第1679回 2023.06.11 |
粘着テープ の科学 | 物・その他 |
セロハンテープや両面テープなど、私たちの生活に欠かせない、粘着テープ。実は、日本は優れた粘着テープの宝庫なんです!
何回剥がしても粘着力が落ちない魔法のテープとは!?スマホや医療機関にも欠かせない粘着テープ!知らないうちに進化していた、その技術とは!?
今回は、私たちの生活を支える粘着テープを科学します!
そもそも粘着テープとは?
訪れたのは大阪工業大学。粘着テープを研究している中村吉伸先生にお話を伺います。中村先生よると、粘着テープとは、シート状のフィルムに粘着剤を塗ったもの。
では、粘着剤とはどのようなものなのか?
見せていただいたのは、シリコーン樹脂が原料の粘着剤。
ほかにも、ゴム、ウレタン、アクリルなどの粘着剤があり、どれも指で押したりねじったりすると簡単に形が変わります。
粘着剤は、時間をかけて力を加えると伸びる、という液体のような粘性と、短い時間で力を加えると固くなるという固体のような弾性があります。そのため、丸めて投げるとボールのように弾んだり、長時間置いておくと流れるように広がります。
ガラスや紙などテープをくっつけるものは拡大してみると凹凸があります。この凹凸に粘着剤が液体のように広がり入り込むと、それ以上動きにくくなるのでくっつくのです。また、力が加わると抵抗し、固体のような性質が現れて固くなるので、剥がれにくいのです。
ところで、粘着テープと似たようなもので接着剤があるがどう違うのか?どちらもものをくっつけるという意味では一緒ですが、接着剤は、完全にくっつけるために24時間ほどの時間をかけて固体にする必要があり、固体にしてしまうと剥がしにくくなります。しかし粘着剤は、比較的すぐ「くっつく」ことが可能で、貼った後も性質が変わらないので剥がすこともできます。これが、粘着テープの最大の特徴なんです。
フィルムと粘着剤で構成される粘着テープ。粘着力の強弱を調整することでさまざまな用途別のテープが誕生しています。さらに、粘着テープはフィルムの性質を色々変えることで、いろんな用途展開もできる。これも粘着テープの強み。
例えば、養生テープ。引越しの時など家具や住宅に傷がつかないように使用し剥がすことを前提としたテープ。そのため、粘着力が弱く設定されています。さらに、ハサミなどを使わなくても良いように縦方向には切れにくく、横方向には切れやすいフィルムを採用しています。
ステンレス粘着テープは、水回りでもさびにくく、耐水性があるので、シンクなどに使われます。
暗闇で光る蓄光粘着テープは、足場の悪い場所で目印などに使うと役立ちます。他にも電気を通せるフィルムを使った導電粘着テープなど、さまざまな素材のフィルムを使うことで用途の幅が広がっているんです。
専門家の気になるテープとは!?
粘着テープの専門家、中村先生が最近気になっているテープがあるそうなんです。それが、魔法のテープと呼ばれる画期的な両面テープ。
通常の両面テープは、フィルムの両側に粘着剤が配置されています。しかし、この魔法のテープは、独自の技術でアクリル粘着剤を硬化させているのでフィルムがなくても形状を保つことができるんです。
まずは、その強度を見るために板に貼り付けます。水の入った500mlペットボトルをテープに押し付けても、しっかり止まっています。さらに、何回も貼って剥がしてを繰り返せるんです。通常の粘着剤の場合、剥がすと表面がガタガタになってしまうので、何度も貼ることができませんが、魔法のテープは粘着剤を硬化させているので表面にほとんど変化はなく何度も貼って剥がせるんです。
そのため、台所のタイルに貼って、調理器具を貼り付けたり、幅広い用途で使えるんです。
さらにすごいのは粘着力が落ちてきたら洗えば粘着力が戻るということ。
そして、もう一つ先生のお気に入りのテープが、とめたつテープ。作物の成長過程で茎やツタなどを支柱やネットに固定する際に使われ、植物に負担をかけないよう、テープ同士はくっつくのに、他のものにはくっつかない特殊なテープ。
このテープに使われているのは、微粘着の粘着剤。ほとんどのものにくっつかないのですが、性質の近いもの同士はくっつくため、粘着剤同士はくっつくのです。つまり、テープ同士のみくっつきます。
作物をテープで止めることで、金属などの異物混入やケガの心配がなくおよそ6カ月を目安に適度に粘着力が弱まるので、収穫後の後処理もラクなんです。
ここで先生から粘着テープを有効活用するためのアドバイス!
テープを剝がす時は、ゆっくり剥がすと綺麗に剥がれます!そして、もう一つは、剥がす角度。90度以下だと剥がすときにかかる力が広い範囲におよび、剥がれにくいんです。一方、角度を180度近くにすると剥がす時にかかる力が1点に集中するので軽い力で剥がれます。
続いては、強力両面テープ。大きな負荷がかかるような場合、強力両面テープでしっかりと固定します。しかし、注意点が。粘着テープはすぐにくっつくところが最大の強みですが、粘着テープが本来の力を発揮するには24時間必要。その間は負荷をかけない方がいいというのです。
そこで実験。両面テープを接着してすぐのものと24時間おいたもので、強度を比較します。
まずは、貼ってすぐの両面テープに負荷をかけます。500mlペットボトルを一本ずつかけていくとおよそ4.5kgで粘着テープが外れました。次に、粘着テープを貼り24時間置いたものに負荷をかけます。すると、およそ7.5kgで粘着テープが外れました。強力両面テープは24時間おくことで本来の強度が出るんです。
知らないところで進化していた粘着テープ!
粘着テープが私たちの知らないところで進化していると聞き、尋ねたのは日東電工株式会社。日東電工では、日常で使えるものから、工業用、医療用まで幅広いテープを製造しています。早速その技術を見せてもらいます。
まずは、0.05mmのセロハンテープよりもはるかに薄い0.005mmの両面テープ。
ディスプレイ内部の部品を固定するときに多く使われているのがこの「すごく薄いテープ」。スマートフォンやタブレットPC本体の薄型化貢献しているんです。
二つの重い金属棒を粘着テープでくっつけ実験です。金属棒を落としてみると、二つの棒は粘着テープで固定されたままでした。粘着剤は固体的な性質と液体的な性質を持っているので、力を上手く分散して、剝がれなかったということなんです。この受けた力を吸収する力を耐衝撃性といい、精密機器を衝撃から守ってくれるんです。他にも粘着テープは、防水、導電、遮光などの機能を足すことができるんです。
続いての粘着テープは、8ミクロン、0.008mmの薄さの医療用で使われるすごく薄い粘着テープ。
医療現場で、ガーゼなどを貼る際に活躍し、貼っているのを忘れるくらい薄く作られているので、患者の負担軽減になっているんです。ポリウレタン製で、水分の侵入や汚れを防ぎながら水蒸気は簡単に通すため皮膚表面の蒸れも防ぎます。
さらにこのテープ、粘着力はしっかりとあるのに、すごく肌に優しい粘着剤が使われているんです。
そこで、肌に優しい粘着剤のテープと従来の肌用テープを新聞紙に貼って実験です。まずは従来の肌用テープ。新聞紙が剥がれてしまいました。一方、肌に優しい粘着剤のテープは、まったく剥がれません。従来のものより柔らかい粘着剤が、皮膚の凹凸にしっかり入り込むので、接着面積が大きくなり、粘着力が優しくても、しっかりとくっつくんです。この技術で、角質が剥がれにくく肌に優しいテープを実現したのです。