放送内容

第1478回
2019.06.02
SL の科学 物・その他

 日本で初めて鉄道が開業した明治5年以来、多くの人々の交通手段として大活躍した蒸気機関車、SL。戦後、電気機関車などの登場により衰退し、やがて姿を消すことになりました。そんなSLが今、“動く産業遺産”として、全国各地で復元され、運行しているのです!
 今回の目がテンは、機関士の驚きの技術や復元作業を体験する「SL」の科学です!

毎朝2時間の重労働!SLの出発準備

 裕太さんがやってきたのは、静岡県・島田市にある大井川鐵道。実用されなくなった機械類を再び操作や運用可能な状態で保存する「動態保存」を昭和51年、全国で初めてSLで行い、現在ほぼ毎日運行している鉄道です。SL初体験の裕太さんは、気分を盛り上げるため、車掌の格好で乗り込みます!
 それでは、いよいよ出発!煙や蒸気を豪快に吹き上げながら、ゆっくりと走り出します。まるで昭和の時代にタイムスリップしたかのような雰囲気。汽笛を鳴らしながら、自然の中を颯爽と駆け抜けていきます。

 車窓から見える景色を眺めていると、ゆったりとした時間が流れていくようです。
 しかし、ほぼ毎日運行しているこのSL。出発までの準備がとにかく大変なんです。実は、SLが動き出す3時間前、裕太さんは出発準備のお手伝いをしていました。まず向かったのは、ボイラーの火床室という石炭が燃える場所。前回運行時の灰が残っているので、釜の中にある石炭の燃えかすを掃除する「火床整理」という仕事から行います。釜の底は、格子状になっているおり、車体の下に燃えかすを落とすことができます。大きな灰の塊が残っていることもあり、そのまま走れば、燃焼効率が悪くなるので、走行に問題が生じてしまいます。

 しかし、ただキレイにすれば良いワケではなく、若干の灰を残しておくことがポイント。下にある火格子が熱で溶けないようにクッションの役割を果たしてくれます。火床整理を終えたら、電気機関車でSLを引っ張り、車体の下に落ちた灰を掃除します。灰が水と混ざって重くなるので、これが結構な重労働。

 そして次に行うのは、油さし。部品同士の焼きつきを防ぐため、油つぼと呼ばれるところに、油を差していきます。

 油を入れる場所は、およそ80か所もあり、毎朝それをすべてチェックしているのです。
 そして作業は他にも。ホースを使い、水をタンクに満タンになるまで入れます。大きなSLを動かすには、実はこの“水”が重要なんです。積載量は石炭およそ3トン、水はおよそ8000リットル。

 これで、75キロメートル近くの距離を走ることができます。熱で水を沸騰させ、体積が1000倍以上になる蒸気の力で、車輪を動かします。では、なぜ蒸気で車輪が回転するのでしょうか。
 車輪を動かす装置には、上に蒸気の入り口があり、真ん中には蒸気を外に出す穴が、そして、下にはピストンがあり、車輪とつながっています。蒸気が上から入ってくると、下のピストンが押され、車輪が回転。すると、中を仕切っていた弁が動き、出口の穴から蒸気が逃げるようになります。それと同時に上から蒸気が入ってきて、今度はピストンが逆に押されるんです。このピストンの繰り返し運動が車輪に伝わり、回転するのです。
 つまり、タンクの水がボイラーで温められることで蒸気となり、それがピストンに送られ、車輪が回転するという仕組み。

 続いては、火をつける作業。まずは、木材を用意。SLを動かすためには、大量の木材が必要なんです。最初は、石炭には火がつかないので、木材を入れて火をつけ、そこから石炭へと移ります。機関室内の作業はボイラー技士の資格が必要となるため、裕太さんは後ろで見学。すると、油をたっぷりと染み込ませた真っ黒な布を木材に巻き付け、マッチで火をつけました。これが最初の火種になります。炎が上がり、しばらくは、釜全体が温まるまで待ちます。そして、充分に温まったところで、石炭を投入。大きな音をたて、煙と蒸気が勢いよく噴き出ます。

 実はこの蒸気、車輪を動かすだけでなく、汽笛、そして発電機にも使われ室内灯などに利用されているんです。

 裕太さん、今回は特別に、汽笛を鳴らす体験をさせてもらいました。汽笛は、発車の時や接近を知らせる時などに鳴らすそうです。準備開始から2時間、ついに出発!SLは、機関士たちの熟練の技術により支えられていたんです。

機関士たちの卓越した技術!

