放送内容

第1591回
2021.09.12
輪島塗 の科学 物・その他

 日本にいる様々な技をもった職人たち。そんなプロフェッショナルの知恵や技術を、科学の目線でアプローチ!弟子入りして、その技を学んでいく新企画!
 今回、弟子入りする職人の仕事は、500年以上前から続く「輪島塗」。輪島塗と言えば、丈夫で美しく、日本国内だけでなく、いまや世界を魅了する伝統工芸品です。 そんな輪島塗の職人の知恵と技に、コネオ・インターナショナルさんが弟子入り!輪島塗の丈夫で美しい理由を身をもって体験します!
 今回の目がテンは、職人に弟子入り!輪島塗の科学です!

二戸市浄法寺で漆掻き技術を学ぶ!

 漆器作りには、欠かせない漆。実は、国内で使用される漆のほとんどが外国産。国産の漆は全体の5%ほどで、そのほとんどが岩手県二戸市浄法寺のものなんです。そして、二戸市で行われる漆を採取する「漆掻き技術」は、ユネスコ無形文化遺産に登録されているのです!

 ということで、二戸市浄法寺で貴重な漆掻き技術を学びます。お会いしたのは、漆掻き職人に弟子入りしている秋本さんと金山さん。現在、漆掻きの最盛期で、職人たちが忙しいため、職人のお弟子さんに弟子入りします!
 漆掻きが行われる時期は、6月中頃から10月まで。しかも、晴れの日しか行えないのです。コネオさんが訪れたこの日は、あいにくの雨。雨の日には、漆掻きの作業は行わないそうですが、特別に漆掻きの技術を見せてもらえることに。
 秋本さん、まずは、カマを使って薄く樹皮を剥がしていきます。そして、樹皮を剥いだ箇所にカンナと呼ばれる道具を使って水平に小さく傷をつけていくのです。これは、「目立て」と呼ばれる最初の工程。目立てを行うことで、木に刺激をあたえ、漆の分泌を促すのだそう。最初の目立てから、4、5日置いて2回目の傷をつけ、漆をとっていきます。
 今回は、まだ傷をつけて時間が経ってないため漆はでてきませんが、実際の作業では、4、5日おいてカンナで傷をつけると、じわりと漆が出てきます。ヘラと呼ばれる道具で、傷に沿うように、出てきた漆を採取します。

 そもそも漆は、樹液より樹脂に近いもの。傷がついた時に樹脂でふさぐ役割があるのです。傷をつけられることで、より多くの樹脂が作られ、時間を置くことで、たくさんの漆を採取することができるのです。うるしの木の断面を見ると、漆が蓄えられている部分が樹皮の内側の層にあることがわかります。なので、この部分を少し残すイメージでカンナで傷をつけていかなければなりません。

 ということで、コネオさんも早速、挑戦!漆は皮膚につくとかぶれてしまうため、完全防備で行います!まずは、樹皮を剥がし、傷をつけていきます。しかしコネオさん、深く傷をつけ漆が蓄えられている部分を削り取ってしまいました。国産の漆は、職人たちの卓越した技術で集められた貴重なものだったんです!

輪島塗職人に弟子入り!塗り作業の工程

 続いては、石川県、能登半島の輪島市にいき、輪島塗職人に弟子入りします!お会いしたのは、輪島市で200年以上「木と漆」の仕事に携わってきたキリモトの七代目ご主人。

 そもそも、輪島塗は、どうやって作っているのでしょうか。
 輪島塗の工程は、大きく3つ。「木地を作る」「漆を塗る」「絵をつける」。これらの工程を、それぞれの職人さんが分業制で行うのです!
 まずは土台となる木地作り。木地作りは、型となる木材を「ロクロ」と「カンナ」などを使い、木地職人が作っていきます。使用する木材は器によって変わりますが、ケヤキやヒノキ、スギなど。
 そして、次は木地に漆を塗っていく漆塗りの工程。実は塗るだけでも多くの工程があるんです。輪島塗は、何層にも重ねて漆を塗られているため、塗る前の木地と比べると、厚みが違うのがはっきりとわかります!中でも輪島塗の丈夫さを生み出す秘密が、「布着せ」と、「一辺地付け」から「三辺地付け」までの下地塗りの工程。

