第1443回 2018.09.23 |
人物ファイル の科学[第3弾] | 水中の動物 自然・電波・鉱物・エネルギー |
世の中には、常人にはちょっと理解できないほど研究に情熱を注ぐ探求者がいます。目がテンでは、そんな探求者を番組独自のファイルにすべく、研究者からマニアまで、候補者たちに密着します!第三弾の「目がテン!人物ファイル」は、「オオサンショウウオ」を研究し続ける栃本武良(とちもとたけよし)さん、そして「植物の化石」を追い続ける矢部淳(やべあつし)先生に迫ります!
山奥にあるオオサンショウウオの研究所!
佐藤アナが訪れたのは、「目がテン!人物」の研究所がある、兵庫県朝来市の山奥。上空写真を見てみると、山に中にポツンとある謎の施設です。入口は、お化け屋敷のような怪しい雰囲気。「日本ハンザキ研究所」と書いてありますが、一体何の研究所なのでしょうか?鬱蒼とした怪しいトンネルを奥へ奥へとくぐり抜けると…そこには、生い茂った植物に飲み込まれそうな廃校が。呼び鈴らしき鐘を鳴らしてみると、現れたのは栃本武良さん、御年77歳。
廃校となった学校を借りて、ある研究を行っていたのです。栃本さんに案内をされ、元職員室だった研究室を抜けると、小学校の25mプールが。そこを改装して飼育しているのは…なんと、特別天然記念物のオオサンショウウオ!
オオサンショウウオは、全長150㎝以上にもなる世界最大級の両生類で、主に標高400~600mの山を流れる川に生息しています。この廃校のすぐ近くを流れる川にも天然のオオサンショウウオが。だから、この山奥が研究するには絶好の場所なのです。栃本さんは、廃校を借りて丸ごと研究施設に改装。日本ハンザキ研究所と名付け、なんとここで暮らしながらオオサンショウウオを研究しているのです。「ハンザキ」というのは、昔の図鑑に記載されていたオオサンショウウオの正式な名前。口が大きく裂けているように見えることから、かつてオオサンショウウオはハンザキと呼ばれていたのです。
まずは、貴重な特別天然記念物であるオオサンショウウオを見せてもらいました。すると、栃本さんから「餌やってみる?」と提案が。特別に触らせてもらうと、表面は滑っとした感触です。オオサンショウウオの餌は、アマゴの頭。鼻先に近づけてみると、少し間があってから、突然動いて大きな口でパクリ!オオサンショウウオは、餌の魚やカエルなどが口元に近づくと、一気に水ごと飲みこむ肉食なのです。
餌やりを体験したところで、栃本さんに「なぜオオサンショウウオの研究を始めてみようと思ったのか」と質問してみると、水族館の飼育員としてオオサンショウウオを飼育していた頃のことがきっかけだったと言います。それは今から50年前のこと。水族館に来ていた子供たちから、オオサンショウウオの年齢や寿命について質問された栃本さんは、答えることができませんでした。それもそのはず。実は、オオサンショウウオの正確な寿命は現在も分かっておらず、図鑑にも「とても長生きです」としか書かれていないのです。その時の悔しさをバネに40年!栃本さんは、人生をかけてオオサンショウウオの正確な寿命の解明に挑んでいるのです。
途方もないオオサンショウウオの生態調査!
そして栃本さんは、研究所の横にある川に住んでいるという天然のオオサンショウウオの調査に行くことに。しかし、向かうのはなぜか職員室。現れたのは、岡田純(おかだすみお)さん50歳。栃本さんは40年研究を続け、高齢になったため、夜の生態調査は後継者に引き継いでいたのです。
夜8時、岡田さんと共に調査へ出発。研究所から川の下流を目指し、夜道を歩くことおよそ10分。真っ暗な藪に入っていくと河原に到着しました。ここから夜通し、天然記念物であるオオサンショウウオを探します。と、その時、ラッキーにもすぐにオオサンショウウオを発見!すると岡田さんがそっと近づき、まさかの手づかみであっさりと捕獲!
