放送内容

第1544回
2020.09.27
人類はこう作った!古代石けん の科学 物・その他

 科学技術が発達し、便利な生活を送っている現代。しかし、そんな生活ができるのは、先人たちが様々な発見を積み重ねたからこそ!そこで目がテン!は、発明の原点に立ち返ることに!題して、「人類はこう作った」!
 最初に目がテン!が目をつけたのは、ここ最近、手洗いの強い味方として注目されている、石けん!先人の知恵には、驚きの科学がつまっていたのです。古代の石けんは、一体どのように作られていたのか?資料と専門家を頼りに再現にチャレンジ!
 今回の目がテン!は、人類はこう作った!「古代石けんの科学」です!

材料探しと炭作り

 石けんはいつ頃誕生したのか?番組で調べたところ、石けんの記録として、古いものでは5000年前のメソポタミアの粘土板に書かれているようです。では、書物として古いものは何か?石けんの専門家・横浜国立大学の大矢勝先生にお話を聞いてみると、紀元1世紀のローマで書かれたプリニウスの博物誌だそう。その中に、石けんについての記述があり、ヤギの脂を植物の灰で反応させて作るというような内容です。
 そこで、目がテンは、古代ローマで書かれた博物誌にならい、当時の石けんを再現することにしました。しかし、かなり大量の植物を焼いた灰が必要なので、都心部でやるのは難しいといいます。そこで、番組が誇る自然ゆたかな実験場!「かがくの里」にやってきました。古代ローマの石けんの再現に挑むのは、石田剛太さん。酒井さんが所属する劇団、ヨーロッパ企画の先輩です。

 博物誌が書かれたのは、古代ローマ帝国が地中海沿岸を中心に栄華を極めた時代。今回は、できるだけ当時の様式にのっとって石けんを作ってみます。しかし、博物誌に材料は書かれていますが、その配分までは書かれていません。そこで、大矢先生が現代の科学知識を用いて、古代石けんのレシピを作成!

目がテン流・古代石けん指示書 ブナ科の木を燃やした灰2.5kgを用意せよ
 というわけで、まずは材料探しから。林業家の西野さんの案内のもと、里の周りのブナ科の植物を探しに行くことに。かがくの里周辺には、ブナ科の植物、シラカシが何本も生えているのです。

 集め続けること1時間。ある程度、木を集めたところで里に持ち帰ります。里に戻って薪を下ろし、再び山に入っては薪をおろしの繰り返し。山と里を3往復。そうして推定30kgの薪を集めました。

目がテン流・古代石けん指示書 石と泥で「かまど」を製作せよ
 山で拾った石で大まかな形を作ったら、田んぼからとった粘土をセメントのように使い、石の隙間を埋めていきます。石を積み、粘土を貼り付け、作業すること1時間!ようやく火をつけて、灰作り開始!
 ひたすらまきを割り、火をたきます。どんどん燃やして灰を作りたいところですが、なかなか燃え尽きません。実は、材料にしているシラカシは、ゆっくりながながと燃えることから、薪ストーブの燃料として人気の木。その理由は、木の密度。広葉樹の中でもトップクラスの比重を誇り、薪に向いていないとされる杉やヒノキと比べると、同じ量で2倍も重いのです。その分、灰は沢山とれるのですが、半日過ぎても、集めた薪をすべて燃やし切ることはできず…。
 燃やした燃えかすをふるいにかけて、できた灰の重さを量って途中経過をみてみます。なんと、1日目の成果は、たったの150g!目標の2.5kgまでは、まだまだです。

 手に入れるのに苦戦している木の灰。しかし、なぜ石けん作りに灰が必要なのでしょう?植物は、水分と炭素・窒素、そして少量の金属類からできています。木を燃やすと、水分や炭素・窒素はなくなり、金属類だけが残ります。これが灰。つまり金属類が石けんの材料になるのです。灰が少ないと、出来上がる石けんの量も少なくなります。

 2日目の灰作り開始。炎天下で薪を割り、火を燃やし、灰を作ります。薪が減れば山で薪集め、戻ってきたら、すかさず薪を割り、かまどにくべます。果たして、十分な材料は集まったのでしょうか?
 3日目の朝。かまどの様子を見てみると、そこには、かまどいっぱいの灰が!

