放送内容

第1605回
2021.12.19
鉄道橋 の科学 場所・建物

鉄道を支える橋。鉄道橋。雄大な景観の中でも、存在感を醸し出す迫力ある姿は鉄道ファンの間でも人気なんです。河川の多い日本では、様々な形の鉄道橋が作られ、技術の進化を感じられるのも魅力のひとつ。古いものでは明治時代に架けられて今日まで百年以上現役で使われているものも!日本最高クラスの高さを誇る足がすくむ渓谷にそびえ立つ鉄道橋!そして、広大な川を渡る美しいアーチの鉄道橋。いろんな形があるのは一体どうして?その理由に迫ります。今回の目がテン!は重い列車を100年近く支え続ける鉄道橋の科学です。

無駄がなく美しい鉄道橋の形

 最初に見に行ったのは、宮城県にある第二広瀬川橋梁。水面からの高さは、なんとおよそ52m!昭和6年に架けられ、100年近く重い列車を支え続けている橋なんです。

 今回一緒に案内してくれるのは、ものつくり大学の大垣賀津雄教授。レインボーブリッチの設計、施工に携わり世界各国の歴史的な橋やユニークな橋の調査を行なっている方です。

 最初に訪れたのは、深い渓谷の上に架けられた第二広瀬川橋梁。橋梁とは、川や渓谷などを渡る橋のこと。
 鉄道橋は、人や列車などの他にも風や川の流れ、衝撃や地震といった荷重に耐えねばなりません。さらに崖や川、道路といった地形条件も考慮して、材料や構造を設計するのが橋づくりの難しさなんです。

 鉄道橋は、列車やレールなどの直接ものが載る上部工と、それを下から支える下部工に分けられます。上部工が桁。さらにそれを下部工の橋脚や橋台で支えます。このような橋を桁橋と呼び 基本的な形とされています。

 昭和6年からメンテンナンスをしながらも90年間変わることなく使われ続けている第二広瀬川橋梁。水面からの高さはおよそ52m。ハノ字の形をしたトレッスル橋脚を作り、高い位置にある桁を支えています。現存するトレッスル橋は、とても貴重なんです。

 一見、心もとなく見えるトレッスル橋ですが、東日本大震災にも耐え少しのずれもなかったと言われています。一体どのような構造が隠されているのでしょうか?
 枕木とレールを載せているのが、上路プレートガーダーと呼ばれる桁。中は空間で、軽い構造となっています。この桁、アルファベットのIの字のように、金属の板が縦向きに2枚並びます。縦に置いた方が、列車が通った時の曲げに対して強くなり、曲げに対する抵抗力が増えるんです。

ここで実験。同じ25mm×50mmの横向きにした角材と縦向きにした角材を用意。下に計測器を設置し、阿部さんに乗ってもらいどれぐらい角材がたわむのか計ります。

 まずは横向きの角材のたわみ。結果は、29.97mm。そして、縦向きの角材のたわみの結果は12.71mmと半分以下に抑えることができました。

 同じ重さの素材でも置き方を工夫するだけでたわみを抑えることができるんです。
 重い車体を支える鉄道橋には、軽くても曲がりに強くなるよう、人類の知恵が込められていたんです。

船が通る川を渡る鉄道橋

 訪れたのは、昭和六年に架設された東京にある隅田川橋梁。

 隅田川に架かる長さ166mの橋です。この橋は、鉄道橋に代表されるある特徴的なものが採用されています。それは、トラス橋という形式。トラス橋とは、三角形の性質をうまく利用した橋。

 例えば四角形の場合、横方向から力が加わると、形が変形してしまいます。三角形はどの方向から力が加わっても、形が安定しやすいんです。この構造は、衝撃を分散する目的でダンボールにも使われています。

