放送内容

第1379回
2017.06.11
盆栽 の科学 植物

 今年、4月。日本が誇る伝統文化が、世界から注目を浴びていました。
 そう…「盆栽」です!盆栽はいま、若者から外国人まで多くの人を魅了していると言うんです。では、盆栽の魅力とは何なのか?今回、目がテンが科学で徹底解明します!

葉が小さくなる?盆栽㊙テクニック

 やって来たのは、さいたま市・北区「盆栽町」。街のいたるところで「盆栽」の名前が使われているんです。そもそも盆栽町の一帯は地下水が豊富で、盆栽に適した赤土が採れたため関東大震災で被災した盆栽業者が集まって作られたと言います。この日は、「大盆栽まつり」が開催されていました。一口に盆栽と言えども様々。色や形、そして大きさなどいろんな種類があったんです。
 でも一体、盆栽の魅力はどこにあるのか?訪れたのは、盆栽町にある盆栽美術館。そこには、全国から集められた盆栽の名品が100点以上!学芸員の田口さんによると、盆栽の魅力は、小さな鉢の中に大樹の姿が表現されていることにあると言います。そして盆栽を「大きな木」として見る、ある方法があるんです。見下ろした状態から屈んで見ると…ご覧のとおり。より大きな樹に見えませんか?これぞ、盆栽が目指す「大木感」。わずか60センチの小さな盆栽が、大木のように見えます。

 そして、「大木感」はこの葉にも表現されていました。街路樹として植えられた同じカエデの葉とは、大きさが違うと言うんです。比べてみると…確かに、盆栽の葉の方が小さかったんです。
 では、どうやって葉を小さくしているのでしょうか?盆栽町きっての盆栽園を訪ねました。見せてくれたのは、カエデの盆栽。さっそく行ったのは、新芽と一緒に葉を刈り込む「葉刈り」という作業。でも、これで本当に葉が小さくなるのでしょうか?新しい葉が出そろい、落ち着くまで観察してみました。そして1ヶ月後…これ以上大きくならない状態まできました。葉刈りする前と比べてみると…葉の大きさが、3分の2まで小さくなっていました。

 これは一体、どういうことなのか?植物生理に詳しい、東京農工大学・鈴木栄先生に聞いてみると、「葉刈りをすることで樹の養分が一時的に減る。養分が少ないので必然的に一つ一つの葉は小さくなる」と解説。一般に植物は、葉を使って光合成をし、成長に必要な養分を作り出します。しかし、新芽と一緒に葉を刈り取ると養分がそれ以上作られなくなり、全体量は減っていきます。そして、養分が減った状態で次の葉が作られるため、小さな葉に育つのです。

ポイント1

盆栽は人が手を加えることで小さな鉢の中に大樹の姿を表現していたのだ!

なぜ盆栽は小さいまま?生産地で見た“意外な育て方”

 向かったのは、香川県高松市。四代にわたって盆栽園を営む、北谷隆一さんを訪ねました。実は、高松は松盆栽の全国シェア8割を誇る一大生産地。
 一番のオススメを見せて頂くと…樹齢200年、背丈はおよそ1mのクロマツ。ちなみに、同じクロマツでも100年経てば背丈はおよそ15メートルにも育ちます。では一体、どうやって小さく育てているのでしょうか?
 そう、ここではクロマツを種から育てているんです。種から発芽した苗は、5年経つと「別の場所」へ移動させるそうなんです。その現場へ案内してもらうと…テニスコート4面分の畑に、およそ600株もの松がズラリ!

 では、どうして鉢ではなく畑に植えているのでしょうか?北谷さんによると、「鉢に植わっているより栄養分が多い。根も自由に張れる。その分、早く太くなり、早く大きくなる」と言うんです。えっ?盆栽は大きくしないのでは?実は「大木感」を目指す盆栽は、背丈は低くても、幹は太くしなければなりません。そのため畑で根を張らせ、幹を太くしているんです。でも、畑でそのまま育てると背丈が伸びて大きくなってしまいます。そうならないために必要なのが「切り込み」という作業。さらに必要な作業が「根切り」です。ここでは地中に伸びた根っこを5年に1度、切ると言います。こうして根を切ることで、松が大きくならないようにしているんです。ほどよい大きさになり枝葉が整ったら、畑から鉢へ植え替えていきます。とはいえ、これで完了!というわけではないと言うんです。ここでは、種から盆栽に仕立てるまで、およそ30年かけるそうです。

