第1476回 2019.05.19 |
サバ の科学 | 水中の動物 食べ物 |
古くから大衆魚として親しまれてきたサバ。最近、栄養価の高さや美味しさが再注目され、空前の大ブームになっています。なかでも、手軽でリーズナブルなサバ缶が大ブレイク! 缶詰界の帝王、ツナ缶の生産量を超えてしまうほど。さらに、古くから傷みやすいとされてきたサバが生で食べられるなんてことも。サバ缶を使ったお手軽レシピも紹介します。
今回の目がテンは、空前の大ブーム「サバ」を科学します!
生で食べられるブランドサバ
連日盛況の、都内のサバ料理専門店でお話しを聞いてみると、生で食べれるサバのお造りが人気なのだそう。酢で締めたシメサバではない、正真正銘の生サバの刺身。あちらこちらで、お客さんが美味しそうにサバの刺身を食べています。しかし、「サバの生き腐れ」という言葉があるほど、サバは傷みやすい魚の代表格。普通は酢で締めたり、加熱して食べますが、生で食べても大丈夫なんでしょうか?
魚の鮮度について詳しい、東海大学海洋学部の平塚先生に聞いてみると、サバは足が早い魚ではありますが、特に腐りやすい魚という訳ではないのだそう。実はサバやイワシ、カツオやマグロなど、赤身の回遊魚は、すべて鮮度が落ちるスピードが早いそうなんです。生き物は体内でATPを作り出し、それを分解することで体を動かすエネルギーを作っています。しかし、死んだ後はATPを作り出すことはなく、分解だけが進み、ATPは減っていきます。魚で言えば、ATPが減れば減るほど、鮮度が落ちていく、ということになります。ずっと泳ぎ回っていて、多くのエネルギーを必要とする赤身の回遊魚は、他のタイやヒラメに比べて、ATPを分解する速度が速く、その分、鮮度が落ちるのも早いんです。
ではなぜ、サバだけが足が早いと言われるのでしょうか?平塚先生が言うには、マグロの場合、一匹ずつ取って丁寧に処理ができて、船の上ですぐに冷凍することができますが、サバのようにたくさん獲れる魚は、大きく網で大量に獲ってしまうので、魚によって個体差が大きく、すぐに鮮度が落ちたり、網に引っかかって傷がつくことが原因なんだそう。
つまり、サバも、マグロのように丁寧に処理をすれば刺身で食べることができるんです。
ブランドサバはどのようにして鮮度を保っているのか?そこで酒井さんが、刺身が絶品と噂のブランドサバ、その名も「お嬢サバ」を見に行くために、鳥取県へ。
案内されたのは、工事現場のような場所。生産者の吉村さんに話を聞くと、ここでお嬢サバの陸上養殖を行っているのだとか。お嬢サバは海ではなく、陸の生簀で育った、日本初の陸上完全養殖のブランドサバ。
養殖場の地下およそ10mからくみ上げられた、自然ろ過されたきれいな地下海水で、お嬢サバは育てられています。ここでサバの養殖を始めたのも、地下海水が出る場所だったからなんです。お嬢サバは、およそ10か月、ここで育てられ、毎年3月8日、サバの日から5月末ごろまで出荷されます。
実は出荷の際にも、鮮度を保つポイントがありました。お嬢サバは、関西までは、活魚車という専用の車に生きたまま乗せられ、出荷されます。生きたまま、店の生け簀に移され注文ごとにさばくので、お嬢サバの鮮度が落ちることはありません。東京のように遠い場所の場合、仲卸業者が、エラと尾を切って血抜きをする「活けじめ」という処理をします。