 この場所で、トラス橋という形式を採用したのは、普通の桁橋を採用すると橋脚と橋脚のスパンを伸ばせないから。当時、鉄道橋は、シンプルな構造の桁橋の場合、スパンは通常30mが限界。より丈夫さを増したトラス橋の場合は、スパンを約60mに伸ばすことができたんです。トラス橋は、それまでの桁橋より長いスパンをとれることから、19世紀中頃以降鉄道の急速な発展とともに、世界中で架設されました。
 隅田川橋梁は両端の橋台の間にわずか2本の橋脚が立ち、全長166mの橋梁を支えています。水路も陸路も確保する、これぞまさに、インフラの架け橋!景観を損なわないように設計もされており、周囲の景色に溶け込んでいます!
 三角形が上下交互に連続して並んだのがワーレントラス。隅田川橋梁は、それに垂直材が加わったもの。他にも三角形が同士が重なるように配置されたダブルワーレントラスや、上の部分が曲線になっている曲弦トラスなど様々な形式があります。

 隅田川橋梁は、目立ちこそしませんが三角形の構造を取り入れ、船にも、景観にも配慮した粋な鉄道橋だったんです。

難所を乗り越える鉄道橋

 訪れたのは、東京秋葉原にある松住町架道橋。関東大震災の後、震災復興にあたり最新の技術が積極的に投じられた鉄道橋です。

 1932年当時、交差点は東京市電が通っており、橋脚を立てずに72mの橋を架けなくてはなりませんでした。当時のトラス橋のスパンの限界は60mと言われていました。そこで、曲げに強いアーチ型にすることでより長いスパンを確保することができたんです。

 このアーチ橋はタイドアーチと呼ばれる形式。一番下の真っ直ぐの部材のことをタイ材と言います。なぜこのような部材が使われているのでしょうか?
 タイドアーチは、アーチの橋が伸びきらないように支点同士を弓の弦に相当するタイで結んで水平にかかる反力を閉じ込めます。
 松住町架道橋は、日本で初めてこの形を採用した歴史的な鉄道橋なんです!

 しかし、さらに険しい難所を渡すとっておきの鉄道橋があるんです!訪れたのは、福島県。昭和16年に架設されたJR只見線が走る、第一只見川橋梁。阿賀野川水系只見川の本流をまたぐ全長174mの橋梁。

 スパンドレル・ブレースド・バランスドアーチという形式です。スパンドレル・ブレースド・バランスドアーチは、優美なアーチ型が特徴的な橋梁。この形にしているのは、アーチにトラス構造を組み合わせることで、橋脚を設けずとも、120mもまたぐことが可能になるから。
 ちなみに、スパンドレルとは、スミの部分のこと。そして、ブレースは筋交いの意味。垂直材に対して斜めに部材を入れトラス構造にすることで、強度を高めているんです。

 実はここにも鉄道橋ならではの工夫が!斜めの部材がハの字の場合、桁がたわんで変形したとき、斜めの部分が圧縮する力を受けます。すると、座屈と呼ばれる折れ曲がる現象がおきるリスクがあります。逆ハの字にした場合は、反対に斜めの部分が引っ張られる力を受けます。鉄は引っ張る力に強い性質を持つので、たわみを抑え、折れ曲がるリスクを軽減していたんです。

 スパンドレルブレースドアーチはどれほど丈夫なのか?ここで実験です。アーチとトラスを組み合わせたスパンドレルブレースドアーチの模型を作り、そこに、重りをぶら下げ、何kgまで耐えられるかを計測。この橋自体の重さはなんと約30gです。

 台の重さを含めた3.28kgからスタート。おもりは一つずつ載せていき、10kg、そしてなんと20kgも突破!結果は、驚異の29.2kg! アーチがない、一般的なトラス橋と比べると、最大荷重を自重で割ったスパンドレルブレースドアーチの自重倍数は964。およそ1000倍の重みに耐えるという結果になりました!

 私たちを魅了する鉄道橋の美しさは、より重いものをより遠くへ架け渡すために考えられた答えが、形となって現れたものだったんです。