放送内容

第1575回
2021.05.16
瞬間ハンター・能登半島 の科学[前編] 場所・建物 水中の動物 植物

 様々な条件が重なった時にのみ起こる美しい自然現象や、人が作り出す珍しい現象。そんなレアな現象の瞬間を撮影する“瞬間ハンター”。今回、訪れた場所は、美しい自然と実り豊かな、里山。そして、多種多様な生態系を育む、里海。 この二つをもつ能登半島。2011年に、能登の里山里海が、日本で初めて世界農業遺産に認定され、世界的に重要な場所として、注目されているんです!
 目がテンでは、「かがくの里」において里山を再生させることで、生物多様性を取り戻していく様子を放送していますが、能登には、里山だけでなく豊かな生態系を誇る「里海」もあるんです!
 そこで今回、金丸慎太郎さんが、能登の里海で瞬間ハント!
 今回の目がテンは、能登半島の里山、里海の魅力がいっぱい!瞬間ハンター、能登半島、前編です!

能登の里海で瞬間ハント!

 金丸さんが訪れたのは、能登島。日本海側では最大級の内湾である七尾湾があり、周囲を陸地で囲まれているため、波が少なく穏やかな海なんです。

 そして、農業と漁業の両方を営む半農半漁の暮らしをしている方が多く自然と人が共生している場所なんです。
 そんな能登の里海、一体どんな生き物がいるのでしょうか。
 能登の海を潜って18年、ダイバーの鎌村実さんによると、なんと、今の時期にしか見られない貴重な瞬間もあるというんです!気合い十分の金丸さん。早速、ドライスーツに着替え、能登の海へと向かいます。果たして、どんな海の生き物が見られるのでしょうか!
 早速見つけたのは、チャガラというハゼの仲間。温帯性の魚で、鮮やかな色をしているのが特徴です。

 続いて発見したのは、巨大なアメフラシ。殻は退化していますが、ウミウシと同じ貝の仲間です。次に見つけたのは、フグ。パクパクと海藻を食べています。そして、不思議の形の生き物を発見!手に取ったのは、カシパンと言われるウニの仲間。

 さらに、縞模様のキヌバリという、ハゼの仲間。このキヌバリ少し変わっていて、日本の沿岸に生息しているのですが、太平洋にいるものと日本海にいるもので胴体の縞模様の数が違うんです。太平洋型は6本、日本海型は7本。生息域によって、模様の数が違うんです。
 さらに、今しか見られない瞬間にも出会えました!そう、キヌバリの子供の群れ。大人になると単独で生活するため群れを作るのは、春にしか見られない貴重な瞬間なんです!

 そして再び、今の時期にしか見られないものを発見!ふわふわとしてボールのようなもの、実は、釣り餌になどに使われるゴカイ類の卵の袋。袋の中に複数の卵が入っているのです。

 そして金丸さん、今回もっとも貴重な瞬間に遭遇しました!
 それが、ナマコの排泄の様子。

 しかし、ただの排泄物ではないんです!ナマコは砂に堆積しているデトリタスと言われる魚の排泄物やプランクトンの死骸などの有機物を食べています。有機物を含んだ砂ごと食べ、栄養として吸収し砂だけを排泄。排泄する砂が食べる前よりキレイになるため、「海の掃除屋」とも言われています。
 この生物による堆積物の浄化・除去は、「バイオターベーション」と呼ばれ、生態系に非常に大きな影響を与えている現象なんです。七尾湾には多くのナマコが生息しており、金丸さんは、能登の海が、キレイになる瞬間をハントした、ということになります!
 その後も、様々な生き物を見つけ里海の豊かな生態系を実感することができました。

生態系豊かな能登の里海

 多くの魚が生息している能登の海。その秘密を調べるため、さらにダイビングを行います。すると目の前に現れたのは、草原。これはアマモと呼ばれる海の草と書く海草。

 この能登半島は、全国トップクラスのアマモの群生地なんです。そして、この時期にしか見られないアマモの貴重な瞬間があるんです!それは、アマモの花。

 実は、アマモは、ワカメなど胞子で繁殖する海藻とは違い、花を咲かせて種子を作り繁殖する、海の草と書いて海草なんです。また、アマモは、根、茎、葉と分かれており 海底に根や茎を張り、根から養分を吸収、そして、葉で光合成を行います。しかし、ワカメなどの海藻は、根のように見えるのは付着器。岩や砂地に固定するためのもので、体全体で栄養を吸収して光合成を行っているんです。
 太陽の光があたる午後には、アマモが光合成をしている瞬間も。ぶくぶく出ている泡は酸素。海水中の二酸化炭素を吸収し、酸素を放出しているんです。植物の力を目の当たりにする貴重な瞬間です!

 そしてこの海の草であるアマモが、能登の海に多種多様な生き物が生息している理由の一つなんです!アマモは葉の表面から赤潮などの原因になる海水中のリンや窒素を吸収し、海の水質を浄化さる働きを持っており、さらに、根や茎を海底に張ることで、砂の流出を防ぎます。また、光合成で酸素を供給することで、魚たちの暮らしを支えているんです。
 さらに、海の生き物にとって大切なのはそれだけではないんです!魚たちの隠れ家になったり、産卵場所になったりとアマモの群生地は、様々な生き物の生活の場となり、重要な役割を担っているんです。
 そして能登には、アマモだけではなく、藻類のホンダワラが群生している海藻の森もあります。

 このホンダワラも、生き物たちの隠れ家になっているのです。
 能登の海は、このような環境が維持されているからこそ、豊かな里海と呼べるのです。

人と自然が共生!里海を守る漁

 この日、金丸さんは、七尾湾で行われている漁に同行することに。お世話になるのは、漁師の谷口さん。早速、漁場へと向かいます。ここで行われている漁は、定置網漁。定置網漁とは、魚の回遊する沿岸に、網を設置し、その網に入ってきた魚をとる漁法のこと。魚をとりすぎない、そして、網の目より小さい魚をとらないなど他の漁と比べ、海に与える影響が少ない漁法なんです。 そのため、エコな漁法とも言われています。
 網の中を見るとたくさんの魚が!そのほとんどがマイワシです。しかし、中にはスルメイカの姿も!さらに、大きなタイも!重さおよそ6kgのタイです!
 そして、いよいよ魚をあげていきます。使う道具は、タモという大きな網。それを豪快に魚の中へ。船底にある貯蔵庫がいっぱいになるまで魚を入れていきます。

 定置網漁は、他の漁と違い、「待ちの漁」と言われ過剰漁獲になりにくい、持続可能な漁業として注目されているんです。
 港についたら、次は仕分け作業。イワシを大きさごとに選抜してきます。そして、市場へと出荷されるのです。七尾湾では、暖流と寒流の潮境に位置するため四季を通じて様々な魚が水揚げされます。
 すると、民宿も経営している谷口さんがとれたての魚を料理にして振舞ってくれることに!谷口さんの仕事が終わるのを待ち、再び訪ねました。用意してくれたのは、なんとお造り。金丸さんのために選んでくれたタイに加え、イワシ、イカ、ふぐまで。ついさっきとれたばかりの新鮮で豪華な料理をご馳走になりました。