 その分量は、1113g。かがくの里の周りのシラカシをすべてかき集めても、得られた灰は、指示書に書かれた量の半分以下。目標にはとどきませんでしたが、実験ができる量なので、次の工程へ進みます。

「灰汁」をとる

目がテン流・古代石けん指示書 灰を水で煮込んで灰汁をとれ
 「灰汁」といって思いつくのは、鍋物の時などに出るものですが、実は灰汁には2種類の意味があるそうです。大矢先生によると、今回の灰汁が意味するのは植物の灰を水につけて、上澄み液をとったアルカリ性の液のこと。出来上がった灰に水をいれ、かまどで煮たたせます。灰を煮ることで、灰の中の金属類が素早く水に移っていきます。出来上がった液体を30分ほど置いておくと、透明な上澄みが出てきました。この液体部分が、灰汁です。

 できあがった灰汁は布でこしとって、できるだけ不純物を取り除きました。
 アルカリに並んで必要なモノが、堅脂。「堅脂」とは、固形の動物の脂のこと。実は西野さんから、里の近くでとれたイノシシの脂を分けてもらっていました。灰が2.5kg手に入った場合は、500gの堅脂が必要でしたが、実際にとれた灰の分量に合わせて使用する堅脂の量を調整しました。これを鉄鍋で熱して溶かし、カスをこしとります。

目がテン流・古代石けん指示書 煮立った灰汁に脂を入れろ
 灰汁の温度が上がったところに、イノシシの脂を注ぎ入れます。熱したアルカリに脂を入れる、この工程で、石けん作りに一番大切な反応が起こるのです。それが「けん化反応」。油脂とアルカリが反応して、石けんとグリセリンを生成するという反応です。
 油脂は、1つのグリセリンと3つの脂肪酸からできています。アルカリは油脂を分解し、その結果、グリセリンと脂肪酸塩ができます。これを「けん化」といいます。この脂肪酸塩が、まさに石けんなのです。
 その証拠に、出来上がったものは石けんの香りが。これは脂肪酸塩の匂い。けん化が進んで、脂が脂肪酸塩にちゃんと変化したと考えられます。さらに、泡立ちも!このまま煮て反応を進めれば、我々の知る石けんの様になるのかと思いきや、固まらずシャバシャバ。これ以上煮立たせても、どんどん蒸発していきます。そこで、この時点で加熱をやめ、本当に石けんの能力を持っているのか試してみることに。

 しかし、そもそもなにをもって「石けんの完成」といえばよいのでしょうか?
 大矢先生によると、モノをきれいにするときに活躍するのが水。実は水はモノについた汚れをきれいにする力が非常に強いのです。しかし、水が苦手とするタイプの汚れがあり、それが「油汚れ」。水が弱いタイプの汚れを取り除きやすくするものが、界面活性剤。その代表的なものが石けんだといいます。
 そこで実験!主成分が油性原料である口紅を手につけ、水だけで洗ってみます。油となじまない水で洗うと、口紅汚れは広がるだけでした。

 続いて、逆の手に同じ口紅をつけてから、古代ローマの方法で作った石けんで洗ってみます。すると、明らかに口紅がとれています!さらに水ですすいでみるとみるみるとれていきます。これは石けんになっている証拠!

 石けんで、油汚れ、つまり脂質の汚れが落ちる理由は、先ほど油脂がけん化してできた脂肪酸塩にあります。この脂肪酸塩、水になじみやすい性質と脂質になじみやすい性質、2つの特徴を合わせ持っています。
 脂質の汚れは水に溶けないため、水の中でもそのままですが、そこへ石けんがやってくると、脂質になじみやすい部分が汚れの周りを囲みます。さらに、水になじみやすい部分が脂質汚れをひきはがします。こうして、脂質の汚れを洗い落とせるのです。

なぜ液体?なぜ泡立たない?

 大矢先生によると、植物の灰と動物脂で作る石けんは、液体石けんにしかならないのだそう。固形にするためには、さらに漆喰などに使われる消石灰や塩を加えていく必要があるそう。泡立たないのは、自然にあるものから材料をとっているので、石けん作りに不利になる成分も入っているのが原因ではないか、とのこと。同じく古代ローマの石けんも、あまり泡立たなかった可能性が高いそうです。