放送内容

第1612回
2022.02.13
三方五湖 の科学 場所・建物 自然・電波・鉱物・エネルギー

 日本各地に存在する、伝統的な農業、林業、漁業などを実際に体験し後世に残すべき日本の文化や風景を再発見。今回訪れた場所は、福井県「三方五湖」。この地域は、農林水産省が認定する日本農業遺産の一つで、水深や塩分濃度の異なる5つの湖が隣接する、独特な環境が特徴の場所です。ここでは、5つの異なる湖で様々な伝統漁が行われ、周囲を囲む里山とともに地域内で自然資源が循環されているのです。そんな三方五湖の魅力とは一体なんなのか? そして!三方五湖を象徴する伝統漁にも挑戦!
 今回の目がテンは、後世に残すべき農業遺産!三方五湖の科学です!

日本農業遺産・三方五湖とは?

 三方五湖とは、三方湖、水月湖、菅湖、日向湖、久々子湖の5つの湖の総称で、それらすべてが水路でつながっているんです。それぞれの湖は、塩分濃度、面積、水深が異なり、淡水魚、汽水魚、回遊魚など多様な魚類が生息しています。さらに、ナガブナやタモロコといった貴重な固有種も生息している湿地であり、国際的にも重要な場所としてラムサール条約湿地に登録されているんです。
 そんな三方五湖を知るためのキーワードは、「伝統漁」。調査するのは、芸歴7年目のピン芸人いかちゃん。実家は魚屋さんを営んでおり、小さいころから魚に慣れ親しんでいる今回の企画にはうってつけの方。
 早速、三方湖の漁師さんを訪ねます。お会いしたのは、三方湖で漁師をすること40年以上の田辺喜代春さん。早速、三方湖で行われる伝統漁を教えてもらおう…と思ったら、なぜか車で移動。いかちゃんが連れてこられた場所は、湖を一望できる近くの里山。実は、切り落とされたヒノキの枝を漁の道具にするというんです。三方湖で行われる伝統漁の一つ「柴漬け漁」と呼ばれる漁は、ヒノキの枝を束ねて湖に沈め、枝の間に隠れたテナガエビや小魚をとるんです。林業を営む人から譲りうけた、捨ててしまう枝を使って行う、里山の資源を生かした漁なんです。

 さらに、湖周辺の自然資源を利用する伝統漁はこれだけではなく、「たたき網漁」という漁で使用する竹も近くの里山から、細長い筒を湖に沈めそこに入るウナギを捕まえる「筒漁」も過去には里山にある竹を使っていました。そう、三方五湖で行われる伝統漁は、里山とは切っても切れない関係にあるんです。
 さらに、里山と湖の繋がりは、これだけではありません。三方五湖の生物多様性について研究する、福井県立大学海洋生物資源学部富永修教授に聞くと・・・。「三方五湖周辺の田んぼは、湖と水路を介してつながっており、春になると、フナなどが湖から遡上して田んぼで産卵をします」と言います。田んぼは水深が浅く、多くのプランクトンが生息するため、魚の繁殖に適した環境、いわばゆりかごなんです。
 地域の人々は、魚が遡上しやすいように魚道を作ったり、農業用の水路にシュロと呼ばれる植物を設置し、産み付けられた卵ごと田んぼに移したりなど産卵を助ける活動も行っているんです。
 さらに富永先生は、「三方五湖では森のいろんな栄養分が水の中に溶け込んで、川に流れ出し、湖の中に入っていきます。では一方的に陸から海、湖だけなのかというとそうではなく、湖にはたくさんの水鳥がいて、湖で魚を食べて陸でフンをし、湖の中の栄養をまた山に戻す。こういうつながりのなかで、物質が循環しています」と言います。
 里山と湖の自然環境が相互に作用し、循環することで、三方五湖周辺の自然が守られていたのです。

三方五湖を象徴する伝統漁!たたき網漁とは?

 日本農業遺産に認定されている「三方五湖地域」を象徴する伝統漁とは「たたき網漁」。

 たたき網漁は、全長160mの網を仕掛け、水面を竹でたたきながら、魚を網へと追い込んでいきます。冬にしか行われない三方湖の漁で、コイやフナを狙います。
 冬は水温が低いため、魚の動きは活発ではなく水底でじっとしてします。そこを竹で水面を打ち付けることで、その音に驚き、逃げるときに網にかかるのです。使用する網は、網の目を大きくしていて稚魚を逃すため、資源を守る漁でもあるんです。400年以上前から続く漁で現在、この漁を行う漁師は8人しかいません。
 それでは実際に漁の様子を見せてもらいます。まずは、網をしかける場所に向かいます。網入れは、船を動かしながら行います。船をゆっくり動かしながら、網を直線に160メートルも仕掛ける難しい作業。
 そして、いよいよ、竹で水面を叩いていきます。船を走らせながら、勢いよく水面を叩きます。水しぶきがあがるほど大きな音が。そして、仕掛けた網の端まで叩き、網を引き上げていくのです。
 すると、網には大きなフナが!さらに、大きさおよそ30センチのコイもかかっています。その後も、たくさんのフナとコイが!1回の漁で、船のいけすがいっぱいになるほどの魚がとれました。

 その後、陸に戻った、いかちゃんは、たたき網漁を必死に練習!伝統漁に挑戦するためなんと、練習はみっちり4時間も続きました!

いかちゃんがたたき網漁に挑戦!

 いかちゃん、準備を整え、いよいよ一人でたたき網漁に挑戦。ゆっくり動く船の上で、網がからまないように湖に仕掛けていきます。そして、網を仕掛け終えいよいよ竹で水面を叩いていきます。
 動く船の上で、網に沿って、めいっぱい竹を振り下ろします。大きな水しぶきをあげ、湖にいる魚を網へと追い込んでいきます。見事、網の端まで叩き続けることができました。それでは、慎重に網をあげていきます。すると、たくさんのフナがかかっています。さらに、80センチオーバーの巨大なコイもかかっていました!

 その後も、漁を続け、見事、たたき網漁をひとりでやり遂げました。
 その後、田辺さん指導のもと、調理師免許をもついかちゃんと一緒に、フナとコイの刺身を作りました。
 一般的には鯉こく、甘露煮など、火を通して食べることが多く、生の場合でも「洗い」などにして、臭みを洗い流すことが多いのですが、三方湖のフナやコイは臭みがないため、刺身でいただくんです。
 周辺のお店では、刺身や煮付け料理を提供しており、田辺さんら漁師は、注文が入ったらお店に卸しているんです。三方五湖の恵みを堪能したいかちゃんでした。