第1620回 2022.04.10 |
いかちゃんの残したい〜トコロ!熊本県阿蘇地域編 | 場所・建物 自然・電波・鉱物・エネルギー |
後世に残すべき日本の文化や風景を再発見する新企画!いかちゃんの残したい〜トコロ!今回訪れた場所は、熊本県阿蘇地域。阿蘇地域は、重要かつ伝統的な農林水産業を営む地域として、国連の食糧農業機関により世界農業遺産に認定されているんです。
阿蘇といえば、広大な草原!この草原を中心として、阿蘇の農業、畜産には、密接な結びつきがあるんです!さらに、阿蘇の草原を守る、重要な作業とは?
今回の目がテンは、いかちゃんの残したい〜トコロ!世界農業遺産、熊本県阿蘇地域編です!
草原と農業のつながりとは!?
阿蘇といえば、火山活動によってできた、東西に18km、南北に25kmのくぼ地である、世界有数の巨大カルデラが有名です。
そのカルデラの中で、農地を開拓し、街を築いて多くの人が定住しているのは、世界的にも珍しいことなんです!
そんな阿蘇の農業遺産とは、日本最大級の草原、そしてその草原を活用した、伝統的な農畜産業。では、そんな広大な草原と、農畜産業は一体どんな繋がりがあるのでしょうか?お会いしたのは菊池秀一さん。菊池さんが育てていたのは、「阿蘇高菜」と呼ばれるもの。アブラナ科のからし菜の一種で、阿蘇に昔からある在来作物です。阿蘇高菜は、茎が細いため、シャキシャキと歯ごたえのある特徴的な高菜漬けになるといいます。ということで、阿蘇高菜の収穫を体験させてもらいます!
一般的な葉物野菜は、包丁などを使って収穫することが多いのですが、阿蘇高菜は、一本一本、手作業で真ん中の茎を折って収穫する「高菜折り」と呼ばれる方法で行うんです。春のおとずれを教えてくれる阿蘇高菜の緑。
では、草原と農業、一体どんな繋がりがあるのでしょうか?
実は、火山灰の土壌は酸性なので、野菜などの作物には不利な環境。そこで、草原の草を緑肥として混ぜ込むことで、作物が育ちやすい土壌にしているのです。
さらに、火山灰の土壌には、こんな良い特徴も!
阿蘇の草原について研究している熊本県立大学/大正大学の島谷幸宏先生に聞きました。
阿蘇が爆発して火砕流などが堆積して、火山性の黒ボク土がある場所が草原になっています。水を含みやすい柔らかい地質になっているため、雨が降ったときも地下に浸透。ゆっくり水がでていく保水力が高い特徴があり、土の中に水を貯める力が非常に高いといいます。
保水力の高い地質のおかげで、阿蘇では、いたるところで湧き水がでます。この豊富な水が農業用水や人々の生活用水として活用されているのです。草原から与えられる肥料、そして豊富な水が阿蘇の農業を支えていたんです。
草原と畜産のつながりとは!?
お会いしたのは、 阿蘇で50年以上続く牧場を営む井俊介さん。 阿蘇で行われる畜産の特徴は、夏に放牧して冬帰ってくるという夏山冬里方式。
井さんが育てているのは、あか牛という阿蘇の肉牛。
草がある間、メス牛と子牛を放牧。 オス牛を放牧すると、よく歩いて筋肉がつき、肉が硬くなってしまうため、牛舎で育てています。今はまだ、草が枯れているので、メス牛、子牛も牛舎で育てていますが、放牧されているときは、1日5〜8kmほど歩き、草原の草を自由に食べています。
いかちゃん、さらに、草原と畜産の関係を知るため牛舎でお手伝いをします。エサは牧草、そしてトウモロコシなどを配合した飼料を1日2回与えます。この牧草も阿蘇の草原のもの。さらに、草原と畜産のつながりはそれだけではありません。牛の糞を酸素と触れ合わせることで発酵させ、堆肥を作ります。
そして、春の稲作の田んぼを作る前に土作りとして田んぼにまいています。また、草原にも散布して土作りをしているんです。
阿蘇の放牧畜産は、草原で牛を育て、牛の糞で肥えた土を作り、そして、再び草原が育つ牛・土・草の循環型農業なんです。
せっかくなので、井さんが大切に育てたあか牛をいただくことに。あか牛は、柔らかい赤身と、ほどよい脂肪分が特徴。阿蘇の畜産を堪能したいかちゃんでした。
草原を守る野焼き
阿蘇の農畜産業にとって重要な草原。自然状態のままだと、30年ほどで低木が生え、ヤブ林になってしまうのです。
そのため、草原には、人による維持、管理が欠かせませんその重要な作業の一つが、野焼き。
野焼きとは、春に枯れ草を焼き払い、新たな芽吹きを促す1000年以上前から続く伝統行事。阿蘇地域は3分の1以上が草原、毎年この時期に数日にわたって草原のほとんどを野焼きするんです。この日、一般の人も参加できる野焼き体験が行われるということでいかちゃんも参加。
今回、いかちゃんが体験する野焼きの場所は、およそ5ha、東京ドーム1個分です。
まずは枯れ草に直接、火をつけます。そして、束ねたワラで、火を広げ、枯れ草を刈り取った場所、伸びているところを燃やしていきます。しばらくすると、大きな火があがりどんどん広がっていきます!最後は燃えているワラごと枯れ草の中へ。
野焼きを行なったところは真っ黒に!
今回の野焼きには、子供たちも挑戦。野焼きを体験することで、阿蘇の草原の重要性を学んでもらっているのです。
その後も、火はどんどん燃え広がり、およそ1時間で、予定していた箇所の草原をすべて焼き払いました。
でも、草原を焼いて、本当に動植物に影響はないのでしょうか?
阿蘇の生物多様性を研究している東海大学の岡本智伸先生に聞いてみると、野焼きをする時期が重要なポイントだといいます。燃え上がるところは地上部の高いところ、昆虫類など大部分は地表より下のところで越冬しているので、多くの動植物は影響がないんです。そして、野焼きをしていかないと、木が生えて小さな植物にとっては光を遮り邪魔になります。草原は生物多様性を維持することに関わってきます。生物多様性が守られていることは、適切に自然と付き合っていることになるんです。
2週間前に野焼きをした草原に行ってみると、野焼きのあとに、しっかりと新芽が芽吹いていました。
見つけたのは、リンドウの芽。春になると青色の花を咲かせます。このように人々が維持、管理する「半自然草原」が地元の畜産や農業に密接に結びつき、さらに、生物多様性も守られていたんです。