第1607回 2022.01.09 |
かがくの里 の科学 [座談会] |
場所・建物 総集編 |
人と自然が豊かに共存する里山づくりを目指す長期実験企画、かがくの里!2021年12月中旬。収穫祭から1カ月が過ぎた年の瀬。2022年、かがくの里も8年目に突入するということで科学者たちが集結!
今回は先生方と、かがくの里の取り組みを一挙に振り返る特別企画!果たしてどんなトークが繰り広げられるのか?
かがくの里、科学者たちの座談会スペシャルです!
自然循環養殖と貴重な水生昆虫
最初に振り替えるのは池。里のため池で実験を始めたのは、魚養殖の専門家、千葉先生。
8年前。放置され荒れた土地を田畑にするため、農業の専門家松村先生指導の下、地元土木業者の力を借りて土を掘り返すと、出てきたのは水捌けが非常に悪い粘土質の土。
土壌改良のため、松村先生が用意したのは、3tものたい肥。オガクズやもみ殻が混ざったたい肥を、土にすきこむことで水はけがよくなるといいます。こうして荒れ地から作物を育てられる環境になったんです。
そんな田畑作りと同時に取り掛かっていたのが農業用水の確保。田んぼの横に大きな穴を掘り、山で水源を探し、見つけた湧き水を山の傾斜を利用して池までホースで引きこみました。最初は生き物などいるはずのない完全な人工の池だったんです。
その年の夏、池で養殖ができないか?ということで、2015年秋にお呼びしたのが魚養殖の専門家、千葉先生。ただ穴を掘っただけのため池で、魚が育つのか?ともあれ千葉先生は念入りに池を調査。実は里の池、田んぼの水が流れ込む仕組みになっています。これを見た先生には一つのアイデアが浮かんでいました。それが、自然循環型の養殖!
田んぼの土は、たい肥などが混ぜ込んであるため、魚のエサとなるプランクトンが適度に発生すると予想。それが、池に流れ込み、エサを与えずとも自然循環で魚が育つと考えたんです。その年の冬、先生は池の土や田んぼの土を採取。すると春、ねらい通り里の環境では魚のエサとなるプランクトンが適度に発生すると判明。ということでドジョウやホンモロコを放流してみました。
すると、その年の収穫祭で、エサを与えずほったらかしで、大きく成長したドジョウとホンモロコ。翌年には、繁殖までしていました!この里の池のポテンシャルなら、ウナギだって育つかも!そんな発想から、今や一大プロジェクトに成長したウナギ養殖につながっていったんです。
そして、田んぼから豊かな栄養が流れ込み、プランクトンが大量発生する里のため池。そこにはいまや絶滅が危惧されるような昆虫が姿を現し始めました。
環境省のレッドリストに準絶滅危惧種と指定されているコオイムシや、地域によっては準絶滅危惧種に指定されているミズカマキリ。そして、絶滅危惧Ⅱ類のミズスマシや、同じく絶滅危惧Ⅱ類のタガメまで!絶滅危惧種の水生昆虫がたくさんすみつく池、生物が自然な状態で生息している、いわゆるビオトープになったんです!
昆虫の専門家斉藤先生によると、タガメやミズスマシなどにとって、かつては日本のそこかしこにあった農業用のため池は、すむのに“ちょうどいい環境”だったよう。つまり絶滅危惧の生き物たちも、こうした環境が再生できれば再び戻ってくる。里のため池は、そのことを証明してくれているんです。
ニホンミツバチがもたらす恵みと自然循環
2018年の春。里に仕掛けておいた巣箱に、野生のニホンミツバチが入ったことで、ニホンミツバチの養蜂がスタート。すると、かがくの里のテーマソング「忘れられた梅の木」でうたわれている、里の梅の木。それがたくさん実をつけるようになり、2021年には、ミツバチなどが媒介しないと受粉しにくいスモモが大量に実っていました。ニホンミツバチが花粉を集める中で、果樹が受粉し、いろんな果物が見事に実るようになり、そしてもちろん、ハチミツもたっぷり。
ミツバチの専門家小野先生は、受粉が、梅の実り、スモモの実り、クリの実りの生産に繋がり、一方裏山では、自然の生態系の基盤となる植物の繁殖にミツバチが活躍している。ニホンミツバチプロジェクトを通して検証できたところはすごく大きいといいます。
里の花、果物、ハチミツ、ミツバチたちは、まさに自然の循環を示してくれていました。
里山を間伐!するとフクロウがすみついた!?
里の裏山の木を伐って間引く整備。そのキッカケは、今から6年前、ある生き物が現れたことにありました。それはイノシシ!実際里の畑には、山から下りてきたイノシシが荒らした痕跡が。
イノシシの専門家、山本先生によると、里のすぐ裏が密林になっており、それが奥山まで繋がっている。すると、イノシシが奥の山から里のすぐ近くまで人目に触れず降りてきてしまうといいます。こういう里山の変化もイノシシが里の近くまで降りてきやすくなった原因だと言われています。そこで、阿部さんがチェーンソー講習を受け、地元森林組合指導の下、裏山の間伐を始めました。
実はこの時出会ったのが、地元の林業家、西野さん。最近かがくの里の全てにおいてお世話になりっぱなしの里山の達人です。
西野さんたち林業家の皆さんの指導と、阿部さんの頑張りで、たくさん出た間伐材は、木材利用の専門家、村田先生と共に、机にしたり、お皿にしたり、ギターを作ったり。さらに、間伐材を利用して小屋まで建てちゃいました!
こうして、間引いた木材を有効利用しながら裏山の手入れが進むと、奥山にすむイノシシが人の住む里近くまで侵入しにくくなり、一方、他の動植物にとってすみやすくなるという一石二鳥の効果が。
すると、2021年。巣箱に何度もやってくるフクロウのつがいの撮影に成功!
それだけではなく、ムササビ、タヌキ、アナグマ、リス、テンなどの様々な小動物も暮らしていることがわかりました。
江戸時代から生活資材、農業資材あらゆるものを取る場所が里山。それがエネルギー革命や肥料革命を境に利用形態が変わって放置され荒れていきました。村田先生は、社会背景が違うので元には戻らないと思うので、だとしたら新しい関係を作らないといけないといいます。人が薪や炭を使わなくなって、荒れてしまった里山。かがくの里は今後も村田先生と共に、新たな里山利用法を探っていきます!
そして、里山生物の専門家、守山先生と共に裏山に置いたフクロウの巣箱。その後フクロウのつがいや数々の小動物を撮影できました。
守山先生は、ここで農業や様々なことをやっている時に、同時に生き物が何をしているのか?を見れると、自分たちがいる環境のお隣が見れてすごく親しみが湧く。自然というのは、敬意を持って遠ざけてしまうきらいがあるが、親近感を持つ、親しみを持って近しい関係でいるっていうことが大切といいます。