世界初!(秘)
マグロ
誕生
第865回 2007年1月14日
冬の時期、最も脂がのって美味しい魚といえば「
マグロ
」。実は、日本は世界で獲れる4割以上のマグロを食べるマグロ消費大国なのです。しかし、今そのマグロ漁がピンチを迎えているというのです。
普段私達は、ホンマグロと呼んでいるクロマグロやミナミマグロなど、5種類のマグロを食べています。中でも冬の築地市場の主役といえば天然のホンマグロ。そして、青森県の大間で捕れたホンマグロは最も高値で取引される、まさに海のダイヤモンド。でも
なぜ大間産のマグロは高いのでしょうか?
その理由は、
暖流と寒流がぶつかり合う豊富なエサ場の津軽海峡
で捕れたマグロは脂が乗っていて、さらには冬大荒れの津軽海峡で
釣り上げられる確率が非常に低い
ためなのです。そして、マグロの数が減っているということで、昨年、
ホンマグロは20%、ミナミマグロは50%の漁獲量制限が決定
しました。このままではマグロが食べられなくなってしまう…そんな状況を打開すべく、科学の力で奮闘しているという方がいるという和歌山県の水産研究所を訪れた矢野さん。そこで見た
世界初の
マグロとは、なんと海の生け簀を泳ぐ、
卵から育てられた完全養殖のマグロ
でした。これまでのマグロ養殖は、捕ったマグロの幼魚を成魚にまで育てるというもの。つまり、研究を重ねた結果に成功した、
天然のマグロに頼らずに安定して出荷できる
、大注目の世界初マグロなのです。そして、生け簀に潜りすぐ近くで世界初マグロを観察していた矢野さんは、マグロたちが
同じ方向を向いて円を描いて泳ぎ続けている
ことに気が付きました。
なんと
マグロは泳ぎ続けないと死んでしまう
のだそうです。その理由は、マグロは他の魚と違い、自分で
エラぶたを動かしての呼吸ができず、口を開けて泳ぐことで海水を取り込み呼吸している
からなのです。だとしたら、一体
マグロはいつ眠っているのでしょうか?
そこで、夜の水族館でマグロを観察してみました。すると、マグロは夜もゆっくりながら泳ぎ続けていたのです。そして、一匹だけ急降下したあと、ふと我に帰ったように泳ぎだすという奇妙な動きをするマグロを発見しました。実はこれが人間で言う
睡眠の状態
だったのです。マグロは
完全に眠ることができない代わりに、夜間は泳ぐスピードを遅くするなどして代謝を低くする
ことで睡眠の代わりにしているそうです。
マグロはエラを自分で動かせないので、泳ぎ続けないと呼吸ができず死んでしまう。そして夜はゆっくり泳いで睡眠の代わりにしているのだ!
さて、マグロが
泳ぎ続けられるのは、マグロの体型が深く関係
しているというので、航空力学の力を借り体型の秘密を探ることにしました。前から風をあて、糸の動きによって物体の空気抵抗を見る実験をしてみました。まずはキンメダイの剥製で見てみると、抵抗が大きく気流が乱れ、糸がもつれたようになりました。一方マグロの場合、糸はまっすぐ伸びました。このようにマグロは
抵抗が少ないためにわずかなエネルギーで泳ぎ続けられる
のです。
さらに、マグロは曲がるときに舵取りの役目をする第一背びれを、使わないときは体にしまっておくことができ、体の側面にある胸びれにもたたむスペースがありました。マグロは
ヒレを格納式にして抵抗を減らしている
から楽に泳ぎ続けることができるのです。
さて、マグロを美味しく食べるために、そこには様々な工夫がありました。とれたてで新鮮なマグロは美味しいに違いないと考えた矢野さんは、釣り上げてもらったばかりのマグロを食べようとすると、漁師さん達は
釣り上げてすぐに氷が入った器にマグロを入れて冷やした
のです。これはマグロ自身の体温で肉が温められ白く変色してしまう
身焼け
を防ぐためなのだそうです。実際に体温を測ってみると、
釣り上げ直後は26・4度だったにもかかわらず、3分後には30・5度まで上昇
したのです。泳ぎ続けるマグロは筋肉を使い続けているために体温がどんどん上昇していくので、
呼吸をするために海水を取り込みながら、同時に体温も下げていた
のです。ところが釣り上げられて呼吸が止まると体温がどんどん上がり、身焼けを起こしてしまうのだそうです。
ようやく捕れたてのマグロの身を口に運んだ矢野さんですが、なんと
味がしなかった
のです。そこで、一体
いつ美味しくなるのか
を調べるために、マグロを低温室で寝かせ、マグロの
うま味成分であるイノシン酸の変化を観察
してみました。するとイノシン酸は日を追うごとに増え続け、
3日目にピーク
を迎えました。実は、マグロには
ATP
という筋肉を動かすエネルギーとなる物質が含まれていて、そのATPが
寝かせている間にイノシン酸に分解
されていくのです。これがいわゆる
熟成
です。お寿司屋さんでもマグロは数日間熟成させてからお客さんに出されていたんです。
なんとマグロは江戸時代までは庶民に全く人気がない魚でした。それは、冷凍技術が未発達で、マグロを熟成させることができなかったからなのです。
マグロは身焼けを起こさないようにすぐに冷やされ、低温で数日間熟成させて、初めて美味しく食べられるのだ!