂直方向に断ち切るように削っています。堀切の両側には、「鐘の丸」と「天秤櫓」という2つの防御施設があり、左右から敵を同時に攻撃することができます。城を攻める側にとっては、突破の可能性が限りなく低い、とても危険な場所なんです。そして、運よく堀切を突破できても、その先には、彦根城最強の防御ポイント「枡形」が!
枡形とは、城門を守る防御施設のこと。門の前を「コの字」に囲ったものです。この場所を上空から見てみると、かつて城門があった場所の前が、「コの字」に囲まれている枡形になっています。普通の門では、攻めてきた敵を正面からしか攻撃できませんが、「枡形」は城門で先に進めなくなった敵を3方向から攻撃でき、敵は下手をすると全滅してしまう、恐ろしい仕掛け。
そこで!特別に許可をもらい、枡形の防御力を酒井さんが検証。鉄砲に見立てた、「水鉄砲」を持った守備兵役のスタッフが、3方向から門を守ります。体が濡れると、鉄砲が当たったことを意味します。酒井さんは、体を濡らすことなく、守備兵の攻撃をかわし城門があった場所を抜けられるのかチャレンジします。
酒井さんはジグザグに移動、両側からの攻撃をかわしつつ前進する作戦。前方からの攻撃の隙をつこうとしますが、前に進めず撤退。すると、突然!背後から攻撃されて結局、討ち死に。実は、これこそが彦根城の枡形に隠された最強の仕掛けだったんです。彦根城の防御でも、特徴的なのがこの「天秤櫓」。確かに天秤のように左右対象で、横に長い建物です。この天秤櫓は、枡形の背後まで伸びていて、鉄砲や矢で攻撃するための窓が、4つ付いています。
窓からは、枡形を攻める敵の様子が丸見え。背後から一斉に攻撃することができるんです。
彦根城の枡形は、通常の3方向に加え、背後からも攻撃できる最強の枡形だったのだ!
彦根城の美しさ
遠くから見ると、大きく立派に見える彦根城の「天守閣」。三浦先生と一緒に、天守閣まで登ります。彦根城の天守閣は、三重、つまり3階建てで高さおよそ20m。姫路城や熊本城と比べ、10mほども低い小さな城。実際には小さいのに、なぜ下から見ると、大きく見えるのでしょうか?三浦先生によると、天守閣にある三角形の飾り「破風」にポイントがあるといいます。天守閣は城の中心で、権威の象徴でもあります。そのため、大きく立派な城ほど、破風は大きく、その数も増えていきます。
一般的に、三重天守につけられた破風の数は、4面全ての合計で6個。しかし、彦根城は、なんと18個!通常の3倍もの破風が付けられていたんです。実は、彦根城が築かれた当時、あえてたくさんの破風をつけて、大きい城という印象を与える狙いがあったといいます。
さらに、視覚心理学の専門家、竹内先生によると「彦根城の天守閣が山頂部分から突き出ているように見えます。私たちは、天守閣の下の部分が、山に隠れていると想像してしまう。そのために、天守閣は実際よりも大きく感じられると考えられる」とのこと。
彦根城の天守閣には、城を「大きく」感じさせる工夫があったのだ!
天守閣の内部
彦根城の天守閣には驚きの仕掛けが隠されているのとのこと。天守閣内部の壁にあったのは、狭間と呼ばれる、鉄砲や矢で攻撃する穴。熊本城などは、外から見ると狭間が見えます。しかし彦根城は、漆喰で穴が塞がれているため、外から見てもどこにあるか分からない隠し狭間になっています。敵に攻められた時だけ、内側から漆喰を突き崩して、使う形になっているんです。
三浦先生によると、このような外から見えない「隠し狭間」は、天守閣の至る所にあるといいます。3階に登ってみると、壁の下には小さな穴があり、その中には、謎の空間が!実は、この部屋は破風の裏側にある「隠し部屋」。特別に許可をもらい、中に入ってみると大人が3、4人入れる程度の狭い部屋でした。また、2階には、先ほどよりも広々とした「隠し部屋」が破風の裏にあったんです。天守閣には、このような「隠し部屋」が全部で4つ。隠し狭間」に至っては、なんと76箇所もあります。攻める側にとっては、城のどこから鉄砲や矢が飛んでくるかわからない、恐ろしい仕掛けになっているんです。
彦根城の天守閣には、美しさと防御力を兼ね備えた驚きの仕掛けが隠されていたのだ!
400年以上崩れない秘密
彦根市では、彦根城が完成した1622年以降、マグニチュード6以上の地震が6回もありました。にも関わらず、彦根城の天守閣の石垣は、一度も崩れたことがありません。一見、雑に積んで隙間だらけに見える彦根城の石垣。なぜ、400年以上も崩れなかったのか?
調べてみると、彦根城の石垣は「牛蒡積み」という積み方だと書かれています。牛蒡積みとは、奥行きが、表面の幅の2倍以上ある長い石を積み上げる、石垣の積み方。石同士の接地面が多くなるので、地震で揺れても崩れにくい石垣の積み方だと言われています。彦根城の石垣が、400年以上崩れなかったのは、「牛蒡積みだから」だと推測されていました。しかし、一度も解体修理など行っておらず、真相は謎のままだったんです。
ならば、目がテンがやりましょう!科学の力で石垣の内部を調査!今回、協力をお願いしたのは、地質調査会社「日本物理探鉱」のみなさん。普段、地盤の調査に使う地中レーダーを石垣に応用します。地中レーダーは、放射した電磁波が反射して戻ってくるまでの時間から、測定物の大きさを測ることができます。つまり、このレーダーで石の奥行きがわかるということです。
彦根城史上初、石垣の科学調査を開始!果たして本当に、2m以上の奥行きがある石を使った牛蒡積み」なのか?
今回の調査で、石の奥行きは、およそ80㎝から1m程度だと判明!これは予想の半分以下。つまり、地震に強いとされる牛蒡積みではなかったんです!
彦根城についての著作もある城郭研究の第一人者、中井先生にこの新発見をお伝えすると「実際に現地を見ても、本当に奥行きが長いのか?疑問があった。今回、従来言われている牛蒡積みではないことが、科学的に実証できたということで、非常に意義があるものだと思います」とのこと。
隙間だらけに見えた石垣には、実は、揺れを吸収する効果があったのだ!