国宝級の生き物なので、優しい手つきで大事に捕まえます。捕まえた後は、身体測定。まずは体重を測るとおよそ1.4kgでした。続いて、栃本さんが40年の研究で生み出した手作り全長測定器を使って、オオサンショウウオの全長を測ります。そのサイズは、58cm。さらに岡田さんが何やら機械を取り出しました。その正体は、マイクロチップのリーダー。このマイクロチップこそが、オオサンショウウオの寿命研究における最大の鍵なのです。寿命年齢を正確に調べるためには、研究所で育てたオオサンショウウオにマイクロチップを埋め込まなくてはなりません。研究所の水槽では、この場所で卵から孵化した、生後9か月のオオサンショウウオの赤ちゃんを育てています。マイクロチップを入れることができるようになるのは、卵から孵化させ、4~5年かけて20cm~25cmくらいの大きさになってから。生まれた歳がはっきりと分かるオオサンショウウオの子どもをチップが入れられる大きさまで育て、それを川に放し、追跡するのです。オオサンショウウオの寿命を正確に調べるのは、途方もなく時間のかかる研究なのです。
マイクロチップの入っているオオサンショウウオは、1000個体ほど。研究所で生まれた個体だけでなく、この川に生息するオオサンショウウオにもマイクロチップを入れ、地道に生態調査をしています。先ほど捕まえた個体は元々川で生息していて、2004年にチップを入れたオオサンショウウオ。少なくとも14年以上は生きている個体だったのです。捕まえたオオサンショウウオをそっと帰し、調査を続行します。栃本さんと岡田さんは、何十年も夜な夜なこのような調査を続けているのです。そこから2匹目のオオサンショウウオを探し、3時間が経過。なかなか見つからず、諦めかけたその時、2匹目のオオサンショウウオを発見しました!さっと捕まえて、体重を測ってみると、体重はおよそ4kg。全長も90cmと、先ほどよりもかなり大きな個体です。さらに、マイクロチップを読み込んでみると、1998年に河原で捕まえた個体と判明。20年以上は生きている個体だったのです。
深夜0時、その後オオサンショウウオは見つからず、この日の調査は終了。研究所に戻り、栃本さんに報告をします。すると、栃本さんは何やら資料を取り出し、記録をつけ始めました。栃本さんは、マイクロチップを埋めた1000匹すべてのオオサンショウウオの記録をとっていて、これを元にこの川に住むオオサンショウウオの寿命を特定しようと考えているのです。
長年丁寧に研究を続けてきたことで、驚くべき発見も。産卵期になると、オス同士の産卵場所を奪い合うバトルがあることが分かったのです。栃本さんの撮影した映像には、産卵場所を奪おうと侵入したオスのオオサンショウウオを元からいた、もう1匹のオスが産卵場所を守るために噛みついて撃退した姿が映っていました。なんとこの行動は、世界初の発見だったのです。
栃本さんは、オオサンショウウオを保護するために、自分や岡田さんを含めて人間の方が何代もバトンタッチしながら、オオサンショウウオの生態を明らかにしていこう、という思いで研究を続けているといいます。
オオサンショウウオは寿命がとんでもなく長く、一説によると100年以上と言われています。なので、その一生を追うには一人では調査しきれず、何代にもわたって調べていく必要があるのです。
地球環境の謎を追う、植物化石の研究!
続いての目がテン人物を訪ねて、佐藤アナがやってきたのは東京湾に注ぐ一級河川・荒川。そこにいたのは、国立科学博物館研究員の矢部淳先生。
お話を伺うと、ここで植物の化石を探している、と言います。恐竜などに比べ、あまり化石のイメージがない植物ですが、実は動物だけでなく、植物も化石になるのです。植物が化石になるには、葉っぱや木の幹が土砂で埋もれ、積み重なることで、外からの酸素が遮断されます。すると、その中ではバクテリアなどの動きが抑えられ、葉っぱの細胞などが分解されずに形をとどめます。その後、果てしなく長い年月をかけて、土砂が圧縮されて固まることで、植物の化石になるのです。
矢部先生になぜ植物の化石に熱中しているのか聞いてみると、元々は化石というよりも地層に興味があったと言います。大学時代、地学を学ぶために各地で地層の研究していた時に植物の化石と出会ったのが転機となり、研究に没頭していきました。
矢部先生に植物の化石が割と簡単に採れる場所があると聞き、そこで採集をすることに。植物の化石は、化石の中で最もたくさん出る物のひとつで、恐竜よりもたくさんあると言います。でも、そんなに簡単に採れるものなのでしょうか?採集するのは、柔らかい地層が川の流れによって削り取られて、古くて硬い地層部分がむき出しになった場所。佐藤アナが初めて発掘に挑戦してみると…すぐに発掘成功!本当に植物の化石はたくさん埋まっているのです。矢部先生が言うには、これがなんと1000万年前の化石だそうです。
一体何の化石なのでしょうか?研究室に持ち帰り、調べることに。まず、採集した化石の葉っぱの部分だけを剥がし、一回酸化させて中の葉肉を溶かすための液体に浸けます。そして、顕微鏡で細胞が溶けた植物の化石を覗いてみると、「気孔」が見えました。気孔とは、葉っぱの裏側にある、呼吸や水分量の調節をするための小さな穴のこと。気孔の形や場所は植物ごとに決まっているため、これを見て何の植物かを特定していくのです。矢部先生は、色々な植物の標本を膨大にストックしていて、その中から見比べて、植物を特定しました。
佐藤アナが発掘した植物の化石は、“1000万年前の藤の葉っぱ”ということが分かったのです。
矢部先生は、なぜこのような研究をしているのでしょうか?それは、今はもういなくなってしまった植物に鍵があると言います。例えば、アメリカ大陸で発見された、およそ6000万年前のイチョウの化石の場合、現在自生している天然のイチョウが残っているのは中国だけです。つまり、中国以外でその化石が見つかったということは、かつてイチョウが世界中に広く分布していた、ということが分かるのです。
矢部先生は、様々な気候や大地の変化といったものが影響して今に繋がっている、ということを知りたい、そのためには化石の採集も必要で、時間の限り研究を続けていきたいと言います。このように矢部先生は、太古の植物を研究し、今に繋がる地球環境の謎を追っているのです。