第1611回 2022.02.06 |
冬の動物たち の科学 | 地上の動物 水中の動物 |
今回注目するのは、寒さに強く、冬しか見られない姿を持つ「冬の動物たち」!
極寒の中でも、なぜ平気でいられるのか!?北海道旭山動物園で観察してみると、寒さに強い動物と苦手な動物には、体表面温度に違いが!?そして、ある貴重な野生動物を探しに北海道霧多布岬へ!冷たい海で生きる、貴重な姿とその驚きの生態とは?
今回の目がテン!は、知られざる魅力がいっぱい!「冬の動物たち」の科学です!
寒さに強い動物のヒミツ
冬ならではの見どころを教えてくれるのは、旭山動物園園長の坂東元さん。元々は獣医師としてこの園にやって来ましたが、飼育にも携わること35年。ボルネオ島の野生動物保護活動にも取り組み、あらゆる地域の動物を観察してきました。
冬の動物の魅力!まずは、夏と冬でガラッと姿が変わる 動物たち!
最初に登場したのは、北極圏に住むホッキョクギツネ。
極地に適応しているのでマイナス60℃でも耐えられます。モコモコの毛と、寒さに備えて蓄えた脂肪で、むっくりとしていますが、夏の姿を見ると、同じ動物とは思えないほど、ほっそりとしたスリム体型!夏毛は地面に似た灰褐色、冬毛は雪に紛れる真っ白の保護色になるんです。
お次は、北海道にのみ生息しているエゾシカ。
フサフサした濃い茶色の毛で、葉が落ちた茶色い木の幹に紛れる冬の保護色です。そんなエゾシカの夏の姿は、明るい茶色に白い斑点模様。これは森の中でところどころ差し込む「木漏れ日」に紛れる保護色なんです。
そして、雪の日にぜひ探して欲しいのがエゾユキウサギ。夏は全身茶色の見た目ですが、冬になると、雪の色と同化しすぎて、お客さんに気づかれないことも多いそうです。
冬の動物の魅力!続いては、冬に活発になる動物たち!
動物園のアイドル、レッサーパンダ!
夏は暑さに負け、ほとんど動きませんが、冬は雪の中で大はしゃぎ!もともと、寒冷地に住んでいるので、冬は雪の中転がりまわるんです。
さらに、夏は休みがちなホッキョクグマも、氷が張り、エサとなるアザラシが捕まえやすくなる冬は、活発に動き回るそうです!他にも、中央アジアの山岳地帯に住むユキヒョウも、雪の中を動き回り迫力の姿を見せてくれます。
でもなぜ、寒冷地に住む動物たちは、この寒さの中でも平気なのでしょうか?
坂東さんによると、寒いところの動物は、冬毛に衣替えし、体を保温する能力に差があるため、体の表面にどれだけ熱が出てきているか見れば違いが見えてくるかもしれないとのこと。
そこで!サーモグラフィーカメラを使って、いろいろな動物たちの体表面温度を測ってみます!
まずは、キリン!サバンナなどに生息し、寒さに適した動物ではありません。測ってみると、体表面温度は18~20℃。同じくサバンナなどに住むライオンの体表面温度は17~22℃でした。
では、ライオンと体格が同じくらいの、ロシア東部の寒冷地に暮らすアムールトラはどうでしょうか?測ってみると、体表面温度は、1~5℃。さらにホッキョクギツネも測ってみると4~5℃!寒さに強い動物は、苦手な動物に比べて、体表面温度が低い、という結果に。
体表面温度が低いということは、体温が外に逃げていないという証拠。キリンやライオンは、体表面温度がかなり高く出ているため、体温が外に逃げているということになるんです。
寒冷地の動物たちは、モコモコの冬毛などで、保温能力に長けていたんです。
ペンギンは凍傷にならない?
旭山動物園の人気者、ペンギン!目の上の、眉毛のような羽が特徴のイワトビペンギン。水中からのジャンプが得意なジェンツーペンギンなど、園内には4種類のペンギンが暮らしています。
そして雪が積もったときだけ見られるのが、冬の風物詩、「ペンギンの散歩」!
毎日30分、園内を500mほどお散歩。ペンギンの足が傷つかないよう、地面が雪で覆われる12月下旬から3月下旬頃まで行われます。本来餌を求め、何kmも歩く事があるペンギンの習性を生かし、運動不足解消に行っているんです。
歩きたいペンギンだけ歩く自由参加型ですが、主に歩くのは南半球の寒冷地に暮らすキングペンギン。基本的に集団行動するため、一部のペンギンが止まると全体止まれになることも。
そんな散歩を見ていて、ギモンが。足は、毛が生えておらず、言わば裸足状態!なぜ凍傷にならないの?
