放送内容

第1566回
2021.03.14
穴 の科学 物・その他 水中の動物

 世の中には様々な穴があいています。
 例えば、冬の空にぽっかりとあいた穴あき雲。
 これは、雲の中にある過冷却状態の水分が、刺激によって雪になって落ちたり、蒸発することでできる冬特有の現象。他にも南京錠の鍵穴の隣にあいた小さな穴。鍵の中に残った水分を抜くという重要な役割がありました。さらに、子どもが誤ってキャップを飲み込んでしまった時、息ができるようにするためペンのキャップにも穴があいていました。
 知らなくても何も問題はないけれど、知ったらちょっと楽しくなる!
 今回は、知れば知るほど奥深い「穴」の科学です!

身近な穴の謎・急須の穴の謎

 急須の蓋には穴が空いています。いったい、何のための穴なのか?お茶のスペシャリスト、伊藤園ティーテイスターの阿井さんにお話を聞きました。
 阿井さんによると、1つはお茶を注ぎやすくする働き。
 実際に、穴をふさいだ状態でお茶を注ぐと、中の気圧が下がり、外の気圧の方が高くなるため、お茶が空気に押さえられ、急須から出にくくなります。でも穴が空いていれば、お茶を注いだ時、穴から空気が入ってきて外と同じ圧力になるため、スムーズに出るんです。

 さらに、穴の位置を変えるだけで、出てくるお茶の成分が増えるといいます。空気を取り込む穴を注ぎ口側にすると、お茶のうまみ成分であるアミノ酸や渋み成分カテキンといった物質が、穴を注ぎ口の反対側に持ってきたときより多く抽出されることがお茶メーカーの研究所で成分分析したところ、わかったんです。

 でも、穴の位置だけでなぜこんな差が出たのか?
 透明な急須で、茶葉の様子を見てみます。まずは穴が注ぎ口の近くにある場合。注ぐときに、茶葉が広がりかき回されています。これは、注ぐときに、穴から空気が入って、急須の中をかき混ぜるから。その結果、茶葉が広がりやすく、成分がより抽出されるのです。一方、空気の取り入れ口が注ぎ口の反対にあると、中は全くかき混ぜられません。急須の穴は、味を濃くしてくれる穴だったんです。

身近な穴の謎・電子レンジの穴の謎

 実は電子レンジには、パンチングメタルという穴の空いた金属の板が必ず取り付けられているんです。
 電子レンジは、マイクロ波という電波で食品を温めています。マイクロ波が電子レンジの外に出ないよう、マイクロ波が通り抜けることができない金属の板で全体を覆う必要があるんですが、それだと中が見えなくなってしまいます。
 そこで、正面の金属板には中を見るための穴が開いたパンチングメタルを使っています。

 でも、この穴からマイクロ波が出てこないんでしょうか?
 そこで実験です。使うのは、電子レンジと同じマイクロ波発生装置。機械の右側から左に向かってマイクロ波が照射され、モノを温めます。
 そこで、所さんのチョコレート人形をこの実験装置の中に設置。パンチングメタルをマイクロ波の通り道に挟んだ場合と何もない場合とで、比較してみます。
 同じマイクロ波を当てること10分。何もない方はドロドロに溶けましたが、パンチングメタルがある方は、変化はありませんでした。

 並べてみると一目瞭然です。
 どうして、この穴あき板でマイクロ波を止められたんでしょうか?
 マイクロ波は光と同じ波。波の性質として、波の長さの半分の長さ、4分の1の長さ以下の穴は通りづらいという性質があります。電子レンジで使われているマイクロ波は、この波の長さが12cm程度。

 そのため、6cm以下の穴は波が引っかかってしまい、通りづらいという現象が起こるんです。
 つまり、パンチングメタルの小さな穴なら、マイクロ波をシャットアウトでき、中もちゃんと見ることができます。電子レンジの穴には、奥深い秘密があったんです。

自然界にも不思議な穴

 自然界の不思議な穴を探すため、やってきたのは千葉県船橋。東京湾最大の干潟、船橋三番瀬。科学コミュニケーターの、小澤さんに案内してもらいます。
 早速干潟に出てみると、すぐに穴が見つかりました。
 この穴、いったい何の穴なのか?「ヤビーポンプ」という道具を使って調査です。

 ポンプを干潟の穴につき刺して、砂と水ごと中を吸い出すと、現れたのはアナジャコ!

 シャコパンチのシャコとは別の種類ですが、見た目が似ていたからシャコになった生き物です。
 さらに、寒い時期の一番多いという生き物の穴を発見。こちらもヤビーポンプを使って調査。出てきたのは、ニホンスナモグリという生き物。

 体長の半分ぐらいを占める大きなハサミを持っているのが特徴です。このスナモグリ、名前の通り、穴をあけて潜る能力が凄いんです。干潟に戻すと、すぐに穴を掘っています。
 どんな穴を掘っているのか?研究者が行っている方法で明らかにしてみましょう!
 それは水で溶いた石膏を穴に流し込み型取りする方法。石膏の成分は、主にカルシウムで貝殻と近く、海を汚す心配はありません。
 石膏が固まるまで待つこと一時間。慎重に掘り出します。
 巣穴のかたちに固まった石膏が見えてきました。想定以上に巣が大きかったため、分割して取り出し、それを繋ぎあわせます!
 すると、長さ50cm以上!クネクネと折れ曲がり、いくつもの部屋に分かれた巣穴なのが分かります。

 細くなっている部分もありますが、スナモグリは甲殻類なのに殻が柔らかく、体の幅があれば穴の中でUターンできるそう。砂の穴の奥には、驚きの世界が広がっていました。

 さらに干潟で生き物観察をしていると、小さな穴が開いた二枚貝の殻。皆さんも、潮干狩りで見たことありませんか?

 実は、これも生き物が空けた穴。どんな生き物があの穴をあけたのか?その生き物が現れるという夜まで待機です。
 謎の生き物を求め、夜中の干潟を探すこと1時間。ようやく見つかりました!
 貝に穴をあけた生き物はサキグロタマツメタというツメタガイの仲間。

 アサリなどの二枚貝に穴をあけ、食べる貝というなんですが、どうやって硬い貝殻に穴を開けるんでしょうか?
 まず体の外に広がったビラビラでアサリを包み込み、象の鼻のような器官を体からビヨーンと出します。この器官で穴を空けるんです。
 先端部分から酸性の物質を出して貝殻を柔らかくし、そこから、歯の舌と書いて歯舌と呼ばれるヤスリ状の器官で貝殻を削り穴を空けます。
 穴が空いたら消化液を流し込み、アサリの肉をチューチューするというわけです。

 自然界の穴も、掘り下げてみると奥深い秘密が隠されていました。