実は、ここにサバの鮮度のカギを握る、ATPを減らさない秘密が。網で大量にとられたサバの場合、水揚げされてから死んでしまうまでの間にストレスがかかり、ATPが急激に減ってしまいます。しかし、ブランドサバはストレスがかかる前に、一匹ずつ丁寧に活けじめをすることで、ATPを減らさず、鮮度を保っているんです。
さらに、お嬢サバが、生の刺身で美味しく安全に食べられる、もう一つの理由が、その名前にありました。お嬢サバは、陸上のいけすで育てられている完全陸上養殖のため不純物が入りにくく、寄生虫が付きにくいのです。箱入りで、悪い虫「アニサキス」が付かないようにしているため、「お嬢サバ」なんです。
アニサキスは、サバの内臓に寄生することが多く、ヒトの胃に入ると、激痛を引き起こします。
加熱調理するか、マイナス20度以下で冷凍すればアニサキスは死んでしまい、安全ですが、生のサバの刺身はアニサキスに当たるリスクがあるのです。アニサキスは、プランクトンを食べたことで寄生すると言われています。こちらでは、きちんと管理された人口の魚粉を与えているので、アニサキスが付きにくいのだとか。鮮度を保ち、リスクを減らす努力で、生のサバの刺身がおいしく食べられる時代がきたんです。
サバ缶の栄養を最大に引き出す郷土料理
現在のサバブームの火付け役と言えば、サバ缶!実は、保存食であるサバ缶に、ある驚きの真実が隠されていたんです。教えてくれたのは、早稲田大学で食品栄養学を研究している矢澤教授。実は生のサバを食べるよりも、サバ缶の方が栄養価がかなり高いという分析データが出ていると言うんです。
にわかには信じられない話ですが、注目すべきポイントは、EPAとDHA。これは、青魚の油に多く含まれている必須脂肪酸で、自分の体では作れないものです。サバ缶には、それらの脂肪酸が非常に多いのです。
EPAには、血栓をできにくくする働きがあり、血流改善や動脈硬化の予防につながります。一方、DHAは脳の情報伝達を助けるので、認知機能の低下や老化を予防する効果が。サバ缶は、新鮮な状態のサバを生のまま缶詰に封じ込め、そこに調味料を少し入れたうえで、封をして加熱殺菌をします。調理の過程で逃がしてしまう栄養素がないので、余すことなく缶の中に閉じ込められる、というわけなんです。缶の中には汁があり、そこにEPA・DHA等がたくさん出てきてしまうので、なるべく汁ごと全部使うのが良いのだそう。
文部科学省のデータによると、サバ缶には、100g当たりに含まれる、EPA・DHAが生のマサバのおよそ1.6倍!
しかも、缶詰に入っている骨は非常に柔らかくて食べやすくなっているため、丸ごと食べることができます。これが生の可食部を食べるより、効率よく栄養を摂取できるということになり、サバ缶のカルシウム量は、生のサバのおよそ35倍にもなるんです!
そんな栄養満点のサバ缶を使った、世にも珍しい郷土料理が、山形県の内陸部、村山市にあるとの情報が!
サバ缶を使った郷土料理とはどんなものなのか?佐藤アナが市内のスーパーを調査してみると、一際目立つサバ缶売り場が!サバ缶を買う村山市民に話を聞いてみると、「ひっぱりうどん」という料理名が。どうやら、山形の謎の郷土料理は、サバ缶を使ったうどんのようです。村山市には、この「ひっぱりうどん」がかなり浸透していて、ほかの地域とは売れ行きが違うといいます。元々、サバ缶がツナ缶よりも売れていたんだとか。市内のあるお宅を訪ねてみると…大量にストックしてあるサバ缶が!実は村山市には、かつて缶詰工場があったため、サバ缶が手に入りやすく、よく食べられるようになったのだそうです。さあ、村山市民が愛してやまない「ひっぱりうどん」とは?