散歩以外の様子を見ると、雪の上に立ったまま10分経っても微動だにしません。足の体表面温度は、3~5℃。かなり低い温度になっています。
実は、ペンギンの足には、「ワンダーネット」という血管の構造があります。動脈の周りに、静脈が網目状に巻き付いており、心臓から送られる温かい血液と、末端から戻ってきた冷たい血液の血管同士が触れ合っています。この両者がすれ違うとき、温かい血液は冷やされ、冷たい血液は温められ、互いに熱交換が行われます。これにより、末端で冷えた血液がそのまま心臓に戻ることを防ぎます。さらに、末端に向かう血液をあらかじめ冷やしておくことで、雪や氷に足が触れてもほとんど熱が奪われません。
人間の場合は、温かい血液がそのまま流れているため、冷たいものに触れると熱を奪われないよう、毛細血管が収縮して末端の血流を抑えます。この状態が長く続くと、酸素などが行き渡らず、組織がダメージを受けるとともに、血流が途絶えると凍り、凍傷になります。
一方、ペンギンの足は、すでに冷やされた血液が流れているため、毛細血管の収縮が起こらず血流が滞りません。低温でも血流があるため凍ることもなく、凍傷にならないんです。
哺乳類や他の鳥類にもある程度の熱交換システムは備わっているけれど、極地に暮らすペンギンなどには、より高度なものが備わっている上に、足など露出部分はそもそも基礎的な代謝が低く、低温でも組織を維持できるようになっていると考えられるそうです。
体毛や羽毛だけでなく、血流でも寒さから身を守っていたんです。
北海道で野生のラッコ発見!?
旭川から北海道を東に横断してやって来たのは、厚岸郡浜中町にある、霧多布岬!太平洋に突き出たこの半島には、ある貴重な野生動物が生息しているんです。しかし、目撃できるかは運次第!その命運を背負い、やって来たのは、芸歴11年目、ピン芸人のベルサイユさん!今回、野生動物探しをサポートしてくれるのは、北海道大学厚岸臨界実験所特任助教、鈴木一平先生です。
ここで見られる野生動物とは、ラッコ!毛皮目的の乱獲などにより、数が激減した絶滅危惧種ですが、2016年頃、霧多布岬周辺に定着していることが確認されました。ここは、日本で陸から野生のラッコが見られる、珍しい場所なんです!
それでは、スタッフ全員がカメラを持ち、野生のラッコ、捜索開始!見つけることはできるのでしょうか!?まずは、岬の根本付近の海岸をチェック。すると、なんとわずか3分であっさり発見!
お腹に石らしきモノを置いて貝を叩き割る、おなじみの仕草!さらに、高級食材としても知られる根室名物の花咲ガニ!手や口でちぎって殻ごと豪快に食べています。冷たい海で暮らすラッコは、エネルギーをたくさん必要とするため、食べる量も多いんです。そのため、生態系に影響を与えることも。以前、アメリカで増えすぎたムラサキウニが、海藻を食べ尽くし周囲の生態系が崩れた際、ウニを餌にするラッコを導入すると、海藻の森が復活したという例も。ラッコは少ない個体数でも生態系に影響を及ぼす「キーストーン種」として有名なんです。
ここに暮らすラッコは、餌場を求め、千島列島のほうからやってきたと推測されています。実は、霧多布岬周辺はコンブの森がある豊かな海。ラッコの餌となる貝やカニが豊富に獲れるんです。
でも、冷たい海で寒くないのでしょうか?
先生によると、他の哺乳類は基本的に脂肪を蓄えているが、ラッコは脂肪があまりない。それでも断熱効果を得るために、毛皮の中に空気の層を作るという戦略を持っているそう。
根室市の資料館に、打ち上がったラッコの毛皮が展示されていました。ラッコは動物の中で最も毛の密度が濃く、1cm四方に15万本以上も生えているんです!
上の毛と、その下にみっしり生えた細かい毛で空気の層を作り、冷たい海でも寒さを感じず浮かんでいられるんです。
さらに観察を続けていると、沖の方からもう一頭やってきました。するとなんと目の前で交尾が!現在、日本の水族館にいるラッコはわずか4頭。絶滅危惧種に指定され、新たな個体が輸入できなくなったことで飼育下での繁殖が難しくなりました。そのため、こうして繁殖行動を見られるのは、野生ならでは。かなり貴重なことだったんです!