第1543回 2020.09.20 |
接着剤 の科学 | 物・その他 |
9月29日は“くっつく”と読んで、接着の日!ということで今回のテーマは、接着剤です!実は接着剤は、飛行機や自動車などに使われ、都市生活を支えてくれているのです。そこで今回は、接着剤が持つ、驚きのポテンシャルに迫ります!意外と知らない接着剤の使い方から、原子レベルで接着剤がくっつく謎の解明まで!
今回の目がテン!は、縁の下の力持ち!接着剤を科学します!
実は大活躍している接着剤
接着剤は、安全に関わるところから身の回りのものまで、あらゆる場所で活躍しています!例えば、飛行機の機体の組み立て。接着剤のおかげで、鉄の鋲でとめたものより空気抵抗が少なく、機体が軽くなるんです。そしてもう一つの特性が、激しい温度変化にも耐えられること。飛行機に使われる接着剤は、-60℃から260℃まで耐えられるんです。
そんな温度変化の強さは、自動車のブレーキにも活かされています。ブレーキは、タイヤの内側に摩擦材が押し付けられ停止する仕組みになっているのですが、この時、ブレーキの摩擦材は高温になり、また、ものすごい衝撃を受けます。その摩擦材の固定に使われているのが、接着剤。
さらに、300年以上前に作られた名器、ストラディヴァリウス。世界に600挺しかなく、お値段なんと、およそ10億円。このストラディヴァリウスが今も現役で活躍できるのも、接着剤のおかげ。
ヴァイオリンには「膠」という、動物の骨や皮などからつくる古代の接着剤が使われているのですが、釘などと違って、何度もはがせてくっつけられるので、壊れるたびに修理することができるのです。
でも、接着剤には、素材によって、つきやすいもの、つきにくいものがあると思いませんか?その理由を教えていただくのは、接着剤の研究を行っている、東京工業大学の佐藤千明先生。
接着剤は、塗る前は全て液体の状態。これには、モノとモノをつける上で重要な理由があると言います。物体の表面に水を垂らすと張りつくようなものは、「“濡れ性”がいい」といい、濡れている物体は、非常によく接着剤でくっつくのだそう。
そこで実験!金属とプラスチックの板を用意。こちらを、金属やプラスチック、陶器まで、様々な素材に使える瞬間接着剤でつけていきます。
まずは金属。しばらく押さえて…つきました!くっついたということは、濡れたということ。
続いてプラスチック。くっついたかなと思いましたが、はがれました。プラスチックにも濡れ性の悪いもの、良いものがあって、濡れ性の悪い材料では、簡単にはくっつかないんです。
今回使用したプラスチックは、容器やバケツなどに使われている“ポリプロピレン”。プラスチックの中でも、特につきにくい素材なのです。
接着剤でつきやすい金属、そしてつきにくいポリプロピレン。その接着面では、どのようなことが起こっているのでしょうか?濡れ性が観察できる機械で見ていきます。
それぞれの素材の上に水を落とし、そのなじみ具合を測定します。素材と水の接触している角度が小さいほど、よく濡れているということ。
まずはポリプロピレン。板の上に落とすと、水は丸みを保っています。水と板の接触角は100度。一方、金属は、ポリプロピレンよりも広がり、接触角は65度。ポリプロピレンより、金属の方が素材になじんでいることがわかります。
この上に、もう一枚板を重ねて接着すると、ポリプロピレンの場合、はじいてくっつきません。一方、金属は水が広がり、ピタッとくっつきます!つまり、 接着したいもの同士の間を、液体で濡らすことで接着することができるのです!
濡れ性とは、水が染み込むということではなく、表面に馴染むということ。
接着剤をつける上で、もう一つのポイントが「固める」こと。接着剤でつけるだけでは、モノは動いてしまいます。接着剤は、接着したいモノ同士の間を液体で濡らし、さらにしっかり固めることで、くっつけることができるのです!
「アンカー効果」とは?
肉眼では、金属の表面はツルツルに見えますが、超高倍率の電子顕微鏡で見ると、表面にとても小さな穴が空いているのがわかります。この穴に接着剤が入り込み固まることで、接着力がさらに高まるのです。これを「アンカー効果」といいます。
この金属の表面にある、とても小さな穴で、アンカー効果が起こっていることを、5年ほど前に世界で初めて発見したのが、産業技術総合研究所の堀内伸さんという方。この電子顕微鏡のように、原子レベルで接着している様子が観察できるようになったことで、発見に至ったそうです。
接着剤の正しい選び方
正しい接着剤の選び方を教えてくれるのは、神戸芸術工科大学教員の野口僚先生。普段は大学でモノづくりを教えている傍ら、およそ100本の接着剤を使い分けながら、家の床から、生活雑貨まであらゆるものをくっつけてしまう、筋金入りの接着剤マニア。
家庭の中によくある、壊れたものを用意しました。野口先生が普段使っている接着剤コレクションを使って、素材に合わせた接着剤を教えてもらいます。
まずは“底が剥がれた革靴”。野口先生が選んだ接着剤は、「セメダインスーパーXゴールド」という接着剤。
ほかのものとの違いは、その成分。シリコーンという素材が、靴に起こる振動などのショックや、水にも強い素材になっているのです。
接着剤を選ぶときに重要なのが、接着後の使用する環境を想像すること!屋内や屋外など、接着後に使用する場所や用途によって、その環境が得意な接着剤を選びます。
接着剤は、接着するモノとモノの間を濡らすことでくっつくため、両面に塗ることで濡れる面積が増え、接着力がアップします。そして塗り終えても、すぐに貼り合わせてはだめ!ここから、しばらく放置。
この接着剤は、空気中や、接着面のわずかな水分に反応することで固まります。接着面全体に水分がいき届くよう、1分ほど空気に触れさせてから貼り合わせます。
あとは固まるのを待つだけですが、ここで注意!
