放送内容

第1574回
2021.05.09
花のある暮らし の科学 植物

 何かとストレスがたまる毎日が続いていますが、ささくれた心に潤いを与えてくれるのが、色とりどりの「花」。実は、花には科学的にも癒しの効果が。最近の研究で、ストレスを与えた被験者に様々な画像を見せたところ、花の画像で、最も血圧が低下し、ストレスが軽減することが分かったんです。「特別な日に贈る」イメージが強いお花ですが、家での時間が増えている今だからこそ、家の中や日々の暮らしに花を取り入れることがストレスを軽くすると注目を集めています。そこで、意外と知らない花の秘密を徹底調査!
 今回の目がテン!は、飾るとストレスが軽くなる!「花のある暮らし」を科学します!

花の品質の保ち方

 私たちが生花店で目にする、きれいなお花たち。実は店先に並ぶのに、数日間かかっているんです。その数日は、花を長持ちさせるのに重要なんだそう。謎の数日間の秘密を知るため、訪ねたのは、千葉県南房総市にある花農家の青木さん。
 咲き誇っていたのは、春に人気の花、ラナンキュラス。

 朝の9時半、ちょうど収穫が行われていました。切った花はすぐに出荷するのかと思いきや、なんと出荷は翌日!実は出荷前に、茎の切り口の細菌増殖を抑えるための「前処理剤」と呼ばれる塩素入りの水を、冷蔵庫で一晩たっぷり吸わせていたんです。

 この重要性について、花の老化について研究している日本大学の東先生に聞いてみました。
 そもそも、切り花の萎れや老化の原因ですが…、1つ目が、植物の老化を促進する植物ホルモンの一つ、エチレン。花の萎れや落弁といった現象を引き起こします。リンゴなどの果物からよく出ることで知られるエチレンですが、花からも出ていて、老化を促進するんです。花によっては、このエチレンの老化作用を阻害する前処理剤を使う花もあるんです。
 そしてもう一つが、水揚げの悪化。水揚げとは、切り花の水分状態を良くすること。花にとって命ともいえる水が不足すると、首が垂れたり萎れたりしてしまいます。水揚げが悪くなる主な原因は、「細菌による導管の詰まり」。水の通り道である「導管」が、細菌が増えて詰まってしまうと、水が吸い上げられなくなるんです。

 青木さんの農園では、塩素入りの水で細菌の増殖を抑えながら、1日かけて水をたっぷり吸わせていました。
 輸送時や市場では、花はダンボールに箱詰めされることも多く、新たに水を吸うことはできません。だからこそ、出荷前に花にたっぷり水を吸わせておく必要があるんです。
 野菜や魚は「とれたて」、収穫後すぐに出荷するのがいいとされていますが 切り花は出荷までの早さよりも、花に合わせた方法でしっかり水を吸わせることが大事だったんです。

 そして市場でも、出荷された花の日持ちをよくする工夫があるそう。大田市場で働く糸澤さんに聞きました。
 実は、花の日持ちを良くするポイントとして、「温度」も重要。先ほどの農園でも、冷蔵庫の中で吸水させていましたが、温度が高いと、花は呼吸量が増えてエネルギーを使ってしまい、水分も蒸発し、萎れてしまいます。大田市場には、花の温度を下げ、呼吸量を減らすためのあるものがあるんです。それが、花を冷やすための「差圧予冷庫」。

 ただの冷蔵庫ではありません。
 温度は2度に設定されており、送風機で空気を循環させます。元々は花を冷やすのに10時間以上かかっていましたが、差圧予冷庫を使うことで、たったの30分で冷やせるようになったんです。
 その方法は、まず花が入っている箱の両側に穴を開け、差圧予冷庫の中の、空洞部分をその箱で覆います。送風機は、内側から空気を吸い込み外に出しています。すると箱で入り口を覆った空洞の部分の気圧が低くなるので、その圧力差で、箱の中で冷気が強制的に循環し、短時間で花を冷やすことができるんです。私たちの街に届くまでには、花を美しく保つ様々な工夫が詰まっていました。

おうちで花を長持ちさせる方法

 2つの花瓶に入った、バラの切り花。花瓶に入っているのは、一方がただの水、もう一方が花を長持ちさせる「あるもの」を混ぜた水です。水以外は同じ条件で、バラを放置すると、ただの水に入れたバラは、みるみるうちに萎れていき、たった3日でしぼんでしまったのに対し、「あるもの」を混ぜた水の方は、6日、7日としおれずに咲き続けたんです!この魔法の水の正体とは?

