放送内容

第1490回
2019.09.01
砂防 の科学 場所・建物 自然・電波・鉱物・エネルギー

 実は年間1000件も発生している土石流。そのメカニズムなどを研究するのが、「砂防学」。日本の防災において、非常に重要な役割を持つ研究ですが…新聞記事で研究者不足の緊急声明が出されるほど、危機的状況なのです!砂防学会によると、砂防に関する講義を行う大学や研究者が年々減少しているのだとか。
 今回の目がテンは、重要なのに衰退中の「砂防」を科学します!

土砂災害から人々を守る「砂防」!

 日本の防災において重要な研究なのに縮小しているという、危機的状況の砂防学。そもそも、砂防とは何の役に立っているのでしょうか。それを知るヒントが、なんと江戸時代に描かれた浮世絵にあるのだそうです。
 砂防の研究を行う日本大学の安田先生に聞いてみました。安田先生が見せてくれた浮世絵に描かれた山には、木がちらほらとしか生えていません。

 実はこれ、デフォルメして描かれたものではなく、実際に山に生えている木が非常に少なかったからだそうなんです。
 現在の山と当時の山を写真で比較してみると…明治時代の山は、木が生えていないために山肌が白く写っていました。このように荒廃した山は日本全国に見られたのです。
 その理由は、燃料や建築材を生活圏の裏山から採取し続けてきたから。山から木を切っていくとはげ山になってしまい、その結果、雨が降るとすぐに土砂の崩壊が起きて災害になっていたんです。
 また、土砂を原因とする災害の規模も今よりもはるかに大きかったんです。大量の土砂によってもたらされる災害の1つが洪水。山から流れ出た土砂により、底がどんどんと浅くなる川が増えてきました。底の浅い川は、洪水を引き起こしやすいため、それを防ぐために堤防を高くします。すると、堤防に合わせてさらに川底が上がり、さらに堤防を高くする、というイタチごっこが始まるのです。
 結果的に川底が周辺の地面よりも高くなってしまう「天井川」が日本各地に出現することになりました。

 そして、大雨により堤防が決壊すると、広範囲に被害が及び、多くの人命が失われることになったのです。
 明治時代に発生した、風水害による被害を見てみると…1000人以上の死者が出た災害が4件、500人以上は10件、100人以上は15件が、確実に言える分だけでも発生しています。ところが、平成に入ってから、風水害で 100人以上の死者が出た災害は、1件だけにとどまりました。その災害による被害を軽減する一因となったのが砂防なんです!
 明治29年に河川法、30年に森林法・砂防法が制定され、全国的に国土保全が行われるようになりました。砂防ダムの建設、植林など山肌の改良や河川の改修が進められたことにより、現在の日本の森林は、ここ400年で最も緑が増えていると考えられています。
 その結果、土砂の流出が減少し、洪水による災害が減ったのです。
 安田先生は、人々の生活と自然環境のバランスを考える学問は非常に重要だと言います。そこで、安田先生の下で土木を学ぶ学生さんに「砂防を知っているか」を聞いてみました!すると、手を挙げてくれたのは…ごく数名。土木を学ぶ学生たちにも砂防はあまり認知されていませんでした…。
 このままでは後継者がいなくなってしまう!頑張れ、砂防学!目がテンは、勝手ながら砂防学を応援します!

被害を抑える「砂防ダム」の役割!

 実際に砂防の施設を見るべく、裕太さんが向かったのは群馬県、利根川の支流、神流川(かんながわ)。清流に沿って人家が並ぶ自然豊かな場所です。
 ロケには、安田先生に加え日本大学で土木を学ぶ「土木ガールズ」の3人も参加。まだ専門分野を決めていない2年生です。砂防には興味があるか聞いてみると…3人とも沈黙。今日のロケを通じて、砂防に興味を持ってもらえるでしょうか?そして、この地域の砂防を管理する国土交通省の永田さんも同行します。
 ロケ地はのどかな土地ではありながらも、土石流のリスクが高い地域です。
 土石流とは、大量の土砂と水が一度に流れ出る現象のこと。
 そこで、土石流を防ぐ砂防施設を見るため、車でさらに山の奥まで進みます。やってきたのは奥名郷第四砂防堰堤。砂防ダムとも呼ばれる施設です。

 土木ガールズの3人も見たことはあるものの、その役割までは知らない様子。
 実はこの場所は、平成11年と19年に大量の土砂が流れ出てきた場所。砂防ダムは、川から流れ出てきた土砂を受け止め、溜めるために作られた施設なんです。
 日本各地で土石流を防ぐ砂防ダム。一体どんな効果があるか、川と町のモデルを使い、実験してみました。砂防ダムなどが整備されていない場所に土石流を模した石と水を流してみると、土石流がさえぎられることなく流れていき、人々が生活している地域を襲います。

 では次に砂防ダムなどの模型を置いた場所で、土石流がどうなるか試してみます。すると、流れ出した土石流は砂防ダムでせき止められ、人々が暮らす地域に土石流はほとんど流れてきませんでした。