市内のお宅にお邪魔し、作る所を見せてもらいました。まず出てきたのは、かなり大きい鍋。そこに、たっぷりの乾麺を投入。ゆであがりを待つ間に、タレをつくります。基本食材は、納豆とサバ缶と卵とネギ。この地域は、冬は雪深く、昔は雪が降ると買い物にも行けなかったため、ひっぱりうどんの材料には、家に常に置いてある食材や保存のきくサバ缶、そして乾麺が使われています。これらの具材を、それぞれ、お好みの量お椀に入れて、しょう油をかけます。
最後にタレをかき混ぜたら、いよいよ鍋からうどんを引き上げていただきます。
ひっぱりうどんは、鍋からうどんを引き上げる様子を「ひっぱる」と言ったことから、その名が付けられました。ひっぱった麺はタレの中で豪快に混ぜるのがポイント!佐藤アナも美味しそうに食べていました。
地元の人たちに愛されているひっぱりうどん。実は美味しいだけではなく、サバ缶の健康効果を引き出す、最高の食べ方なのだそう。実はEPAとDHAには、酸化されやすいという欠点があります。ひっぱりうどんで具材として使っている納豆は、大豆の中のビタミンEが非常に豊富。ビタミンEには抗酸化作用があり、サバ缶のEPA・DHAの酸化を防ぐので、栄養価を損なわないんです。
さらに、大豆の中に入っているイソフラボンは、抗酸化作用があると同時に骨にカルシウムを入れて強化していく、という大事な働きをしています。つまり、納豆の大豆イソフラボンと鯖缶のカルシウムを一緒に取れば、骨も強くなるんです!
山形県の郷土料理「ひっぱりうどん」は、サバ缶の栄養を最大に高める食べ方でした。
また、長寿について研究している下方教授によると、東北地方全体では、塩分の取りすぎやお酒をよく飲むこと、寒さなどから平均寿命が短い傾向があるのですが、村山市は全国の平均寿命を上回っている、比較的長寿の街なんです。郷土料理や日常生活でサバ缶を良く食べて、EPAやDHAをたくさん体に取り入れていることが、東北の中でも平均寿命が高い一つの要因ではないかと考えられるようです。
栄養満点!簡単サバ缶レシピ
そんな栄養たっぷりのサバ缶。そこで、サバ缶と合わせると健康効果がアップする食材で、時短!簡単!おいしい!サバ缶レシピをご紹介します。
まずは、「骨を丈夫にする、サバ缶アヒージョ!」。
作り方はとっても簡単。ガラス製の耐熱容器に水煮缶を汁ごと入れて、サバの身を軽くほぐします。そこに、一口大にカットしたマイタケ、ブロッコリーを乗せ、オリーブオイルをたっぷり入れます。スライスしたニンニクと輪切り唐辛子を散らして、ふんわりラップをかけて600Wで4分加熱すれば、完成!
サバ缶は骨の強化に必要なカルシウムが非常に豊富。実はマイタケに含まれるビタミンDには、私たちが食べたカルシウムの腸管からの吸収を促進する機能があります。さらに、ブロッコリーにはビタミンKがあり、血液中を回ってきたカルシウムを骨にしっかりつける作用があるので、非常にいい組み合わせなんです。
続いては、認知機能の低下を予防する・「レンジでサバ缶カレー」!
カレーなのにレンジだけで簡単に作れます!耐熱容器にサバの味噌煮缶・合いびき肉・カレー粉・醤油・塩コショウ加え、ざっくり混ぜます。ラップをかけ、600Wのレンジで5分加熱。器に盛った玄米ごはんの上にかけたら、もう完成!
玄米には、GABAという神経伝達物質が含まれており、脳の神経細胞の情報のやり取りには非常に有効です。また、カレーは多くの香辛料を使っていて、神経伝達を改善してくれます。さらに、DHAがサバ缶の中に含まれているので、一緒に食べることで効果高まるのだそうです。
最後は、太りにくい体づくりに、「サバ缶わかめご飯」!
混ぜるだけでできちゃうお手軽料理です!ご飯にサバの味噌煮缶を崩しながら加え、ポン酢、白だし、白いりごま、ショウガを加えてよく混ぜます。水で戻し、細かく刻んだわかめ、そして青じそを加え、ご飯と軽く混ぜ合わせれば、完成!
サバ缶に含まれるEPAと食物繊維である海藻を一緒に食べると、血糖値の上昇抑制に非常にいい効果があるのだそう。ぜひ皆さんも、サバ缶クッキング、お楽しみ下さい!