放送内容

第1595回
2021.10.10
かがくの里 の科学 地上の動物 場所・建物

 2014年11月、初めて訪れたこの土地は水はけが悪く、農地に向かない荒れ地でした。
 そこに、科学者たちと地元の方々が力を合わせ、少しずつ手を加えることによって、今では、様々な生き物たちが姿を現す、緑豊かな場所へと生まれ変わったのです。人と、自然が豊かに共生する里山づくりを目指す、長期実験企画かがくの里。
 里では今年、冬にロシアなどから日本に渡ってくるジョウビタキや、エサを加えて止まり木に止まるモズなど、様々な野鳥の姿が見られるようになりました。
 小屋に付けた巣箱では、ヤマガラが子育てを行い、6月には雛たちが巣立ちをする様子を間近で観察することができました。かがくの里が野鳥にとって、すみやすい環境になってきたのかもしれません。今後、野鳥の研究にも役立てられるよう、より観察しやすいフィールドにしたい。
 そこで、今回は野鳥観察のための水飲み場を設置。どんな野鳥が来るのかと思っているとそこには…!?驚きの鳥が!?さらに!水飲み場での観察が、科学に貢献できる!?今回のかがくの里は野鳥の水飲み場を作ろうスペシャル!

野鳥の水飲み場を作る!

 今回、野鳥観察のための水飲み場作りに協力してもらうのは、図鑑プロジェクトで野鳥撮影をお願いしている、写真家小曾納さんと、アシスタントで日本野鳥の会会員でもある宮本さん。
 小曾納さんは、水飲み場作りの経験があるそう。高さのある台の上に、水の入る器を置くと鳥がやってくることがあるそうです。水飲み場が野鳥の憩いの場となれば、いろんな鳥が集まってくれるはず!

 西野さんにも手伝ってもらいながら、まずは土台作り。地面よりも高い場所に水飲み場を作るのは、水を飲みに来た鳥たちが外敵から襲われにくくするため。 そこに水を貯める器を置き、自動で常に水が溜まっているように電池式のポンプをとりつけて紙粘土で固定していきます。そして、泥を接着剤として使い、台に皿を固定。最後にコケを周囲に飾って、自然に溶け込ませます。

 制作からおよそ2時間で野鳥たちの水飲み場が完成です!
 合計2つの水飲み場を設置!この水飲み場にどんな野鳥が来てくれるのか、期待が高まります。

水飲み場に野鳥は来る?

 翌日。果たして設置した水飲み場に野鳥は来てくれるんでしょうか?
 しかし、ウグイスの鳴き声は聞こえるものの、姿は見えず。粘り強く観察を続けたのですが、作ったばかりということもあり、警戒心の強い野鳥が姿を現わすことはありませんでした。
 1週間後。野鳥たちのために新たな水場を作ろうと、西野さんから提案が。新たにタライを使って、水浴びと水飲みの両方をできる場所を作ろうというのです。

 野鳥の羽は土埃や寄生虫、脂粉と呼ばれる白い粉などで汚れてしまうため、水浴びをします。里にはため池がありますが、もっと鳥たちが使いやすい水浴び場を作れば、野鳥たちも利用してくれるのではと考えたんです。
 早速水浴び場の製作開始!大きめの砂利を洗い、タライの中がすり鉢状になるように石を敷き詰めます。中心を深く、周りは浅くして、どんなサイズの野鳥でも水浴びができるようにします。最後に苔を敷き詰めて、タライを布で隠せば西野さん特製、水浴び場の完成です!いつ野鳥が来ても確認できるよう水飲み場と水浴び場に24時間撮影が可能な鳥には見えない赤外線の定点カメラを設置しました。

 8月初旬。早速、前日の定点カメラ映像をチェック。やはり来ないのかと、諦めかけていたその時!水飲み場に驚きの鳥が!!水飲み場を最初に訪れた野鳥はなんとフクロウだったんです!
 水こそ飲まなかったものの、フクロウの姿をカメラに収めることに成功!さらに10分後、今度は水浴び場にフクロウが姿を現したんです。水浴び場を設置したその日にフクロウがやってきて水を飲んでくれました!

 里山再生の一環として始まった、かがくの里にフクロウを呼ぼうプロジェクト。森の生態系の頂点にいるフクロウが減ると、エサとなるネズミなどが増えてしまい、里山全体の生態系のバランスが崩れてしまうといいます。
 間伐で整備された里の森は、大型の鳥が羽ばたけるスペースがあるため、十分期待はできるとのこと。そこで、2019年12月、フクロウにすみ着いてもらうため巣箱を裏山に設置。

 するといきなりその翌年にフクロウが子育てをした形跡を発見しました。さらに、巣箱のそばに定点カメラを仕掛けたところ、今年2月の映像にはフクロウが巣箱に入った姿をカメラに収めることに成功。そして、今年5月明け方5時の映像には、繁殖期を終えたフクロウのつがいの姿が。今年は、産卵を行わなかったフクロウですが、8月の水飲み場に姿を現したんです。
 1羽のフクロウが水浴び場に現れてから5分、なんとフクロウがもう1羽やってきたんです。その後、つがいと思われる2羽のフクロウは、40分以上水浴び場に滞在して、のどの渇きを潤していたんです。

水飲み場でフクロウ観察!

 かがくの里の水浴び場設置から1日目にしてさっそくやってきたフクロウ。すると阿部さんはこんな野望を抱きました。初めてフクロウが映っていたのは夜の7時頃。阿部さんは、水飲み場から約10mの所にある、野鳥撮影用のテントから、フクロウを肉眼で見たいと考えたんです。

 そして迎えた夜7時、あたりは真っ暗。蚊とも戦いながら観察開始から1時間の夜8時。スタッフが気配を感じたものの、結局暗すぎて何も見えず。そこで定点カメラの映像をチェックしてみると、なんとフクロウが来ていたんです。阿部さんたちと水浴び場の距離はわずか10mたらず。フクロウは物音ひとつ立てずに水浴び場にやってきていたんです。

 なぜフクロウの羽音が全く聞こえなかったのか?それはフクロウの羽根の構造に秘密が!
 一番外側にある風切羽、その一つ一つの縁がギザギザとした構造になっており、上下に羽ばたいても、このギザギザの隙間から空気が逃げます。更に羽ばたきによる空気の乱れが少なくなることで、飛ぶときに音がしないんです。

 阿部さんも気づかなかったフクロウの映像を、この夏は里に来ることができなかった守山先生に見て頂くことに!すると、今まで里にはため池はあったものの、野鳥たちが使いやすい水飲み場が無かったためフクロウも水を求めてやってきたのではないか?とのこと。
 撮影できたのは、あまり生態がわかっていない繫殖期以降のフクロウのつがいの可能性が高く、とても貴重なものでした。今後、繁殖期以降のつがいの姿を記録することで、新たなフクロウの生態をかがくの里で解明出来るかもしれません!