放送内容

第1619回
2022.04.03
木組み の科学 場所・建物

 木組みとは、木を組み合わせて構造を作ること。実は日本を代表する建築家・隈研吾さんの手掛けた建物には、この木組みがたくさん取り入れられてます。
 さらに、日本の歴史的木造建築にも使われているという木組み!地震の多い国でありながら、数々の古い木造建築が、いまなお変わらぬ姿を見せてくれているのは、木組みで構成していることが非常に重要だといいます。
 日本の木造建築の伝統工法「木組み」のすごさとは!?
 今回の目がテンは、「木組みの科学」です!

建築家隈研吾が語る木組み

 伝統的な木組み構造を用いた、独特な建築で有名な隈研吾さん。これまで、木を使った特徴的なデザインを数多く生み出し、東京オリンピックで使われた国立競技場のデザインにも携わりました。
 隈さんに、木にこだわった理由を聞いてみると、「オリンピックのスタジアムは時代の象徴」「20世紀はコンクリートの時代で、今、木の時代が始まりつつある」「木を使うことは地球環境の保全・地球温暖化防止の点でもスゴく効果がある。環境の時代は木の建築だというのをアピールしたくて、木を可能な限りたくさん使った」といいます。
 さらに木には、「人間の心に癒しを与える」「子供の集中力が高まる」「木は体にいいことをしてくれている」といったメリットがあるとのこと。
 また、隈さんによると、今、日本の木造建築への世界の期待が高まっているといいます。
 そんな、日本の木造建築の特徴が、「細い木を使って強い建築を造る」こと。かつての日本では、間伐などの際に取れる、小径木という先端の直径が14センチ以下の比較的細い木が活用されてきました。しかし、小径木は長いものがとれないので、木を組み合わせて大型の建築を造ったんです。その長さが足りない木を組み合わせるという技術が、「木組み」。
 木組みというのは日本の木造の根幹の技術だといいます。そんな隈さんが語る木組みの特徴は、加工した木がかみ合うことで強固につながり、地震の際に木組みが少し動くことで力を吸収すること。
 この木組みを駆使した隈さんの建物もあります。それが、SunnyHills at Minami-Aoyama。

 細い材料を使って3階建ての建物を全部支えています。組み合わさった木は、単なる外観上の飾りではなく、お互いに支え合うことによって柱の役割を果たし、建物の構造そのものになっているんです。

 隈研吾さんは、「細いものでも強い力を発揮する。なんとなく人間社会のこれからのあり方を示しているような気がする」と語っていました。

木組み博物館で木組みを分解!

 木材を組み合わせることで、長さを調節したり、強い構造にする技術、木組み。法隆寺や清水寺など、日本の有名な神社仏閣は、主要な部分に釘やねじなどは使わず、木組みで作られています。その技術を詳しく見るために、早稲田にある「穴八幡宮」にやって来ました。
 お会いしたのは、木組みに詳しい、谷川一雄さん。実は谷川さん、平成2年からこの神社の修復工事に現場監督として携わった方。
 最初に見たのは、木組みで作られているという鳥居。さらに、その奥にある隨神門。こちらは木組みの塊みたいなもので、見えるところ全てが木組みになっているそう。

 縦の柱と横の貫が釘などを使わずに、組み合わさっているというのです。

 そして柱の下にも木組みが使われています。
 というわけで、柱の中の木組みを見るために、穴八幡宮から徒歩5秒の木組み博物館へ。展示されているのはもちろん木組み。
 先ほど見た隨神門の原寸模型を見ると、外からは見ることができない部分に、外れにくくするための工夫がありました。

 ハの字になっていることで、始めは入りやすく、最終的にはしっかり噛み合うようになっていたんです。また、矢の様な返しがついているため、互いに引っかかることで、ズレにも強くなっています。

 そして、柱の下に使われているのは鎌と呼ばれる木組み。こちらにも、矢のような返しがあるので抜けません。

 スタジオでは、四方向に強い木組み、四方鎌継ぎと呼ばれるものや、つなぎ目が目立たない宮島継ぎと呼ばれる木組みを紹介しました!

木組み建築が長持ちする理由

 清水寺や東寺などの耐震構造を調べ修復する日本女子大学の江尻先生によると、日本の木造建築の大きな特徴が、壊れたり腐朽した時に取り替えることができること。メンテナンスをしながら長い年月を生き延びてきているといいいます。
 そのわかりやすいものが、お神輿。実は、木組みでできているお神輿。お祭りのたびに激しく揺さぶられますが、2~30年に1度メンテナンスすれば使い続けることができるんです。
 今回、千葉のお神輿屋さんに構造を見せてもらいました。木組みにすることで、傷んだところを直すだけでメンテナンスできるという仕組み。お神輿だけでなく、木組みで作られた歴史的な建造物も部分的に修理を繰り返すことで長持ちさせてきました。清水の舞台の柱の根本では、傷んだ部分を切り取って、新しい木材に木組みで継ぎ足す修理をしました。

 さらに、江尻先生によると、日本の建築で使える建築材料は木と鉄鋼とコンクリート。これらの中で、木材のさらなる利点というのが、重さに対しての強度を考えると木は理想的な材料だといいます。
 そこで、建築で使われることの多い、鉄と木を比較してみます。重さ450g、高さ10cmにそろえた鉄と木のサンプルを用意。上から徐々に荷重をかけていきます。
 鉄のサンプルが耐えられなくなったのが、24t。一方、木のサンプルは、なんと、34tまで耐えました。同じ重さだと木が1番強く、同じ強度を出す場合は木の方が軽くて済むという結果に。

 軽い建物の方が、地震などの揺れを受けた時に、建物が受けるエネルギーが少ないといいます。
 さらに、この木組みの構造そのものにも揺れへの強さの秘密があるといいます。
 構造体全体で力を分散しており、地震の力に対して抵抗をするシステムが働いているんです。清水の舞台も、たくさんの梁や貫や柱があって、全体でもっているんです。江尻先生が清水の舞台の地震シミュレーションを行なったところ、構造全体で力を分散していることが分かりました。
 さらに、清水寺の舞台の裏側には、柱と梁があたる部分にへこみ防止の鉄板が入れられたり、木組みが外れない様に金属が取り付けられたりなど、金属が木組みを補助するハイブリッド型進化をしたモノが残っています。

 現在ではそれがさらに進化。それが、木組みの良さを生かした新たな技法が拡張樹脂アンカー。
 まずは、木材に穴を空けます。特殊なドリルを使うことで、木の中にまん丸の穴を空けることができます。それを2つ重ね合わせ、金属のボルトを中に入れます。そしてそこに樹脂を注入します。

 樹脂が固まれば完了。樹脂を使うことでクッション性が生まれ、ボルト締めや木でかみ合わせるよりも、はるかに強い耐久力になります。
 これらの技術が木造の斬新なデザインや大型の構造を実現しました。隈研吾さんがデザインした建物にも使われているものがあるんです。
 日本の建築を支えてきた木組み。その技術は現在まで受け継がれ、時代を重ねることで進化も遂げていたんです!