 まずは「布着せ」を見せてもらいます。漆と米糊を混ぜたものを、寒冷紗という綿の布などに塗っていきます。そして、器の縁に貼り付けていくのです。布と木地を完全に密着させることで木地の耐久性と強度が増すのです。
 そして、「一辺地」から「三辺地」までの下地塗りも見せてもらいます。塗っているのは、漆と米糊を混ぜたもの。そして、ある粉を入れているというのですが、それは珪藻土。珪藻土とは、藻類の一種である珪藻の殻の化石からなる堆積物のこと。実は、能登地方は日本有数の珪藻土の産地なんです。輪島塗では、この珪藻土を「地の粉」といい下地塗りで使用しており、この珪藻土と漆をドッキングさせると非常に丈夫な下地になるというのです。一般的な漆器は、漆と砥石の粉や砂などを混ぜるのですが輪島塗では焼いた珪藻土を混ぜます。

 では、一体なぜ珪藻土を混ぜると丈夫になるのでしょうか?
 漆の研究を行う金沢工業大学の小川俊夫先生に聞くと、砂のような下地は粒子が大きいため、漆との接着面積が小さくなります。一方、珪藻土の場合は、小さな穴が空いているため、そこに漆が入って、珪藻土と漆の接着がよくなります。そのため剥がれにくい、つまり壊れにくく丈夫になるというのです。珪藻土と砂を比べてみると、確かに粒子が小さく、珪藻土の方が細かい穴が空いていることがわかります。この微細な穴に、漆が入ることでより強固な漆器になるのです。

 輪島塗では一辺地、二辺地、三辺地といって珪藻土をより細かくしていき、3回も塗ることで、他にはない、丈夫な漆器を作っていたんです。
 そして、丈夫になった器に「中塗り」、仕上げである「上塗り」を行います。この上塗りの最大の敵はチリやホコリ。 そのため、職人は、細心の注意を払いながら仕上げ塗りをするともに微細なホコリを一つずつ、手作業でとっていくのです。このような様々な工程を経て、丈夫で美しい輪島塗が作られていたんです!

 ちなみに、新品の輪島塗と使いこんだ輪島塗には、見た目にも違いが出てくるんです。新品の方は、表面がまだ凸凹していて、光は乱反射するので、目に入ってくる光が分散されて、少し光沢が抑えられたマットな質感に見えるんです。しかし、使い込んでいくと、表面が滑らかになり、強く反射された光が目に入るので、つやのある光沢に見えるんです。

「拭き漆」という漆器作りに挑戦!

 布着せや珪藻土を使う輪島塗は、高い技術が求められ、さすがに難しいため、今回コネオさんは、「拭き漆」という漆器作りの技法を習います。
 「拭き漆」とは、木地に珪藻土が混じっていない漆を、塗っては布で拭き取るという作業を何度も繰り返し、木目を生かした仕上がりにする技法のことなんです。今回は、この技法を使って、お椀、箸、スプーンを作っていきます。
 拭き残しがあると、シミのようになり汚くなるのできれいに拭くことが大切。

 早速、コネオさんも挑戦!まずは、箸を塗ってきます。塗り終えたら、布できれいに拭いていきます。続いて、スプーン、お椀も漆を塗って、布で拭いていきます。そして、一晩置いて、漆を乾燥させるのですが、乾燥させる場所は、なんと湿度は74パーセント!乾燥させるのに、湿度が高いってどういうこと?実は、漆の乾燥には、水分が必要なんです!

 漆の中には、主成分であるウルシオール、そしてラッカーゼという酵素があるのですが、このラッカーゼが水分と酸素により活性化され、ウルシオールの分子同士の結合を促します。これが無数の分子で繰り返されることで液状だった漆が固くなる、つまり硬化しているのです。そのため、漆を塗った漆器を湿風呂という濡れタオルなどで湿度を高くした環境の中に一晩置いておきます。この塗っては、固める、塗っては固める工程を5日間かけて行います。

 2日目。この日も朝から作業場で、漆塗り。そして、3日目、4日目と漆塗りを行い、最終日の5日目。あとは、漆を完全に固めるため3週間ほど、湿風呂の中へ。
 スタジオには、コネオさんが作った漆器が登場。コネオさんの作った拭き漆の漆器ですが、職人さんが、完成品を見て「十分売り物になる」とおっしゃっていました!