 教えてくれたのは、フラワーアレンジメント講師の松葉さん。さっそく、比較的知られている花を長持ちさせる方法から教えてもらいます。
 まずは切り戻しという作業を行います。「切り戻し」とは、茎の下の方を斜めに2、3センチ切ること。これで断面が新しくなり、水を吸い上げやすくなります。

 また、花瓶の水に葉っぱが浸かると、細菌が繁殖して水揚げが悪くなることがあるため、下の方の葉っぱは取っておくこともポイントです。
 では、ここで花を長持ちさせる「魔法の水」について種明かし!
 先ほどの実験でバラを長持ちさせた水に混ぜてあった「あるもの」とは、どこの家庭にもある、砂糖と塩素系漂白剤!水1リットルに対し、砂糖を小さじ2杯、漂白剤を小さじ5分の1入れるだけで、花が長持ちする「魔法の水」になるんです。
 漂白剤は、花を枯らす原因となる細菌の繁殖を抑えるためのもの。砂糖は、エネルギー源になるんです。
 植物は光合成によって糖を作りエネルギー源にしています。しかし、冷暗所で保管されることの多い切り花は、光合成ができず糖をほとんど作れません。一方で呼吸はしているので、糖がどんどん使われ、エネルギーが不足、放っておけば枯れてしまいます。そこで、砂糖を入れた水を吸わせることで、切り花に必要な糖質が補給され、花が長持ちすることになるんです。

 さらに、しおれ始めた花を復活させる方法も。その方法は、「深水」。やり方は簡単。新聞紙などで花を頭ごと、くるくると巻きます。吸収した水分が葉から蒸発しないようにするためです。次に茎の根本を切り、断面を新しくします。最後に、水をたっぷり入れた容器に花をまっすぐ立てます。花びらの部分が濡れない程度の水に深くつけ、数時間から一晩置くんです。実際に、しおれてふにゃふにゃになった花に深水をしてみたところ、7時間後にはしゃきっと元気になったんです!
 東先生によると、花の茎を水に深く沈ませることで、水圧がかかり、吸水しやすくなるそうです。花を美しく保つ方法、おうちでも、ぜひお試しください。

プロに学ぶ花の生け方

 花を生けるときのポイントを教えてもらいました。
 まずは花の色味を合わせる。例えば、ピンクと決めたらピンクの濃淡で色を整理することがいいそう。
 色を決めたら、次に重要なのが、主役のお花を決めること。主役となる花は、大きさや形に存在感のあるものをチョイス。さらに、そこに小花を入れることで、主役の花が一層引き立つ効果が。そして、花だけでなく葉ものを入れると、全体がまとまるそうです。
 問題は生け方ですが、高さも向きもバラバラな、自然の中の花をイメージするといいそうです。特に気をつけるポイントは、立体的に生けること。

 立体感の大切さについて、デザイン心理学を研究する千葉大学・日比野教授に聞くと、人間は単調なものを嫌う傾向があるので、高さや向きがバラバラなことが、見る人の視線を動かし、面白みを感じさせるといいます。
 では、いよいよ生けていきます。
 最初に生けるのは葉もの。先に入れて土台を作ることで、花が固定しやすくなります。葉っぱが花瓶からちょうど出るくらいの長さに切り、茎がクロスするように生けるのがコツ。
 次に生けるのは主役のバラ。一番目立たせたいバラを下に置き、残りの二つを高低差をつけた逆三角形になるように生けることで立体感を出すのがポイント。最後に主役を引き立てる小花。アクセントとして選んだ濃い色の小花は、一番目立たせたい主役の近くに置きます。細長い花は、あえて飛び出すように生けると動きが出て面白みが増すそうです。
 ポイントを押さえることで花を美しく生けることができるんです。