超巨大
パン
VS 相撲取り
第881回 2007年5月6日
日本の主食といえば米ですが、
パン
も人気の食べ物。日本は、パンを1世帯あたり年間約40キロも食べているパン大国でもあるのです。そこで今回は、身近だけど奥が深い、パンを科学します。
パンはなんと今から5500年前、紀元前3500年頃から食べられていました。その起源は、ただ小麦を粉にしたものをお湯で煮た、おかゆのようなものでした。でもパンのおいしさの秘密と言えばやはり、ふっくらとした食感ですよね。そこで、佐藤アナがそのふっくらの秘密を探りに早朝パン屋さんを訪ね、パン作りの工程を見せてもらいました。作ってもらったのは基本的な製法のバタールという、フランスパンの一種。その
材料は小麦粉・水・塩・イーストと呼ばれるパン酵母のみです
。
これらを全て混ぜて捏ねること10分、生地に弾力が出てきてまとまったらパン生地の完成です。続いてその
生地を2時間ほど寝かせると、生地は寝かせる前の2倍近くの大きさに膨らみました
。次に大きくなった生地を分割し、パンの形に成型していきます。そして最後に28度に保たれた装置に入れて1時間程寝かせます。そうしてさらに膨らんだパン生地に切れ目を入れ、いよいよオーブンに入れます。焼くこと30分、ついにおいしそうなパンが焼けました。
最初の生地と比べると、体積はおよそ4倍
にもなり、14本ものパンが焼けました。
実はこんなに膨らむのは、
生地に入れたパン酵母の効果
なのです。パン酵母は
微生物の一種で、小麦粉に含まれる糖を食べ、アルコールと二酸化炭素を排出
します。このアルコールがパンの風味となり、
二酸化炭素がパンをふっくらと膨らませていた
のです。これを
発酵
と言います。
パンのおいしさの秘密、ふっくらとした食感は、パン酵母が発酵する時に出す二酸化炭素のおかげだった!
ならば、
パン酵母の膨らむ力は一体どれだけあるのでしょうか?
そこで実験。食パン300斤分、約115kgのパン生地をこねあげ、専用の容器の中に入れ、
体重146キロ
の相撲部の主将に上に乗ってもらいました。果たしてパン酵母の力で146キロを持ち上げることができるのでしょうか?
実験開始直後、ギュギュギュと軋む音と共に、何と、146キロの重圧をもろともせず、
生地が膨らみ主将が持ち上がりました
。発酵はとどまることなく、どんどん膨らみ、主将がとうとう容器から押し出されてしまうかという時、なんと容器が壊れるという想定外のアクシデントが発生。しかし、ミクロの力で、146キロの重さを持ち上げたパン酵母。パンをふっくらさせる発酵の力は横綱級でした。
このパン酵母の力があれば
小麦粉でなくてもパンを作れる
のでは?ということで、色々な粉を使ってパンを作ってみました。
お米の粉
、
とうもろこしの粉
、大豆が原料の
きな粉
、じゃがいものデンプンから作る
片栗粉
、
そば粉
の
5種類の粉
に材料を加え、食パンを作ります。すべての生地を捏ね上げ、2時間寝かせます。果たして生地は膨らむのでしょうか?
結果、片栗粉は小麦粉と同様膨らみましたが、とうもろこし粉、きな粉は膨らんだもののヒビだらけ。そば粉はドロドロ、お米の粉はほぼ変化はありませんでした。続いて生地を分割し、食パン用の型に入れてオーブンへ。果たしてどんなパンができるのでしょうか?スタジオで完成品を所さんに試食してもらうと、
全てのパンの食感が悪く
、味も残念な結果でした。
なぜ、小麦を使ったものだけがふっくらする
のでしょう?実は
小麦のタンパク質にはグルテンという成分
があり、水と捏ねると伸縮性が出ます。これが、
発酵で出た二酸化炭素を受け止めて膨らむ
のです。
パンに小麦粉が使われているのは、パンがふっくらと膨らむために必要な「グルテン」という成分を含んでいるからだった!
さて、パンはふっくらだけではなく、フランスパンのようなパリっとした食感も魅力のひとつ。そこで矢野さんが、
世界一パリっとしたパン作りに挑戦
しました。まずはパン酵母を減らし、発酵によりふっくらとするのを防ぎ、強力な生地を作ります。
次に生地をギュっと丸め、中身をぎっしり詰まらせ、焼いた時に生地が広がらないように、閉じ口もしっかりと止めます。そして、生地が膨らまないようにガス抜きの穴を開け、低温で長時間じっくり焼きました。しかし、パリっとするはずが、
強烈に硬いパンに焼けてしまいました
。硬度を測る機械で測定したところ、
普通のフランスパンが硬度5.4なのに対し、
このパンの
硬度は11もあり、
なんと木材の
ヒノキに匹敵する硬さ
だったのです。
ならばとこの
硬いパンをバットに使って、野球の球は打てるのか
を実験してみました。軟式ボールをピッチングマシーンで投げ、このパンで打ってみます。まずは
時速64キロ
の球に対しては、ボールが当たったところはへこんでしまったものの、パンは折れることなく
打ち返すことができました
。そして
150キロの剛速球
にチャレンジしたところ、なんと
球を前にはじきかえしました
。パンはちぎれる寸前でしたが、もはや食品の限界を超えた耐久性でした。
ここまでとはいきませんが、このように水分をほとんど含まないパンは保存がきくので、ビスケットやカンパンのような非常食などに活用されています。