 裕太さんは、SLに乗っていて“あること”に気付きました。それは、SLに乗っていてもあまり煙たくない、ということ。SLといえば、黒い煙を大量に吐きながら走るイメージですが、実際に走っている姿を見てみると…黒ではなく白。また、吐き出す煙の量も、イメージより少ない気がします。

 実はこれ、石炭を入れる機関士の腕にかかっていたのです。走行中の様子を見てみると・・・右、左、手前、そして奥と 釜の中に石炭を均等に入れているのが分かります。さらに、左右に入れるときは、一旦壁に当てることで石炭を適切な位置に置くというテクニックも。これは全て石炭を完全燃焼させるため。黒い煙は、不完全燃焼のせいで起こっていたことだったのです。石炭を均等に入れられれば、完全燃焼させ、煙のニオイや量を軽減させられるのです。

 窓を開けても煙くない理由は、機関士の高い技術にあったんです!
 そして、SLは終点の駅に到着。ここから、ふたたび始発駅へと戻るためには、方向転換が必要です。そこで向かったのは、「転車台(てんしゃだい)」と呼ばれる場所。SLが転車台に乗ると、ここから、およそ47トンものSLを人力で動かして方向転換させます。

 機関士たちの卓越した腕によって、SLは安全に運行されていたんです。

手作業で直す!?SLの復元作業

 続いては、SLを動態保存するため、佐藤アナが今まさに復元作業を行っている場所へ。訪れたのは、埼玉県・久喜市にある車両基地。早速、工場へ入ると、全長およそ12メートル、重量55トン以上のSLが今、まさに復元中です。このSLは、昭和22年に製造され、滋賀や北海道で活躍した後、保存されていたもの。それを譲り受け、去年11月。コチラの工場へ。来年冬の運行を目指し、急ピッチで復元が行われています。

 では、SLの復元はどうやって行うのでしょうか。工場に運び込まれたSLは、現在少しずつ部品を分解して使えるかどうかを1点1点確認している状態。40年以上動かないでずっと休んでいた機関車であるため、当時の使用状況はもちろん、どこが錆びていて、どこに穴が開いていて、どこが割れているか、ということも分からない状況なのです。確認後は、場合によって部品を作る必要もあるのだとか。
 そして、この復元作業を行うにあたって、ある重要な人物がいるんです!その方が、国鉄OBで、当時SLの整備に携わっていた山田さん。現在、東日本で走っている機関車は、すべて山田さんが何らかの形で関わり、復元したものだといいます。国鉄時代の経験を生かし、これまで7台ものSLを復元。今回も、技術指導を行っています。
 SLは、約1万点近い部品が組み合わされているので、サビや塗装の汚れなどが非常に多く、そのサビを取り除くと目減りして車体の厚さが変わってしまします。その部分を元の寸法に戻すのが一番大変だそうです。1万点以上もの部品を、ほぼ手作業で元に戻すという、途方もない作業。

 分解された煙突の部分を見せてもらうと、ひび割れして隙間ができていました。そのような部分は、溶接で直したり、物によっては作り変えたりします。
 そして今回は、特別に煙突が入っていたSLの先端部の中に入らせてもらいました。中には、蒸気が通ってくるパイプがあり、蜂の巣のようにたくさんの穴が空いています。

 石炭が燃えると、炎と熱煙がこの部分へ流れてくるのですが、その熱に耐えられるのか、入念な検査が必要なのだそうです。このような部品は、他にもまだまだたくさん。不備がないか、1万点以上の部品を一つ一つ手作業で確認していきます。
 そして、ここからは佐藤アナもSLの復元作業を体験することに!行うのは、車輪の近くにある、「結びリンク」という部品を外す作業。傷をつけてはいけないという緊張感の中、大変貴重な体験をさせて頂きました。
 時代を越えて復元されるSL。そこには、職人たちの高い技術と、地道で丁寧な作業がありました。