 さらに!ここには幹を太くするための、ある「職人技」が。それは…「針金」。この針金を、まだ幹が柔らかい2年目の苗にらせん状に巻いていきます。こうして、長年、風雪に耐えた「幹の曲げ」を表現。さらに北谷さんによると、「針金を巻いたままにしておくとどんどん食い込んでいって、養分が針金のところで溜まるものですからすごく早く太る」と言うんです。それは、「ねじ幹」と呼ばれる栽培方法。針金をかけた苗を地植えにすると、およそ2年で幹に食い込み始めます。
 10年後には、幹の中に埋め込まれてしまいました。実はこのねじ幹、植物の生理現象を利用したもの。樹木は幹が圧迫されると、そこに栄養分がたまり、早く太くなる傾向があるんです。

ポイント2

松の盆栽は、背丈は低いまま、幹は太く育てられていたのだ!

幻の盆栽“糸魚川真柏”!その自生地を大捜索!

 盆栽界でも屈指の人気を誇る真柏(ミヤマビャクシン)。向かったのは、真柏の自生地があるという新潟県糸魚川市。かつて真柏を山採りしていたという、伊藤優さんを訪ねました。奥から出してきたのは…幹が枯れて白くなった、「シャリ」です。明治から昭和にかけて山採りされた、糸魚川真柏。世界大会においてもシンボルツリーとなり、盆栽界を代表する名木「飛龍」もまた、糸魚川で採った真柏を盆栽として仕立てたものなんです。では一体、どんな場所に自生しているのか?案内してもらいました。
 向かったのは、明星山の南壁。標高は1188メートル。石灰岩で出来たこの山のどこかに、糸魚川真柏があると言うのです。とはいえ…肉眼では見えません。そこで、自生する真柏の撮影に手を挙げてくれたのが、クライマーの「山下眞一」さんと「津田暢」さん。これまで、数々の難所に挑んできた、アルパインクライミングの猛者たちです。さっそく彼らに、真柏の特徴を覚えてもらいます。

 雪解けで増水した川を渡り、登山開始!今回のルートは、西側のブッシュ帯を登り、そこからロープで下降し、南壁に取り付くというもの。土砂降りの中、登ることおよそ1時間。南壁に、山下さんたちが姿を現しました!険しく切り立った断崖絶壁をものともせず、いとも簡単に下っていきます。すると…岩壁に真柏ならではの「シャリ」を発見!でも、枯れてしまっている様子です。果たして、真柏は見つかるのか?
 捜索開始から2時間経った、その時!岩の裂け目に、真柏らしきものを発見!真柏特有の細かい葉の形。さらに、幹の一部が白く枯れた「シャリ」。これぞ正真正銘、自生する糸魚川真柏の姿です!自生する真柏の根元を見てみると…土はほとんどなく、岩の割れ目にある枯れ葉とかに根付いている様子。

 では、一体なぜ真柏は土が少ない岩場でも生きられるのでしょうか?糸魚川真柏を育てて45年、その生態に詳しい太田茂機さんに聞いてみました。太田さんによると、「腐葉土など土にあたる部分に発根した時には非常に細かい根が出てくる。根が細いということは、わずかな部分だけでも養分を吸収できる」と言うんです。山採りした真柏を鉢から取り出してみると、確かに、細かい根がビッシリ。真柏はこうした細かい根があるため、養分が少ない岩場でも生きられるのです。
 さらに気になるのが、真柏の複雑な形。なぜこのように幹が曲がるのでしょうか?急峻な崖に根を下ろした真柏は、太陽の光を求めて上に向かって曲がります。しかし、そこは豪雪地帯。冬になると雪の重みにより、下に曲げられます。さらに、様々な方向から強風にあおられるため、ねじられながら伸びていきます。こうして、厳しい自然に耐えながら複雑に曲がっていくのです。

ポイント3

真柏は、厳しい自然を生き抜いた“究極の盆栽”だったのだ!