第1617回 2022.03.20 |
かがくの里 の科学 | 場所・建物 物・その他 |
始まりは今から8年前。人の手が入らず放置されていた土地を、多くの科学者たちの知恵と、地元の方の力で耕し整備すると、今や田畑は豊かに実り、様々な生き物たちが姿を現す、緑豊かな場所へ!
今回、ついに!かがくの里の生き物図鑑が、一年がかりで完成!普通の図鑑とは、かなり違うこの図鑑の素敵なところとは?図鑑の編集を手がけた学研プラスの石塚さんが徹底解説!さらに、図鑑に収録された写真の中から、特に苦労したり、こだわったりしたものを写真家たちがプレゼン!
今回のかがくの里は、「里山の生き物図鑑」完成記念スペシャルです!
里の図鑑はどうやって作られた?
図鑑プロジェクトが始まったのは1年前。昆虫担当の撮影チーム、Tokyo Bug Boysは昼夜問わず虫たちを撮影し、鳥担当の写真家小曽納さんたちは、里の野鳥の生き生きとした瞬間をとらえるなど、春夏秋冬、すべての季節で里の生き物をカメラに収めてきました。
そんな、里の自然と生き物がたっぷり詰まった里山の生き物図鑑!今回の図鑑づくりでコラボしたのは、数々の図鑑を世に送り出してきた、学研プラス。里の生き物図鑑はどのように作られたのか?学研プラスで編集を担当した石塚さんが教えてくれました!
図鑑の編集作業はとても細かい作業が多く、まずは台割を作ります。台割とは図鑑のそれぞれのページをどんな内容にするのか?どのページにどんな生き物をのせるのか?を決める図鑑の設計図。
この台割でかがくの里らしい、田んぼや池、雑木林といったエリア別に生き物を紹介するスタイルに決定。分かりやすいように、エリア別のマップも掲載することになりました。
しかし図鑑づくりのプロ、石塚さんにとっても苦労があったよう。通常、図鑑を作る時は監修の先生と生き物を決めて、カメラマンに撮影をお願いしたり、膨大にある生き物の写真ライブラリーから選定したりしながら作っていくのですが、今回の図鑑に載せたいのは、かがくの里という限られた空間にいる生き物だけ。どんな生き物が写真に撮れるか分からなかったので、数ヶ月に渡りカメラマンと情報をやり取りし、載せる生き物を決めていったそうです。
そんな石塚さんが特にこだわったオススメページは、かがくの里の8年の歩みが一挙にみられるページ。
台割が決まれば、各ページの大まかなデザインを決め、フォーマットを作成。レイアウトに写真家が撮影した写真などを埋め込んでいきページを仕上げていきます。その後、初稿が出たら赤字入れをしていき、最終的な修正を行えば、1年ががりとなった、かがくの里の生き物を集めた図鑑が完成!
田んぼのページには一面に青々と広がる水田から始まり、ページをめくると田んぼをすみかにする昆虫たちや、絶滅危惧種となり、めったに見られなくなった水生昆虫タガメなど、こだわりの写真が詰まった図鑑になっています。さらに、この図鑑には二次元コードが埋め込まれておりそれをスマホなどで読み込むと、その生き物の貴重な動画を見ることができます。
撮影した動画について聞くため、訪れたのはTokyo Bug Boysのスタジオ。こちらは昆虫の飼育環境が整っているそうで、この時撮影していたのはタガメの呼吸シーン。フィールドでの撮影が難しい動画はスタジオで撮影するそうです。その狙ったシーンを撮影するために3日間泊まり込みでカメラを回し続けることもあったと言います。
Tokyo Bug Boysのこだわりの1枚を紹介!
2月末。図鑑のために、里の生き物の写真を撮ってくれた写真家の3人に集まって頂きました。
まずは、昆虫担当、Tokyo Bug Boysの法師人さんと平井さん。1年にわたり、里の昆虫を追い続けた二人は、夏に見られる赤とんぼ・ナツアカネや、上下に4つの目があり、水中と水上を同時に見ることが出来るミズスマシなど、図鑑に写真が掲載された昆虫の数はなんと109種類。
中でも、特に注目してほしいこだわりの写真をご紹介。
1つ目は、半日腹ばいでついにとらえた、春を告げる妖精と呼ばれる昆虫、ビロウドツリアブ。撮影を行ったのは山桜が咲き誇る4月の中旬。春、わずか2週間ほどしか見られないという貴重なビロウドツリアブを図鑑に収めるため、飛び立つ瞬間を狙ってカメラを向けますが、すばしっこくちょこまかと動き回った上に、地面に横になってじっと粘ることおよそ半日。ついに撮影に成功。狙い通り躍動感あふれる飛び立つ瞬間をとらえました!
続いては茨城県で初めて発見!?専門家も驚く激レア昆虫、ナマリキリガ。ナマリキリガを見つけたのは4月末。昆虫の専門家斉藤先生とともにライトトラップを仕掛けた時のこと。実はこれまで茨城県でナマリキリガは見つかっていなかったのですが、なんとこの撮影でナマリキリガが茨城県にいることが分かったんです。
続いては雨の中で大奮闘!?色が変わる不思議な羽をもつ昆虫、アヤヘリハネナガウンカ。
このアヤヘリハネナガウンカ、実は羽に珍しい特徴があるそう。普段は透明な羽をしていますが、光の角度によって色が変わるんです。
そんな、光の角度によって色が変わる姿を撮るため、粘りに粘ったといいます。
最後は冬眠中に色が変わる!?里山のカエルのフシギ。夏、田んぼに立てた竹の中で見つけたのが日本在来種で、緑色のシュレーゲルアオガエル。
そして、冬のかがくの里でTokyo Bug Boysの2人が偶然見つけた冬眠中のシュレーゲルアオガエル。なんと、冬眠中の姿は、黒っぽい緑色なんです。
同じカエルなのに緑色や黒っぽい緑色になぜ色が変わるのでしょうか?
実はこの色の変化は、カエルの皮膚細胞に秘密が。カエルの皮膚には表皮細胞の下にカエルの体の色を決める3層構造の色素胞と呼ばれる細胞があります。緑に見えるカエルは、太陽光が色素胞に当たり黄色と青色を反射するため緑色に見えているのですが、周りが土など、黒っぽい場所にいるカエルは最下層の紫色素胞の中にある紫色の色素が分散される事で青色の反射が抑えられ、皮膚全体が黒っぽい緑色になるんです。図鑑にも、冬のシュレーゲルアオガエルの写真が。里の生き物の、面白い生態も知ることが出来るんです。
Tokyo Bug Boysが1年間かけて撮りためた生き物がたくさん詰まった図鑑になったんです。
小曽納さんのこだわりの1枚を紹介!
続いては、野鳥写真家の小曽納さん。図鑑には、黄色いくちばしで硬い木の実を割って食べる「イカル」という野鳥や、ふわふわの羽毛と丸っこい姿がカワイイ「エナガ」など、27種類の鳥たちの写真が。
最初に紹介するのは畑周辺で撮れた、冬鳥のジョウビタキ。冬、ユーラシア大陸の北からやってくる渡り鳥。ジョウビタキの欄には二次元コードが掲載されており飛び立つ瞬間をとらえたスロー動画が見られるようになっています。
続いては森で撮れた、コゲラ。コゲラはキツツキの仲間日本で見られる一番小さなキツツキです。この図鑑では、コゲラが夢中になって幹を掘りながらエサを取る映像を含め、28種類の生き物の動画を見ることが出来ます。
手に取る子どもたちがいろんな発見ができて、自分でもその生き物を探したくなる、そんな図鑑が出来上がりました。