第1610回 2022.01.30 |
人類はこう作った!古代パン の科学[後編] | 食べ物 物・その他 |
人類はもともとどんなパンを食べていたのか?
目がテン!が発明の原点に立ち返る、人類はこう作った!発見された中でもっとも古いフワフワのパンは古代エジプトで作られたものでした。そこで、石田さんと都丸さんが当時の方法でパン作りに挑戦。
前回は、都丸さんが石を使って小麦粉を作り、石田さんは粘土を掘り出し日干しレンガを作成。そして、今回はそのレンガを使ってかまどを作り、ふんわりパンに欠かせないあるものをイチから作ります。
いよいよ古代パン作り後編!果たして完成するんでしょうか?
日干しレンガでかまど作り
日干しレンガ76個を完成させた石田さん。
続いての指示は、「日干しレンガを組み合わせる」。
現代のようなパン釜は古代エジプトでは確認されておらず、直火で焼いたり、インド料理に使われるタンドールのようなモノで焼いていたと考えられています。
そこで今回は、作ったレンガを組み合わせて古代エジプトのかまどを再現します。
基礎のレンガを並べたら、互い違いになるようにレンガを重ねていきます。さらに、いくつかのレンガを半分に割って使います。現場で簡単に加工できるのも日干しレンガの利点。
日干しレンガで骨組みができたところで、続いての指示は、「かまどの内側に粘土を塗る」。
まずは、粘土を砂と水で練り合わせます。そして、かまどの内側の隙間を埋めるように、貼りつけていきます。黙々と作業をすること1時間。内壁が滑らかになり、ぐらつきもだいぶん抑えられました。
最後の仕上げは、かまどでたき火をして土を完全に乾燥させます。4週間に渡ったかまどづくりが完結しました。
フワフワパンの秘密“酵母”を作る
日干しレンガを乾かしている間に行っていたのが、「酵母を作る!」。
酵母は原料の糖を分解して、アルコールと二酸化炭素を発生させます。この、酵母が出した二酸化炭素がパンをスポンジ状の構造にし、フワフワの食感を生んでいるんです。
その大切な酵母を作る最初の工程が、「容器を熱湯で殺菌する」。
そこで火を起こして、水の入った鍋をセット。沸騰したら、瓶を煮沸消毒します。古代エジプトで酵母を作る容器を消毒していたかは不明で、ガラス瓶ではなく土器を使っていましたが、今回は観察しやすくするためにガラス瓶を使います。
煮沸消毒ができたところでレーズンとデーツを容器に入れます。レーズンやデーツの表面には元々、野生の酵母菌が付着しています。それを増やしていくのです。
ちなみに、デーツとはナツメヤシともよばれ、エジプトでよく取れる果物。濃厚な甘さが特徴です。記録が残っているわけではありませんが、今回はレーズン60g、デーツ15gを瓶の中にいれました。そこへ水を240ml注ぎます。
その後は、フタをして暖かい場所で保管。1日3回フタを外し空気を入れ替え、フタをして中身を混ぜます。泡が出てくるまでこれを1週間繰り返します。
今回は瓶を6つ用意しましたが、6つの瓶のうち、2つを石田さん、4つをスタッフが管理することに。
スタッフが持ち帰ったビンは、付着していた酵母が果物の糖を食べてどんどん増えていきます。その証拠に6日目で果物が浮かんできました。さらに、泡が出ています。これは酵母が出している二酸化炭素。この働きこそがふんわりパンを作る最も大事なポイント。スタッフの酵母は順調なようです。
一方、石田さんが管理していた酵母は、2つのうち、1つにカビが生えてしまいました。これは、空気を入れ替える時に雑菌が入った可能性があるそうです。
古代エジプトのフワフワパンを焼く
小麦粉と酵母、そして、かまど。パン作りに必要な材料がそろいました。そして、パンを作るためには小麦粉などの状態を見極める必要があるため、工学院大学の山田先生に現地で監修をお願いしました。
まずは、都丸さんがサドルカーンを使い作った小麦粉。皮がいっぱい入っているとコネてもつながらないのですが、この小麦粉は問題なさそうです。
そして、酵母。硬くなったフタを思いっきり開けると、ガスが噴き出しました。さらに、ワインのような香りも。酵母は、糖からアルコールと二酸化炭素を作ります。フタを開けたときに噴き出したのは炭酸ガス。それを使ってパンをつくるんです。
後日、山田先生が電子顕微鏡でこの液体を観察したところ、パン作りに適した、サッカロマイセス・セレビシエという「酵母」がいることが分かりました。
では、早速調理開始!今回は、小麦粉がおよそ400gできたので、それを2等分してパンを作ります。
石田さんはレーズンやデーツを漉しとった酵母水を使い、一方、都丸さんはレーズンとデーツが入ったままの状態でパンを作ってみます。山田先生には、酵母ありなしの比較をするため、市販の小麦粉と水だけでパンを作ってもらいました。
まずは、水と小麦粉をよくなじませ、ひとまとまりになれば次の工程へ。
この段階では、まだグルテンがつながっていません。そこで、押しつけてコネるを繰り返します。
小麦粉に水を加えてこねると、その中の2種類のタンパク質がくっついてグルテンを作ります。グルテンは網目のような構造をしていて粘りや弾力があり、繰り返し押し付けてコネることで強い網目構造を持ったグルテンが作られるんです。
そして、できあがった生地は30℃の場所で一時間半寝かせます。すると、酵母菌が生地の中で活動を続け二酸化炭素を出します。この工程を発酵と言います。
寝かせた後の生地を見てみると、酵母を加えなかった先生の生地よりも、2人の生地の方が大きく膨らんでいることが分かります。
生地の中で酵母が活動を続け、小麦の糖から生み出した二酸化炭素がグルテンを風船のように膨らませたからです。これに熱を加えれば風船の形のまま固まり、ふわふわの構造ができあがるのです。
今回作ったかまどは、パン生地を薄くのばし、かまどの内側に貼り付けて遠火の熱で焼き上げます。そのために、パン生地も薄く丸くしました。
それでは、パン生地をかまどの内側に貼り付けていきます。パンを焼くと、二酸化炭素が膨張、アルコールが気化しさらに膨らんでいきます。
焼くこと15分、パンが焼きあがりました。酵母入りのパンはよく膨らんでいるように見えます。
気になる味ですが、まずは石田さんのパン。粘り気があり、美味しいとの感想。そして、果実ごと練りこんだ都丸さんのパン。これには先生も、ちゃんとしたパン。ベリーの風味が良い!これが一番おいしい!と大絶賛。
ちなみに発酵させていない先生のパンは、酵母が入っていないので固く、風味もありませんでした。酵母入りのパンの断面はスポンジ状の構造がはっきりと見られますが、酵母なしのパンはミチミチに詰っているように見えます。
これにて4週に渡った古代のパン作り完結です!
スタジオでも所さんが古代エジプトパンを試食して大絶賛でした。