実は接着剤には、2つの硬化時間があります。1つ目は、手で押してみて“動かなくなるまでの時間”。大抵、パッケージに書かれているのがこの時間で、まだ完全には固まっていません。
2つ目は、“強度が出るまでの時間”。使って問題がない強度まで固まった状態です。実はこの時間は、瞬間接着剤も含めて、どの接着剤も共通して、なんと24時間ほどかかるのです。
野口先生が前日に接着しておいてくれた革靴で、つき具合を確かめます。曲げたり、衝撃を加えたりしても、しっかりくっついていました!
続いては、折れた金属のファスナー。野口先生のオススメは、金属と相性抜群の瞬間接着剤。
瞬間接着剤といえば、家庭でよく使う接着剤の一つですが、実は失敗が多い接着剤でもあるのです。その理由は、“出す量”。出しすぎると固まるのが遅くなり、うまく接着できないのです。その最適な量は、10円玉の面積に対して、なんとわずか1滴!
でも、野口先生が選んだ接着剤は、銀色のサイドボタンで接着剤の出す量を簡単に調節できる仕組みが!接着するモノの大きさに合わせて、適量を塗ることが可能なのです。
そして、先程の靴とゴム底をつけた接着剤とは違い、瞬間接着剤は、すぐに固まるので、時間をおかずに固定。この時、つけるモノ同士の面で塗り広げます。
24時間たったら、接着完了!小さい面でも、しっかりくっつきました!
最後は、割れた花瓶。
野口先生のオススメは、陶器のような硬い素材と相性抜群で、さらに水にも強い接着剤!
2つの液を混ぜ合わせることで化学反応を起こし、硬く固まるもの。“エポキシ系接着剤”と呼ばれています。
混ぜ終えたら、欠けた陶器に接着剤を塗っていき、つけ終わりました!
24時間後、水を入れてみると…もれていません!こちらも、しっかりくっついていました!
木工用接着剤の正しい使い方
通常は、ネジや釘を使って作られるイスを、接着剤だけで作ってみました!イスの寸法にカットした木材を、木工用接着剤でつけていきます。
木工用接着剤の使い方① 接着面にヤスリをかける!
ヤスリは様々な種類があり、番号が大きくなるほど、研磨剤の目が細かくなります。今回は目が粗い120番を使用。
ヤスリをかけるのには、2つの理由があります。
まずは、表面の汚れを落とす作用。接着面をキレイにすることで、接着剤がなじみやすくなります。
そして、接着面積を増やす作用。実は、木は穴が空いていて、接着剤が入り込み、アンカー効果が起こることでくっついています。さらに、接着剤を塗る前にヤスリをかけることで、細かなキズが入り、穴が増加。接着剤が浸透する穴が増えることで、より強力に接着できるようになるのです。
いよいよ接着剤の出番!接着剤を均一に塗り、乾く前に、すぐに貼り付けていきます。木工用接着剤の主な成分は、“酢酸ビニル樹脂”と水。水分が蒸発し、乾燥することで固まります。ここに強度を出すためのポイントが!
木工用接着剤の使い方② 圧着した状態で乾燥させる!
「圧着」とは、強い圧力をかけて接着すること。今回は、挟んで固定できるクランプを使用し、接着面同士を強く押し付けていきます。家庭で、木工用接着剤を使った時に圧着する方法は、紐で強く結んで固定したり、重りをのせたりすると良いそうです。
圧着する理由とは?
実は木工用接着剤は、半分以上が水分。そのため、乾燥すると、小さなすき間ができる“肉やせ”という状態になります。それを補うのが圧着作業。素材同士を強く押し付けることで、水の蒸発後も、すき間がなくなり、接着面同士をしっかりつけることができるのです。他の部分も同じように接着剤を塗り、組み立てていきます。
では、ヤスリがけと圧着をするのとしないのでは、どれくらい違いがあるのでしょう?再び、東京工業大学の佐藤先生にご協力いただき、実験です!
接着面を、1辺およそ2.5cmにカットした木材を用意。
1組は、先程のイスと同じように、ヤスリがけをしてから木工用接着剤を塗り、つけた後、圧着します。もう1組は、何もせず、接着剤を塗ってつけただけ。
それぞれ丸1日乾かし、荷重がかかる機械を使って、接着剤の強度を測定します。徐々に荷重がかかり、1000N!重さに換算すると100kgfの力に耐えているということ。その後も記録を順調に伸ばし、500kgf!
そして800kgfに達した所で、接着剤のみの木材がはがれました。記録は、およそ800kgfの力に耐えられるという結果に。
ヤスリがけし、圧着したものは、およそ1220kgfの大記録!ヤスリをかけ、圧着することで、およそ35%強度がUPしたのです!