 土砂を受け止めたダムには当然砂が溜まります。別の地域にある砂防ダムの画像を見てみると、土砂を受け止める前は一見普通のダムのように見えますが…土砂を受け止めると、ダムは完全に砂で埋まってしまっています。
 今回訪れた砂防ダムも砂でいっぱいになっています。こうなると、砂防ダムの役割は終わってしまったように思えますが…実はまだまだ砂防ダムは機能しているんです!埋まった砂防ダムでも終わってないとはどういうことなのか、実験で明らかにします。
 やってきたのはつくばにある土木工事の検証施設。筑波大学の内田准教授に実験を監修してもらいます。大きな実験設備を使って小さな土石流を起こし、実験を行います。
 斜面の上流から大量の水を流し、すぐ下に置かれた砂利が流されることで土石流を再現。そこにカラーボールを一緒に流し…一定の距離を何秒で通過するか調べます。まずは、砂防ダムがない状態だと…ボールは下流まで3.53秒で到達。
 続いて、流した砂を回収し、同じ水路に砂でいっぱいになった砂防ダムを再現して、同様に土石流を流した時、どうなるかを実験します。すると… 土石流と一緒に流れたカラーボールは、7秒で下流に到達しました。
 満タンになった砂防ダムでも、土石流の勢いを半分にできたんです。

 その理由は、砂が溜まることによって斜面の角度が緩くなったから。土石流のスピードが半分になるということは、その力はもっと小さくなり、4分の1程度になっていると考えられます。砂でいっぱいになっていたとしても、ダムがあることで土石流の勢いを殺すことができたのです。

環境も守る!進化した砂防ダム

 続いて、進化した砂防ダムを見るため、道なき道を進んで行くと…案内されたのは、先ほど見たものとは様相の異なる砂防ダム。ジャングルジムのような、格子状の形をしています。

 この砂防ダムは、先ほどの砂防ダムと大きな役割は一緒ですが、さらに土砂と一緒に流れてくる木をせき止めて、下流への被害を防いでくれるものなんです。実は、砂を止めるために森林を増やしたことにより、ある問題が生じてしまったのです。
 それが「流木による被害」。砂防事業により、山林が緑を取り戻しましたが、外国産の安い木材の輸入増加に伴い、国産の木材は使われなくなってしまいました。成長しきった木が切られないまま放置されると、土石流が起こった際に折れ、流木として流されてしまうんです。
 先ほどの壁のようなダムに土砂と木が流れてくると…木は水に浮いてしまい、ほぼ全てがダムの壁を乗り越えてしまいます。
 ところが、この格子状のダムは、流木をとらえることが出来るそうなんです。
 そこで、格子状のダムの模型を使って実験。土砂と木を一緒に流してみると…土砂も流木も見事キャッチされていきます。それと同時に土砂もせき止められていました。

 水が格子の間を抜けていくことで、木はその流れに乗り、ダムの上を越えるのではなく、格子の間を抜けようとします。その際に、どうしても格子に引っ掛かってしまい、はまって格子にせき止められるのです。
 格子状のダムは、土砂も流木もせき止める優れものだったんです。
 ただし、流木被害の根本的な解決には、林業の再生が不可欠。かがくの里で行っている「里山再生プロジェクト」ような取り組みが重要なのだそうです。

 そして、さらなる砂防の進化を見るために訪れたのは、「柏木砂防堰堤」。1つ目に見たダムと同じように、川の勾配をゆるくすることで下流に流す土砂を調整する目的があります。

 ここに、進化した砂防ダムが守っているものがあると言います。それは、川の中に住んでいる生き物。川で活動するアユやサケなどの魚は、成長や産卵のために、川の上流へ遡上します。しかし、砂防ダムに阻まれて、遡上できなくなってしまう場合があるんです。そこで、魚がうまく行き来できるようにする為に通り道を作る必要がある、と安田先生は言います。
 砂防ダムの新しい進化は、魚などの生き物のためのもの。そこで造られたのが、魚の通り道となる「魚道」。

 ただ石が並べられただけにも見えますが、この石の間を魚が上ってくるんだそうです。
 しかし、本当にこんなところに魚がいるのでしょうか?そこで、実際に魚がいるかどうかカメラを突っ込んで確認してみると…いました!魚が泳いでいます!

 そして、岩影で泳ぐ魚の姿を次々と捉えることができました。
 しかしなぜ、石を置くだけで、魚が上りやすくなるのでしょうか?石組み魚道を再現した模型を使い、魚を放した時の様子を見てみると…魚は石に沿い、水の流れに逆らって進んでいます。実は、石の周りは流れが緩やかになっていて、魚がのぼりやすくなっているんです。

 実際に岩陰を触ってみると、見た目に反して流れは穏やか。石を置くだけの単純な仕組みが、魚の遡上を助けていたんです!
 魚道には他にも、「階段状」や「折り返し型」など様々な種類があり、それぞれの環境に合った、魚が使いやすい魚道を造ることが重要なんです。
 日々進化を続ける砂防。最後に砂防についての関心がほぼなかった学生たちに聞いてみると…“ちょっと”砂防に興味を持ってくれた様子!安田先生は、動物が好きでも水が好きでも、様々な切り口で砂防に興味を持ってもらうことが重要だと仰っていました。砂防には、まだまだ課題があります。例えば、西日本豪雨の際は、土砂災害が従来ではあり得ない範囲で起こってしまったんです。その原因と対策を考える研究に砂防学の先生たちは取り組んでいるそうです。
 日本の未来を担う大事な研究、砂防。目がテン!はこれからも砂防研究を応援します!